参ノ話『地獄』
『此処が…地…獄?』
そんなものが本当にあるなんて信じられる訳も無かった。
「勿論。キミは死んだんだから。それにキミは人に不幸を与えた。地獄へ来るのは当たり前だろう。」
『…ほんとに俺…死んだのか…。』
爽はもう信じるしか無かった。ここまで全てマジックだとか、幻だとか考えていたけれど、
もうこれ以上、自分も騙すことは出来ないと思ったからだ。
『…なぁ…一つ聞いてもいいか?』
「あぁ。何でも聞いてやる。どうせこれからは私は、爽、お前と一緒に生活するのだからな。」
『………は?』
爽は耳を疑った。
たった今、自分が死んで、地獄にいるってことを知らされたばかりなのに、
その地獄で顔も分からない見ず知らずの女と一緒に暮らすなんて話、耳にも入れたくもない。
「聞こえなかったのか?お前と私はこれから、同じ家で暮らす。と、いうことだ。分かったな。」
『…何で…お前と一緒に生活しねーといけねぇんだよ??しかも地獄で!』
「それは、私がお前の専属の調教師だからだ。」
『調教師…って………。』
(待て待て待て…落ち着け俺。調教ってアレか?SM的な意味か!?)
「…違う!ったく…高校生というものはそんな事ばかり考えるから……。」
『べっ…別に変な事考えて…ッ!!………って…アレ?』
(俺、今、口に出してなかったのに------)
「どうした?心を読む事ぐらい、そんなに驚く事ではないだろう?」
『…心を…読む…って、そっ…そんな事、本当にできんのか!?』
「あぁ。容易い事だ。…お前もいずれできるようになるさ。私の調教を受ければな。」
…もう何か次元が違うような気がしてきていた。
今まで住んでいた世界とは何か違う、何か不思議なものを感じる。
この世界で、自分はこれからどうなってしまうのだろう…。
そんな不安感と共に爽は少しワクワクしていた。
『なぁ…調教って…どんな事すんだよ?』
「まぁ調教師って言ってもただの教師ぐらいに見てもいい。肩書きがそうなだけで、そこまで酷い事はしないからな。だから調教というまでの事はしない。」
『は…はぁ…。』
「まぁ主体となる事はお前を一人前のライフ・メーカーにすることだ。お前はまだ目覚めたばかりで、ライフをコントロールできていないだろうからな。」
『…そう、それが聞きたかったんだよ!ライフ・メーカー?って何なんだ?』
「そうか、説明がまだだったな。まぁ、説明はしにくいんだが……爽、お前は死ぬ前、酷く絶望していたはずだ。」
『死ぬ前っつーか、死んだ事自体わかんねーけど…死にたいとは思ったかな…。』
「そうか…記憶が消えているのか…。まぁ…それもよくある事だ。初めてライフが発動したショックで記憶を無くしたり、意識が飛んだりすることは。」
『…まぁ俺にとって記憶なんてどーでもいいや。だからそのライフって奴、何なのか教えてくれよ。』
「あぁすまない。話がずれてしまったな。…そうだな…ライフは…簡単に言えばお前のその刀だ。」
『…刀?』
爽は、小屋を出た時からずっと握っていた刀を見つめた。
「ライフは、生まれつきライフ・メーカーの素質がある者が生と死の狭間に陥った時、発動する…いや、現れる。その者の命を転生する…そう、ライフ・メーカーに転身させる為に…ライフというのは武器の用な物で、だがそれでいて、人は傷つけられない。」
『刀なのに…人が切れないのか?』
「そう。元々ライフは人を殺す為に出来ていないからな。…私のライフもそう。人は殺せない。」
『じゃあ何の為に武器の形してんだよ?意味ねーじゃん!』
「ライフ・メーカーとは悪魔払い師のようなもので、その武器で悪魔を殺し、滅する為に居るからだ。いわばライフ・メーカーは悪魔専門の殺し屋のようなものだ。だからお前の刀は人は切れず、悪魔しか切れない。そしてライフは、ライフ・メーカーが使うその武器、能力の事を言うんだ。…これで大体の説明は終わったが?まだ何かあるか?…質問なら何でも受けてやる。」
『何か…長くてわかりずれーけど…何となくは分かった!…これから俺は、この武器で、ライフ・メーカーとして悪魔を殺せばいいんだろ?…でも、悪魔何てほんとにいんのかよ??』
「あぁ。いる。悪魔も天使も、神さえも…。お前を殺したのも悪魔だからな。」
『俺ッ!悪魔に殺されたのか!?』
「…それも覚えてないらしいな。どうやら。」
『そっ…そんな悪魔とか普通に居るもんなのかよ?そのへんとかに。』
「あぁいるさ。だがそれが見えるのはライフ・メーカーの素質がある者だけだ。」
『…あっ、じゃあ、ライフ・メーカーは何の為に悪魔を殺すんだ?ってゆうか何で俺、悪魔に殺されたんだ?』
「悪魔は…神が生み出している。悪魔は食事の為に人を襲い、殺し、喰う。それを阻止する為に私達が悪魔を殺す。だが、いつかは神を殺さないと悪魔は根絶やしにできない。だから悪魔を殺し、最終的には神を殺す。それが私達の役目…そういうことだ。」
『分かった…けど…神が生み出すって…天使とかじゃねぇの?…しかもそれじゃ、神様が悪者みたいじゃねーか?神様っていい人じゃねーのかよ??』
「悪者…みたい…か。」
女は、少し間があってからそう呟いた。
『?』
「…まぁいい。話は後だ。先に1人目のライフ・メーカー、地獄の王に挨拶に行くぞ。もう目も慣れてきた頃だろうからな。」
『王がいるのか?…それじゃあまるで国だな。』
「あぁ…此処は地獄でもあり、国でもある。我々、ライフ・メーカーのな。」
『でも、俺含めて301人しかいねーんだろ??国って言えるのか?それ。』
「…王が言うには、昔、1万人ほどのライフ・メーカーがいたそうだが…神との戦争が起こり、残ったのは王だけらしい。その頃は栄えていた国も、今では地獄だ。」
『………。』
「まぁいい。王に挨拶に行く前に、私の自己紹介でもしておこうか。」
そう言うと、女は深く被っていた帽子をゆっくり外した。
黒髪の、綺麗なロングヘアーだった。肩までかかった髪をなびかせ、女はこう続けた。
「私の名前は11人目のライフ・メーカー、エシ。いかにも死人らしい名だろう?…性別は見てのとおり女だ。…女らしい話し方では無いがな。それは自分でも分かっている。…が、今日からお前は私と一緒に暮らすのだ。大目に見てくれ。これからよろしくな、爽。」
『よっ…よろしく…』
爽は、何で自分の名前を知ってんだとか…、
急に一緒に住むとか勝手に決めんなとか…、
天使とか悪魔とか神とか…正直一体コイツ何言ってんだろって思ってましただとか。
…絶対に言えなかった。
けれど、爽は心のどこかで昔、その話を聞いたことがあるような気がしていた。
そして爽とエシは暗闇の中を歩きだした。