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第8話 二人の処遇


レンが新たに孤児を拾ってきた。

レンが連れてきた二人の子供は、最初は静かだった。

声を荒げることもなく、目を伏せ、言われたことをきちんと守った。

食事を渡せば頭を下げ、寝る場所を示せば感謝を口にした。

ミユナと同じだった。

いや、最初はミユナよりも、ずっと従順に見えた。

「ありがとう」

「助かります」

「こんなところ、初めてです」

その言葉を、レンは信じたわけじゃない。

ただ、拒む理由がなかった。

拠点は狭く、食料も潤沢ではない。

それでも、死なせるよりはましだと思った。

それだけだった。

最初の数日は、何も起きなかった。

仕事から戻ると、三人は揃って座っていた。

ミユナは少し離れた場所。

二人は、レンの動きを目で追っていた。

視線の種類が違うことに、レンはすぐ気づいた。ミユナの目は、確認する目だ。

怒っていないか、消えないか、置いていかれないか。

二人の目は、測る目だった。

どこまで許されるか。

どこから奪えるか。

だが、最初はそれも曖昧だった。

与えられる食事に、二人は慣れていった。

最初は時間をかけて食べていた粥を、次第に早く飲み干すようになった。

量を気にするようになり、皿を覗き込むようになった。

「……もう少し、ありませんか?」

その言葉が出た時、ミユナはびくりと肩を揺らした。

レンは、少し考え、余っていた分を足した。

それが、間違いだったのかどうか。

その時は、分からなかった。

数日後、ミユナの食事が、いつもより少なくなった。

レンが気づいたのは、器を下げるときだった。

ミユナの皿は、空になるのが早い。

だが、満たされた様子がない。

「……足りないか」

そう聞くと、ミユナは首を振った。

慌てたように。

「だ、大丈夫……」

声が、少し掠れていた。

その夜、レンはミユナの腕に痣を見つけた。

袖の隙間から、青黒い色が覗いていた。

「どうした」

ミユナは一瞬、固まった。

それから、視線を逸らした。

「……転んだだけ」

嘘だと、すぐ分かった。

転んだ痣じゃない。

「誰にやられた」

ミユナは、首を振った。

強く。

「ほんとに……違う」

レンは、それ以上聞かなかった。

聞けば、答えが出る。

答えが出れば、判断しなければならない。

数日後、レンは現場を見た。

戻ると、拠点の奥で音がしていた。

押し殺した声。

鈍い衝撃。

影を動かす前に、視界に入った。

二人のうちの一人が、ミユナの腕を掴んでいた。

もう一人が、食料袋を引き寄せている。

ミユナは抵抗していなかった。

声も出していなかった。

ただ、目を伏せて、歯を食いしばっていた。

レンの影が、床を這った。

次の瞬間、二人は壁に叩きつけられていた。

息が詰まる音がする。

「……何をしている」

低い声だった。

二人は、すぐに言い訳を始めた。

食べ物が足りなかった。

ミユナが譲ると言った。

自分たちは悪くない。

ミユナが、口を開いた。

「ち、違う……」

レンは、ミユナを見た。

震えていた。

それでも、必死に立っていた。

「……私が、いいって……」

その瞬間、レンは理解した。

守られている側が、守る側に回っている。

奪われる側が、奪われる痛みを知っているから、差し出している。

レンは、二人を見た。

「出ていけ」

短い言葉だった。

二人は、理解できない顔をした。

次に、恐怖。

そして、怒り。

「俺たちは……助けられたはずだろ!」

「救われるべきだろ!」

レンは答えなかった。

「奪う側に回った時点で、終わりだ」

それだけ言った。

ミユナが、レンの袖を掴んだ。

「お願い……!」

声が、初めて大きくなった。

「この人たち……追い出されたら……」

言葉が、途切れた。

続きは、言わなくても分かる。

「死ぬ」

ミユナは、そう言いたかった。

「分かってる」

レンは答えた。

「だからだ」

助ける側の人間と、そうでない人間。

その線を、引いた。

二人は追い出された。

夜だった。

街灯もない。

庇護のない場所。

ミユナは、その背中を見ていた。

小さくなっていく影を。

数日後。

ミユナは街で、二人を見た。

痩せていた。

目が落ちていた。

盗み、殴られ、蹴られ、逃げていた。

ミユナは、立ち尽くした。

その夜、レンに言った。

「……お腹、すいた」

いつもより、少し強く。

レンは、黙って量を増やした。

翌日も。

その次の日も。

ミユナは、余った分を包んで持ち出した。

二人に渡した。

二人は、泣いていた。

感謝していた。

謝っていた。

「ありがとう……」

ミユナは、笑った。

レンは、気づいていた。

匂いで。

影の動きで。

でも、何も言わなかった。

その沈黙が、次の地獄への入口だと、

まだ誰も知らなかった。

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