表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

帳簿は合っている

お読み頂きありがとうございます。


この話には、

数が合っている世界で、

一つだけ増えた数と、

それを見て「今日は生きている」と思ってしまった男の感覚だけです。(笑)

よければ、

帳簿をめくるつもりで読んでください。


 部下の一人がガキを攫ってきたと報告を寄越した。

 それだけだ。

 俺は帳簿から目を離さず、一瞥だけくれてやる。

 確認はそれで十分だ。

 油断は死を招く。

 だが、計算外は起きていない。

 問題はない。

 すべて、想定の範囲内だ。

胸の奥で、何かが静かに収まった。

 この街では、ガキ一人の価値など知れている。

 だが“影の女”に繋がるなら話は別だ。

 価値は人そのものではなく、誰が取りに来るかで決まる。

 来なければ――処分する。

 売れるなら売る。

 それだけの話だ。

 取りに来るなら、抑えた意味がある。

 むしろ、来ない方が計算が狂う。

 倉庫に入れろ。

 縛れ。

 足を折っておけ。

 声に感情は乗せない。

 命令は簡潔であるほどいい。

 部下が躊躇すれば、在庫が傷む。

 ガキが怯えていようが関係ない。

 怯えは商品価値を下げない。

 泣き喚くより、静かな方が扱いやすい。

 見張りを二人。

 交互に。

 それでいい。

 帳簿に視線を戻す。

 数は合っている。

 これで、ほぼ負けはない。

 もし“影の女”を取りに来ないなら、

 このガキはただの在庫だ。

 消えても、帳簿上は誤差にもならない。

 来るなら――

 それは価値だ。

 影を使う男、レン。

 噂は聞いている。

 デカブツからも話は聞いた。

 だが、

 力の質は、実際にぶつけてみなければ分からない。

 だから俺は、念の為にデカブツを置いた。

 亜人の頭領。

 街外れの奴隷村を仕切る男。

 使える駒だ。

 いや、駒というより壁か。

 あれが立っていれば、レンの強さは測れる。

 もしレンがガキを取りに来て、

 暴れたとしても問題はない。

 最悪、囮にして逃げればいい。

 デカブツが死んでも、俺に損失はない。

 あれは“外部の力”だ。

 帳簿に載せる必要はない。

 逆に、デカブツがレンを殺したなら――

 それも悪くない。

 金は入る。

 領主は、影使いを危険視している。

 始末できれば報奨は出る。

 強くて、俺の傘下に入るなら――

 それが一番儲かる。

 力は金になる。

 金は、さらに大きな力になる。

 その時はデカブツが邪魔になるが、

 多少の損失は、利益に見合う。

 この街で生き残るには、

 “持たない者”から奪い、

 “持つ者”を管理する。

 それだけだ。

 俺は奪う側だ。

 奪われる側ではない。

 だから、感情は不要だ。

 必要なのは計算と決断。

 誰かが泣こうが、

 誰かが死のうが、

 それは数字の動きでしかない。

 ――そう、思っている。

 だが、心の奥で

 何かが膨らんでいく。

ふえろ。

ふえろ。

数字が増える感覚。

帳簿の外に、まだ手を伸ばせる場所がある。

 俺はもっと上に行ける。

 この街だけじゃない。

 領主の上。

 もっと大きな場所。

 もう、誰にも奪わせない。

 飢えも。

 恐怖も。

 名前すらなかったあの頃も。

 全部、俺のものだ。

 俺なら上手くやれる。

 今までも、これからも。

 そうして生き抜いてきた。

 だから今回も、問題はない。

 帳簿の数は合っている。

 計算は狂っていない。

――狂っているとしたら、

 それに気づくのは、

 いつも少し遅れるだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ