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陸ノ話『black wing』


≪残り時間25分--。残り歩数100歩-。≫


爽は義務教育も受けていない、“バカ”なりの小さな脳をフル回転させて、百歩以内で宿舎へ行く方法を考えていた。…が、全くその方法が浮かばないまま、ゲーム開始から早くも五分を過ぎようとしていた。


『…ヤベェ…。時間が…。』


…“見えない”ということは、人を呼んで、自らは一歩も歩かず、人に運んでもらうことが出来ないということ…?…いや、元々こんな闇の中で人なんか見つけられるはずもない。


…ならば何の為に爽を他の人間から見えなくしたのだろうか?


『…今、俺が誰にも見えねぇんだったら、バイクとかあったら簡単にパクって宿舎まで行ける…よな…?…そうゆう事なのか…?何か、周りに乗り物は…。』


爽は辺りを見回したが、乗り物どころか建物すらもなく、見えるのは闇ばかりだ。


『やっぱ…何も無ぇよな…。』


迂闊に動けば歩数を使ってしまう為、爽がその場で立ち往生し、必死に策を考えていた時の事だった。


闇に覆われた…空(?)の方から、


《ゲアァアッ…!!ゲアアッ…!!》


と、鼓膜を突き破るような、何かの生物の鳴き声がした。


『なっ…なんだ…?』


空が闇で覆われている為、最初、その姿は確認出来なかったが、その生物が空からゆっくりと現れ、姿を現したとき、爽はその生物の正体を悟った。


『---鳥-?』


…それも尋常なサイズではない。


闇の中、赤く光る眼球だけでも爽の頭ぐらいはあるだろう。


『何だ…コイツ…ッ!!…でけェ!!』



その姿は鳳凰ような…、はたまた闇に紛れるその黒い体は、巨大なカラスにも似ていた。全長は軽く10メートルを越えているだろう。


『…天変地異でも起こらねぇ限り、こんな異常な生物…生まれねぇぞ…。』


呆然としている爽に、“バカ”なりの“バカ”な発想が浮かぶ。


『コイツ…捕まえて宿舎まで飛んで行けねぇかな…?そしたら歩数も使わないで行けるし…でけェし、恐ぇけど…。…やって見るか…。百歩以内で!!』


《ゲアッ!!グァアッ!!》


慣れない構えで刀を構える爽に対して、巨大鳥は威嚇の姿勢をとった。


『覚悟しやがれ…。…ギリギリ飛べるぐらいに、半殺しにしてやるっっ!!』


そう言って爽は巨大鳥の顔面に素早く切りかかった。


『1…2…3…おらぁっ!!』


出来るだけ歩数を節約するため、少し跳ね気味に近づいての攻撃だったが、巨大鳥はそれをヒラリと躱すと上空に飛び上がり、空を旋回し始めた。


『クソッ…!!やっぱ歩数の事を考えてたら、当たる攻撃も当たんねぇ…!』


《ゲアァアァアアアッ!!》


そう言って爽が刀を構えなおしたその時、巨大鳥が奇声を上げ、空を切るように爽に向かって急降下した。


『来るか…!!』


〈ヒュンッ!!〉


巨大鳥は急降下した後、爽の体なんて一瞬で切り裂けそうな巨大で鋭利な爪で爽に襲いかかったが、爽はそれを暗闇の中、たまたま見つけた岩場に隠れ、攻撃をやり過ごすと、すぐに岩場から飛び出し、岩をえぐり取ろうとする巨大鳥の足を強く斬りつけた。


《ゲェアアアアァァッ!!》



足を斬りつけられた巨大鳥は、奇声を上げて一瞬フラついたがすぐに持ち直し、大きく羽を広げたかと思うと、再び爽に威嚇の姿勢をとった。


『…クソッ!!…一撃じゃダメだな…。…何度も同じ所を斬り刻むか…?…いや、急所を狙う!!…殺さない程度に弱らすには…。あの場所しかない!!』


《ゲアアアッ!!ゲアァッ!!》


『…なっ…!?』


爽がもう一度巨大鳥の前で刀を構えると、巨大鳥はその広げた羽を大きく羽ばたかせ風圧を起こし、爽の動きを止め、斬られた方の逆の足で爽の体を掴み、捕食しようと嘴へと運んだ。


『…なんてな…、わざと掴まれてやったぜ…。これで、“歩数が節約出来た”…!!…お前の頭の近くまで行く歩数が!…俺が狙うのは---、…てめぇのそのバカデカい目玉だっ!』


すると爽は巨大鳥に掴まれたまま、刀を巨大鳥の目玉に向けた。


『…飛べ!』


爽が叫んだ瞬間、刀の刀身の一部が欠け、その部分が桜の花びらに変わり、それが一直線に巨大鳥の目玉に向け飛んでゆき、眼球に突き刺さったと思うと、それが爆ぜ、目玉と共に飛び散った。そしてその数秒後、刀は元に戻った。


《ゲェアアアアァァアッッ!!》


『や…やったか…?』



爽は掴まれていた巨大鳥の足の力が緩み、地面に落ちた。


『…痛っ!』


巨大鳥は悶え、右往左往している。


それを見て爽は、出来るだけ歩数を節約しながら巨大鳥に近づき、首に刀を突きつけた。


『おい、お前!…トドメはささないからちょっと宿舎まで乗せてってくれよ。』


《ゲ…アッ!!ゲアアッ!!》


巨大鳥は少し震えながら足を曲げ、爽に背中を差し出した。


『なぁんだ…すげぇものわかりがいいじゃねぇか。さっきまでの威勢が嘘みたいだな!!ま、いいや。…とりあえずこれで宿舎に行ける…!…よっしゃ!飛べ!カラス丸ーっ!(勝手に命名)』


《残り時間15分---。残り歩数34歩---。》



『---にしてもよ…、俺、どうやってこの刀から桜を出したんだ…?…やべぇ…あの時何か出せる様な気がしたから適当にやったけど…。』


爽は巨大鳥(カラス丸?)に乗り、宿舎へと移動する中、そんな事を考えていた。


『ま…また出せるかな…?………飛べっ!』


爽は刀を頭上に向け叫んだが、何も起こらなかった。


『…恥ずかしい…。…何も出ないのに叫んだ自分が恥ずかしい…。…他人から見えなくてよかったぜ…。それに今、空だし…って、ん?…あれは…。』


…そんな事をしているうちに爽は、米粒ほどの大きさだが、宿舎が見える位置にまで来ていた。幸い宿舎には電気がついていたので闇の中光り輝き、場所はすぐわかった。


『時間は---、…あと7分っ!…大丈夫だ!…歩数もまだあるっ!いけるっ!!』



…そして宿舎にもだいぶ近づき、宿舎まであと200メートル程に近づいた時だった。


〈タアァン!!〉


巨大鳥の胸を一つの銃弾が貫く。


『……な…っ…!?…カラス丸っ!!』


更にその銃弾は驚くことに、分厚い皮を突き破り、正確に巨大鳥の心臓を撃ち抜いていた。


そして飛ぶことのなくなった巨大鳥と共に、爽は地面へと落下する。


『…うっ…うああぁあ!?』


〈ズシィィィイン!!〉


勢いよく地面に叩きつけられた巨大鳥は、自分の体重でグチャグチャに潰れた。


…しかし爽は、持っていた刀の刀身が全て桜へと変化し、それが爽を包み込み、クッションとなって助かった。


『…助かった…のか…?…なんだこの桜…俺が、やったのか…?』


爽はその行為を無意識におこなったらしい。おそらくさっき巨大鳥の目を爆破したときもだろう。


『…クソっ、一体誰が…俺を撃った!?…俺は人から見えない筈なのに…。……いや、違う。コイツだ!…俺が見えなくても、この鳥が見えたから撃たれたんだ!!…宿舎を襲われると思ったのか?…ちょっとかわいそうだな…。』

 

爽は桜が戻り、刀身がなおった刀を握ると、ゆっくりと立ち上がり、宿舎を見つめた。


『仕方ねぇ…撃った奴は誰かしらねぇけど…。とりあえずそいつとライトを殴りに…行くか!』


《残り時間6分---。残り歩数30歩--。宿舎まで200m---。》

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