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肆ノ話『王』


爽達がうっすらと道が見える闇の中を数十分歩いた時だった。


数メートル先に、提灯のような灯火がちらほらと見え始めた。


『明…るい…。』


長い間、暗闇を見続けてきた爽にとって、その小さな灯りは太陽にも見えた。


「着いたぞ…此処が、地獄の王、璃庵(リアン)様の城だ。」


エシが言うと同時に、提灯の灯りが大きく広がり、その灯りで目の前にひとつの和風の大きな城が浮かび上がった。


『しゃち…ほこ…だと…?』


「どこを見ている?入るぞ。爽。」


『おっ…おう…!』




エシが城を見上げると、城と大きな扉がギシギシと音を立てながらゆっくりと開いた。


中に入ると、さっきまでとても闇の中にいたとは思えない、明るい空間がひろがっていた。


そしてその空間の中央にある、7~8人なら並んで上れるであろう大きな階段を数百段も上った時だった。


「おい…爽、決して璃庵様には無礼の無いようにな。」


『………?』


だが、爽にはまだその言葉の意味は分からなかった。


そして数分後階段を上り終え、爽達は天守閣の部屋へたどり着いた。


すると、着いてすぐに


「璃庵様、301人目のライフ・メーカーを連れてきました。」


と、エシが跪いて言った。


そしてその少し後に、爽もぎこちないそぶりを見せながら跪いた。



「…ご苦労だったな、エシ。」



遠く、暗くて見えづらい部屋の奥から璃庵と思われる男の声がした。


「…はっ。」


と、一言言うと、エシは立ち上がり、一度礼をすると、部屋を出て行った。


エシが出て行くと、男は暗い部屋の奥からゆっくり爽の方に歩み寄りながら言った。


「爽…俺が地獄の王、璃庵だ。…よろしくな。」


そう言って男は跪く爽の目の前に手を伸ばした。


それを聞いた爽が璃庵を見上げた時、爽は驚愕した。


『…ガ…ガキ…ッ…!?』


どうみても爽の目の前に立っていたのは、小さめの白いコートを羽織った、幼稚園児ぐらいの幼児だった。


「ガ…キ…だと…??てめぇ…。」


『…あっ…!』


(“爽、決して璃庵様には無礼の無いようにな。”)


この瞬間爽は、あの時の言葉を思い出し、それと同時にその言葉の意味を知った。


『あっ…あのっ…!すいません……。』


「お前…何歳だ…?」


『えっ…?あぁ……17…歳…です…。』


「なんだ、やっぱりお前の方がガキじゃあねぇか。俺はこの世界で500年生きている。そして死んだ歳が5歳。つまり、俺は505歳だ。」


『ごひゃっ……えぇっ!?』


「ふん、…驚くのも無理ないか…。…どーゆう訳か、この世界では、死んだ時から歳はとらないし、成長もしないみたいなんだ。だから俺はここで500年も生きてる。…なんせ王だからな。」



『でも…500年前の人にしては、話し方は少し今風なんだな。』


「うっ…うっせぇ!…そっ…そりゃあ最新を取り入れねぇとよ…?…って…何どさくさに紛れてタメ口使ってんだぁ?あぁん?」


『あっ…すいません…。』



「…まあともかくだ、爽、お前のライフを見せてくれないか?」


『どっ…どうぞ…?』


爽はずっと右手に握り締めていた刀を璃庵に渡した。


「…うん。いい刀だな。」


璃庵は、刀を色々な角度から見つめた後、爽にそっと刀を渡してこう言った。


「いいか爽、ライフってゆうのはな、その名の通り、命、生命なんだ。この武器、ライフは生きている。…だがライフは自分の命を糧にして発動しているんだ。…この意味が分かるな?…そう、ライフが壊されれば自分の命が無くなるのと同じで、使用者は死んでしまうんだ。いわばライフはもう一つの自分の命の様な物だ。…ライフと、自分の命は繋がっている。…それを覚えておいて欲しい。」


『この刀が…俺の命…。』


「ああ、そうだ。まあ正確に言えば、ライフが破壊されれば、死ぬというよりかは“完全に消滅する”と、言った方が正しいな。…ただでさえ一度死んでいるんだ。俺達ライフ・メーカーがもう一度死ねば、消滅の道しかない。…だからその刀、お前のライフは、命と同じように、大事に扱う事だ。」


『…わ…わかった…。…でも、それだけか…?…あんたはそれだけを言う為に俺と会ったのか?…他の、ライフ・メーカーにも、これだけの事を言う為だけに会ったのかよ?』


「…いや、もう一つ、言わなければならない事がある。」


『…それって?』


「…それは、お前のその刀、そのライフの名だ。」


『ライフの…名前…?』


「ああ。…いくら武器といえども、ライフは個人特有の物だ、それ故にライフには名がついている。…例えば俺のライフの名は幻想ノ箱《The box of the fantasy

》だ。…能力は…言う必要はなさそうだな。…まあ俺の場合は特殊で、武器の形では無く、一つの小さな箱の形だけどな。」


すると璃庵はコートのポケットから、真っ黒の小さな手のひらサイズの箱を取り出すと、それを爽に見せ、またすぐにポケットにしまった。


「まあこのように武器の形をしない、特殊な形のライフもあるって事だ。覚えておけ。」


『は…はぁ…。』


「…そこで、本題だ。…俺のライフに名がある様に、当然お前のライフにも名がある。…自分の武器の名ぐらい知っておきたいだろう?…そのライフの名を告げるのが、俺の本当の役目だ。“ライフを創った”者としてのな。」


『ライフを…創った…?…あんたが…?』


「…まあこの話はまた今度してやる。……さぁ、一度しか言わねぇから聞き逃すなよ?…お前はそのライフをずっと命として扱ってくんだからよ…。」


『この…刀の名前は…??』


「…そのライフの名は…桜舞刀《The sword that cherry blossoms flutter

》だ。…その太刀筋は美しく、刀を振るたび、桜の花びらが舞う。…時にその桜は焔となり、舞い散る焔の桜が周囲を燃え散らす…。」



『…それが…俺のライフ…桜舞刀(おうぶとう)…。』


その後、爽は刀を見つめ、少しフッと笑った。

…何故笑ったのか、それは本人にも分からなかった。

ただ、その名の響きから、爽の体をゾクゾクと湧かせるものがあったのは確かだった。

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