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憎しみと欲望

奴隷商は思考を巡らせていた。

深く、深く、泥の底へ沈むように。

頭の中で絵図を描き、数字と死体を並べ替える。

奴隷商もまた、

この街で生き残るための存在だった。

「ッチ」

不快そうに舌を鳴らし、

そこでようやく理解する。

――判断を誤った。

あの時、迷わず処分しておくべきだった。

可能性はある。どちらに転んでも厄介だ。

「おい…さっきのガキ共みつけて殺せ」

奴隷商は、影使いを甘く見なかった。

噂だけで人を消せる存在。

力の正体が分からない。

正面からやれば、部下が何人死ぬか分からない。

だから――先に、奪う。察知される前に

「女だ」

部下の一人が眉をひそめる。

「……女?」

「子供だ。影使いが連れてる」

ガキの話では、名前はミユナ。

痩せていたが、最近は少し肉がついた。

人に食べ物を運んでいた。

守られている存在。

同時に――影使いを縛る鎖。

「先に押さえる。」

夜が明ける前に、動いた。

ミユナが捕まったのは、あまりにも静かな朝だった。

レンが仕事に出た後。

いつも通り、包みを持って、外に出た時。

背後から、口を塞がれた。

声は出なかった。

影は、動かなかった。

彼女の影ではない。

レンの影は、ここにいない。

それを、奴隷商は知っていた。

「静かにしろ。騒げば……分かるな?」

ミユナは、首を振った。

抵抗しなかった。

叫ばなかった。

それが、“この街”の生存本能だと、奴隷商は理解していた。

袋を被せられ、運ばれる。

影は、最後まで、動かなかった。

「……影使いは、危険だ」

奴隷商は、拠点で酒を飲みながら言った。

「噂じゃ済まん。事実が積み上がってる」

部下たちは黙って聞いている。

「だから、調べろ。

 影使いを“知っている奴”を」

街の人間は、知らない。

だが――被害者は知っている。

「奴隷村だ」

その名が出た瞬間、空気が変わった。

亜人の集落。

かつて、影使いが暴れた場所。

「……生き残りが、いる」

探せ。



亜人の頭領は、いたるところに拷問のあとがあった。

彼もまた領主の玩具。

「影使い、だと?」

奴隷商の言葉を聞いた瞬間、口元が歪んだ。

「……生きていたか」

憎しみが、熟成された声。

「奴は、我らの誇りを踏み潰した。

 奪い、壊し、逃げた」

「詳しく話せ」

奴隷商は、金袋を置いた。

頭領は、笑った。

「復讐の機会が来るとはな」

影使いは、単独行動を好む。

影は、意思を持つように見える。

だが、万能ではない。

「…恐らく……光だ」

頭領は言った。

「強い光、複数の火、乱反射。

 影を、定義できなくする」

「殺せるか?」

「分からん」

即答だった。

「だが、縛れる。

 守りたいものがあるなら、なおさらだ」

奴隷商は、ゆっくり頷いた。

「……その“守りたいもの”は、もう手の中だ」

その言葉に、頭領は声を立てて笑った。

「なら、話は早い」

憎しみと欲望が、そこで握手した。


レンは、まだ知らない。

自分が助けた子供たちが、

ミユナが守ろうとした命が、

すでに――引き金を引いてしまったことを。

歯車は、もう止まらない。

感謝は、暴力で潰れ、

沈黙は、取引に変わり、

優しさは、刃を呼び寄せた。

そして。

この先で――

ミユナは、選ぶことになる。

袖を、離す理由を。

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