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響く  作者: 綾瀬タカ
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雨のあと

第1話ですが、プロローグのようなものです。展開はかなり遅く、どれだけ長くなるか分かりませんが、どうぞお付き合いください。

そして意見、感想もよろしくお願いします。

 テレビが関東圏の警報を解除したと告げたとき、家の真上で騒がしく降る雨が、積乱雲の早い移動とともに遠くへ行こうとしていた。

 止んでいく雨の音は、なぜだか次第にはっきりと、私の耳に響いてくる。

 孤独を恐れる心が、そうさせているのか。

 それとも、雨の音以外ここには何もないのだということを、思い知らせようとしているのか。

 


 *  *  *



 さっきの雨のあと、虹が半分だけ弧を描いているのを、私は昔見た記憶を引っ張り出して想像していた。外ではきっと、いくつかの色が混ざった虹が咲いているだろう。


「お姉ちゃん」

 姉がはっと振り返った。

「ゴミ、よろしくね」

「も〜」

 玄関の隅に置かれた袋を掴み、姉は出て行った。

 鉄筋の階段を降りていく足音が響く。私はそれに合わせて、人差し指で白い鍵盤を思い切り叩く。「レ・ド・レ・ド・レ・ド」

 繰り返される音の連鎖。消えてゆく。

 

 


 テレビは今週の天気を予想していた。今日の雨を最後に、梅雨は晴れるらしい。

 いつも外れる天気予報士の言うことだから信じてはいないが、たとえよく当たると評判の予報士が同じことを言ったとしても、私にはたいしたことではない。

 雨が降っても、雪が降っても。私には傘が必要ないのだ。

 

 ソファに置きっぱなしにしていたテレビのリモコンに腕が当たったようで、突然汚い音が大声で鳴った。


 ――うるさい!


 テレビは好きじゃない。いろんな音が重なり合って、不細工なメロディーが鳴る。人の声も、効果音も、流れる音楽も。単体では綺麗な音を奏でているのに、全てを一度に演奏すると、なぜこんなにも汚く、醜いのだろう。

 そしてテレビを消す。一瞬の静寂のあと、外からは子供の遊ぶ声と飛行機の通る音が聞こえてくる。またいつもの日常だ。

 

 



 私の部屋のほとんどを、グランドピアノが占領している。

 白い鍵盤は長い間ここにいるという存在を十分に発揮している。汚れたクリーム色がそれを証明する。

 黒い鍵盤は長い間ずっとここにいるのに、黒は黒のままだ。


「こんにちは」

 午後になって、岬さんがやって来た。

「今日はヒメヒマワリが入荷したんですよ。あんまり綺麗だったから僕も思わず買っちゃいました。これはノンさんの分」

 差し出されたヒメヒマワリを、じっと見る。岬さんはいつもの花瓶を持ってキッチンへ向かう。

「このガーベラ、3日前に持ってきたんでしたよね。もう元気なくなっちゃったなぁ」

 3日前はその綺麗さを見せつけるように咲いていたのに、赤も黄色もオレンジも、みんなしゅんとした表情をしていた。そういえば一度きりしか、水を替えていなかった。

 岬さんはガーベラを新聞紙に包み、持ってきたヒメヒマワリを花瓶に挿した。そしてグランドピアノの上の、いつもの場所に置いた。

「うん、綺麗じゃないですか。やっぱりノンさんにはこういう花がいいな」

 ガーベラの入った新聞紙を抱え、岬さんはスニーカーを乱暴に履いた。

「来週にはうちのイチオシの花が入荷するんですよ。楽しみにしててくださいね」

 鉄筋がいい調子で鳴る。「ミ・レ・ミ・レ・ミ・レ」

 確かにヒメヒマワリは綺麗に咲いている。




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