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帳簿の中で鐘が鳴る


見張りを代われと言われた時点で、だいたい察しはついていた。

あの糞なら、女の足の一本くらい平然と折る。

理由もなく、気分次第でやる。

だから「代われ」と言われても、別に変だとは思わなかった。

正直、ガキ一人の足を折るのに、わざわざ人手を割く意味はわからなかったが、

めんどくさい役を押し付けられるよりはマシだ。

代わってくれるというなら、それでいい。

俺は、めんどくさいことが嫌いだ。

それから少しして、

「レンが来る。固めろ」

そう言われた。

言われた通り、配置につく。

壁。扉。死角。

いつもと同じ。考えることはない。

しばらくして、扉が開いた。

入ってきたのは、噂のレンだった。

……血だらけだった。

思わず目を見開いた。

いや、さすがにおかしいだろ。

生きてる人間の量じゃない。

それを平然と連れてくる神経も、連れてこられる方も。

糞は椅子に座ったまま、動かない。

レンを見上げもしないで、一言だけ吐いた。

「従え」

それから条件を並べ始めた。

淡々と。事務的に。

従わなければガキを始末する。

お前も処分する。

選択肢はない、と。

レンは黙って聞いていたが、

一言だけ返した。

「ミユナの姿を確認させろ」

その瞬間、糞は顔を上げた。

ほんの少しだけ、口角が上がる。

「なら処分すると」

次の瞬間だった。

レンの影が、跳ねた。

目で追うより早く、横にいた同僚が倒れた。

音もなく、崩れる。

気を失っただけだと、すぐわかった。

レンは、その直後に口から血が垂れた。

無理をしている。

見てわかる。

それでも、影は止まらなかった。

ざわざわと、床を這うみたいに動く。

糞は、楽しそうだった。

「体調が悪いようだが、大丈夫か」

……やめとけよ。

内心でそう思った。

こいつ、かなり危ない。

あんまり挑発するな。

影の動きが、さらに激しくなる。

空気が変わる。

その時だ。

見張りの相方が、部屋の入り口に立った。

不自然なくらい、堂々と。

何してんだ、と思った瞬間、

糞が言った。

「おい。ガキを連れてこい」

返事をして、奥の裏口から部屋を出る。

――その途中で、

ふと、足が止まりかけた。

倉庫の前に、誰もいない。

一瞬だけ、胸の奥がざわつく。

相方の顔が浮かぶ。

ガキの部屋。

いるはずの場所。

いない。

奥。

隅。

物陰。

いない。

いない。

いない。

背中に、嫌な汗が流れる。

なんでだ。

どういうことだ。

考える前に、答えだけ浮かぶ。

覚悟を決めて、部屋に戻る。

糞に伝える前に、見張りの相方を見る。

あいつ、口元を押さえてやがる。

耳元で、事実だけを落とした。

「…居ません」

糞が言った。

「…は」

間を置いて、もう一度だけ伝える。

「…居ません」

声が震える

「…は」

固まる。

目が見開く。

部屋が、静まり返る。

相方は、必死に口元を押さえている。

肩が、小さく震えていた。

やめろ笑うな。

息を殺そうとしているのが、わかる。

何人かの同僚が、相方を見る。

笑う場面じゃない、と気づいた時には遅かった。

相方の喉から変な音が漏れた。

それで終わりだった。

俺も、吹き出した。

相方が耐えきれず、喉を鳴らした

「っ、ひ……ひは……っ」

肩を震わせて、笑っている。

次の瞬間、入口から走り出した。

笑いながら。

それを追うように、

レンが、走り出した。

糞が、椅子を蹴って叫ぶ。

「――全員、殺せ」

――ああ。

これはもう、終わるな。

糞の顔を見るまでもなく、

わかってしまった。

めんどくさいことが、始まった。


お読み頂きありがとうございます。


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