弍ノ話『非日常的1日』
『…………。』
眩しい朝日が地面に横たわる爽を目覚めさせた。
朝だ。いつもと何ら変わらない朝だ。
ただいつもと少し違うのは爽が小屋から遠く離れた、草むらで眠っていた事。
『アレ…?何で俺こんなとこに寝て………』
爽には理解できなかった。小屋からここへは数100メートル離れている。
寝ている間、どうやって此処へ来たのだろうか?
それとも誰かに運ばれたのだろうか??
いや、まさか寝ながら此処へ歩いてきたのでは…?
色々考えたが、どれも無茶なものばかり。そんな理屈が通るはずもなかった。
そう。爽には昨日一日の記憶が失くなっていたのだ。
あの、おぞましい、恐怖の記憶を。
しかも、爽は死んだはずだ。首を引き裂かれて。
なのに何故爽は生きているのだろうか。
血なんてどこにもない。爽の服にもついてないし、
草むらにも何もない。あるのは桜の花びら数枚だけだった。
爽が重い腰を上げて、小屋に帰ろうとしたその時だった。
すこし向こうの茂みに白い影が見えた。
『…白?』
それは、白づくめの服、いや、白いコートを羽織った人に見えた。
(今、俺を見てたのか…?)
しかしすぐに爽はこんな山奥に人なんてくるはずもない。
爽は見間違いと思って、目を少し擦ると、小屋へ向かい歩きだした。
数分後、小屋に着いた爽は少し違和感を感じた。
小屋に在るはずの無い物が小屋の中に在ったからだ。
それは、ボロ布に包まれた刀の柄だった。
そう、昨日の記憶を失くしている爽にとって、それはただの違和感でしかなかった。
『こんなもん…小屋にあったっけな…?』
そう言って、刀の柄に手を触れたときだった。
『…!?』
刀の折れた刀身の部分から桜の花吹雪が舞い、小屋中に散った思うと、
その花びらが刀の刀身の折れた部分に戻っていき、その桜は刀の刀身へと変わった。
そして最後の花びらが戻った時、刀の隣に薄紫の綺麗な刀の鞘が現れた。
『嘘…だろ…?何だよコレ…マジックかよ…?』
何故だろうか。
爽は何故かその刀に懐かしさを感じた。
そんな刀に見とれている時だった。
〔ドンッ〕
と、大きな物音がした。
小屋の外だ。人がその側の壁をわざと手で叩いたような音だった。
まるで爽を気付かせる為のような。
爽は刀を持ったまま小屋を出た。
すると小屋の前には、白づくめのコートを羽織った女が立っていた。
顔は深く帽子を被っていて分からなかったが、性別は胸の膨らみで分かった。
『…さっきの…!!』
爽が驚きながら言うと、白づくめ女が急にこう言った。
「おめでとう。キミは301人目のライフ・メーカーだ。」
『……はぁ?』
何を言っているのか分からなかった。
急に目の前に現れ、謎の言葉を放った女に対して、爽は不安感を抱いた。
だが女はすぐに、続けてこう言った。
「迎えにきたんだ。さぁ行こう。私と共に。」
言うと、女は爽に右手を差し出した。
『行くって…どこへ…?』
「決まっているだろう。キミは死んだんだ。死んだら行く場所は分かっているだろう?」
『…俺が…死んだ?…何馬鹿な事言ってんだよ!もし俺が死んでたとして、俺を天国にでも連れて行く気か??』
「いや、違うな。天国じゃない。地獄さ。」
女がそう言った途端、爽の周りの小屋や森の風景は一瞬で消え去り、
かわりに何も見えなく、ただ暗い闇だけが残った。
『………!?』
一瞬の出来事で何が起きたのか、爽には全く分からなかった。
暗闇で何も見えなくなった爽は恐怖と不安感で座り込んでしまった。
『なっ…なんなんだよ…コレ…ッ!!』
今日はこんな事ばっかりだ。
全然知らない所で寝ていたし、
よく分からない刀は置いてあるし、
変な女によく分からない所に連れてこられるし。
そんな事を一人、考えていると。
『どうだ?闇には慣れたか?』
さっきの女の声がした。
暗闇で何処に居るのかは分からないが、近くに居るということはわかった。
『ここって……?』
爽が聞くと、女はフッと笑ってから、
「ようこそ…地獄へ。」
と、一言言った。