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壱ノ話『不幸』



“世界なんて…壊れちまえ”そう思っていた。


この不幸せな世界にうんざりだった。


遥瞳(ようどう) (そう)(高校2年生)は今まで

“不幸”の中に生まれ

“不幸”の中に育ち

“不幸”の中に生きてきた。


それは小さい頃から不幸だった爽にとって普通の事だと思っていた。


親が居ないのも普通だと思っていた。


だから爽はいつもニコニコ笑っていた。どれだけ不幸でも、爽は笑い続けた。

“不幸”を普通と信じて。



爽は本当に小さい頃は普通の子供だった。親もいるし、友達も沢山いる、普通の子だった。


優しい両親で、毎日楽しいかぎりだった。爽は幸せだった。


だが爽を不幸に突き落としたのはある日の事だった。


爽が5才の頃、母と父が死んだのだ。

家のガスコンロが爆発し、火事で焼け死んだ。


爽には小学生の兄がいた。

爽は兄と一緒に外で遊んでいて助かったのだ。


それで助かった-----と、言えるだろうか?


生き残ったのは両親を無くした小学生と小さな子供。


この二人で何ができるだろうか?


その後、爽は親戚の家にあずけられたが、なかなか親戚の家に馴染めず、

小学生になった爽はよく家出をしていた。

家出と言っても、小学生レベルなもので、親戚の家に近い裏山の秘密基地に隠れるとかそんなものだ。


ある日の昼前、いつもと同じ様に、爽は家出をした。

だが、その日は何か違った。爽の周りを包む雰囲気がなんとなく嫌な雰囲気だった。

こんな雰囲気は前にも感じた事がある。

そうだ。あの時だ。父と母が死んだ日だ。

あの日もこんな嫌な雰囲気だった。


だがしばらくするとその雰囲気は消え、なんとも無くなった。

爽は別にどうってことないだろうと、いつもの用に裏山へ走っていった。


爽は秘密基地で持ってきたスケッチブックに絵を書いて遊んでいた。

爽にとって絵を書くことはすごく夢中になるらしく、気づけば夜になっていた。


すると爽はいつも夜7時ぐらいになると裏山に爽を探しに来て、叱りに来る親戚のおじさんを探した。

だが今日は探しに来なかった。どれだけ待っても。


8時になった。まだ来ない。


9時になった。まだ来る気配も無い。


さすがに爽も、これだけ家出してるから呆れられたのかなと思い、家に帰ってみることにした。

家についた爽は、シンと静まる家に違和感を感じた。


いつもならこの時間は親戚のおじさんがリビングでビールを飲みながらテレビを見ているはずだ。

なのにリビングには電気はついておらず、家のドアも開けっ放しだった。


それを見ると爽は少し寒気がした。

実に不気味だ。小学生の爽にとって、それはただの恐怖だった。


恐る恐る家に入ると、爽はリビングに向かった。


だが爽はリビングへ行く途中の廊下でその足をピタリと止めた。

なぜなら、リビングへ入る扉の隙間から、赤い液体が流れ出てきていたからだ。


爽は靴下を脱いで裸足になり、リビングの扉を開けた。自分の足の裏を真っ赤にしながら。


リビングに入った爽は背筋を舐められるような感覚に陥った。


なんと親戚全員が腹部をナイフで刺されて死んでいたのだ。

全員、リビングで。


おそらくこの間ニュースでやっていた強盗が入って、抵抗でもしたのだろう。


爽は足が震えその場を逃げ出し、家を裸足のまま飛び出した。


その時、爽は小学2年生だった。


その後、泣きじゃくりながら走っていたところを施設に保護された。

爽は最初、ここは安息の地だ。とも思ったが、それは間違いだった。

爽が施設に来て3年後。爽の周りがまたあの嫌な雰囲気になった。


その日の夕方。


児童が外で拾い、遊んでいたライターの火が施設に燃え移り、施設が全焼した。

その事件で児童のほとんどが焼け死んだが、爽は全くの無傷だった。


その事件後、こんな噂が流れ出した。


[あの子は不幸の孤児。呪われている。関わると殺される。きっと死神だ。]


その噂で、爽の周りには誰も居なくなった。


それから爽は1人、裏山で見つけた空き小屋で生活することにした。


小学生が一人、山奥で生活。

簡単なものではなかった。

小学生にして万引きもした。生きるために。


そうして6年の年月が過ぎた。


人と話す事も無かった爽は、生きている意味も分からなくなっていた。


何も爽を支えるものはなかった。


もう、死んでしまおうか。…そう思った時だった。


〈ガサッ〉


何か小屋の外の茂みで音がした。


ここは人なんていない山奥。


疑問に思い、爽は外に出てみた。


辺りを見回すと、小屋の前の草むらに古く、ホコリまみれのものを見つけた。


爽はそれを手に取るとほこりを手で払いのけた。


『げほっ...ごほっ....』


相当古い物のようだった。


『…刀の…柄?』


それは刀身の折れた刀の柄だった。


気づくと、爽はその刀の柄を小屋に持って帰っていた。


『…あ…れ?俺…何で持って帰って…。』


(これ…人のだったらどうすんだよ…。)


そう思いながらも爽は、刀の柄をボロ布に包んで、小屋の奧に置いた。


この柄が誰の物なのか知らないが、刀身が無いのは気にかかる。

近くに落ちているかもしれない。


爽はその日、小屋の辺りを朝から夜遅くまで探したが、刀身は見つからなかった。


『…なんで柄だけ…。』


考えていた時、少女の悲鳴が聞こえた。近くだった。


普通、夜遅くにこんな山奥で少女の声が聞こえるか?


爽はいよいよ自分がヤバい精神状態なんだと思い始めた。


『アレ…?幻聴…じゃない…?』


爽は小屋を飛び出した。幻聴では無く、確かに少女の悲鳴だったからだ。


それくらい爽にも分かる。さすがに高校生だ。高校には行ってないが。



…数分走っただろうか。やっと少女を見つけた爽は凍りついた。


爽の目の前には血まみれの少女と、この世のものとは思えない、体中から骨が突き出した、人型の悪魔とも言えるような生き物が居た。


確かに生きている。おぞましい姿をして、皮膚もドロドロに溶けているが、確かに生きている。


だが、よく見るとその骨も人間の骨格にも見えた。


『人…じゃないよな…。』


と、呆然としていると、


「…たっ…助けにきてくれたの?」


と震えた声で少女が言った。


『何だよ…コイツ…。』


爽は血まみれの少女と一緒に、ただ震えていた。


「何してるの?お兄ちゃん!?一緒に逃げようよ!!」


少女は爽の手を取り、走り出した。


《ゾリッ》


『……?』


走り出してすぐ、嫌な音が隣で響く。

その少し後にさっきの少女の首が爽の足元に転がってきた。


『うっ……うあぁぁあ!?』


爽は首を見つめ、その場に倒れるように腰を落とした。


さっきまで動いていた、温かい少女の手は、もう冷たくなっていた。


〈俺も殺される〉


そんな事をふと思った。


『助け…っ……!』


恐怖で声も出なかった。


今まで孤独を貫いてきた爽でも、一人、誰にもみとられずに死ぬのは寂しかった。


爽は必死に足掻き、逃げようとしたが、頭を掴まれ、腕から突き出た鋭利な刃のようなものを首に突きつけられた。


爽の首筋から、真っ赤な液が流れる。


『お前ッ…何なんだよ…ッ!』


爽が怒鳴る。


「キィィヤァァァァァァァァ!!」


その生き物は耳にキーンと響く高音の鳴き声で吠えた。


『んだよ…コイツ…通じねぇのかよ…。なら、早く殺ってくれ。…俺は…この世界に居ちゃいけねぇ人間だから。俺が皆を不幸にしてるから…な。』


「キュアァァァァァァ!!」


生き物が吠え、刃が深く食い込む。


<ブチッ…ブチッ…ブシュッ>


首から前が見えなくなるほど血が吹き出し、爽の意識は飛びかけていた。


爽は草むらに投げられ、倒れた。


体が冷たくなっていく。

もう手は動かない。

何だか眠たくなってきた。


(死にたかった…それが俺の望んでた結末…?…違う。嫌だ。死にたくない…!)


“生きたい”爽は生まれて初めてそう思った。


『生き…たい……。…………?』


すると目の前がキラッと光ったと思うと、爽は優しい桜色の光に包まれ、そっと目を閉じた。


冷たくなった爽の体のは桜の花が乗っていた━━━━


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