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5話

 レディア王都〈アーク・レギオス〉宙域に帰還した〈カリバーン〉は、王宮より正式な契約履行通知を受けた。

 それは、若き王レオニスを無事にアステラン王国との非公式会談へ送り届け、再び祖国へ帰還させたことに対する正式な報酬——総額五億クレジットと、王家の文書閲覧権。


 艦橋のホログラムに契約確認サインが浮かび上がり、ルリの声が響いた。


「契約履行完了。第一回報酬、王家予備財源より支払い済み。口座確認をお願いします、艦長」


「確認した。……まさか、あの額が本当に振り込まれるとはな」


 ツバサは苦笑しつつ、座席に深く背を沈めた。これで一つの任務は終わりを告げたが、ルリの背後に広がる星図は、その先の嵐を告げていた。


 


 王は別れ際、こう言い残していた。


「もう君は自由だ。ゼロス艦隊に加わる必要もない。君は君のやり方で、この銀河に立ってくれ」


 


 ツバサはその言葉を噛み締めながら、艦を〈フォージ・ネスト〉へ向けた。


 


◆ ◆ ◆


 


 帰還した〈カリバーン〉を、老提督リュカ・バルクロフトが出迎えた。着艦ベイに響くその声は、どこか急いていた。


「戻ったか、ちょうどいい。新しい稼ぎの話がある」


「また何か起きたか?」


「ああ。アステランの奴らだろうが、ゼロス艦隊の出撃に乗じて手を回してきやがった」


 


 リュカはホログラムを開くと、数百隻の海賊艦艇がレディア王都近傍宙域に向かって進行中の映像を見せた。交信記録もある。標的は王都中心部の資源備蓄拠点と、王族庁舎。報酬は現物資源と記録されていた。


 


「王都は今、ゼロス艦隊の主力が出払ってる。つまり空っぽだ。そこに連中が襲いかかる」


「だが、これは海賊の独断じゃない。背後にいるのはアステラン、間違いないな」


「それを証明するには、捕まえて、吐かせるか、ログを押さえるしかない。だから言う。行け、ツバサ。クランとしても王国に大きな貸しが出来るチャンスだ」


 


 ツバサは静かに頷いた。


「了解。すぐ出る。全乗員、出撃準備だ」


 


◆ ◆ ◆


 


 敵艦隊との接触は、王都第七宙域近傍。セイバー隊が宙域に先行展開し、電子戦機γが通信妨害を開始。キョウによる高度ジャミングに加えて、艦内からの補助リンクが投入された。


 


「通信妨害パターン、B-9に移行。敵回線の動揺率22%。……そろそろ“綻び”が出る頃ね」


 艦橋サイドコンソールで、ネイ=ウェアリィの指が踊る。彼女は“バーチャル種族”と呼ばれる情報特化型生命体。素顔は常にホログラムに覆われ、滑らかで無機質な美貌が浮かんでいた。


「リンク信号受信。……ああ、見つけた。艦長、海賊艦A-12に“アステラン製軍用通信モジュール”を確認。信号発信源が──“デルタ=ファング”に重なりました」


「裏が取れたか。完全に繋がってるってことだな」


 


 隣席では、ソル=リネが全周囲スキャンを継続していた。透き通る銀髪を束ね、長耳をピクリと動かしながらスコープを覗く。


「敵のエネルギー分布に偏差あり。旗艦、主砲チャージ中。……こちらに向けて照準してるわ」


「ルリ、どうだ?」


「こちらもチャージ完了。撃てます」


「発射!」


 


 艦首に収束した魔導粒子が白銀の螺旋を描き、砲口に三重の金色魔法陣が開いた。光がうねり、時間が凍るような静寂が一瞬訪れる。


 次の瞬間、〈エクスカリバー〉砲は銀河に雷鳴を刻んだ。


 


 白銀のビームが宙を裂き、〈デルタ=ファング〉の艦首を一瞬で貫通。続いて艦体を真っ二つに引き裂き、爆発が立て続けに発生。周囲の随伴艦三隻も爆風に呑まれ、瞬時に消し飛んだ。


 


「敵指揮艦、消滅。通信断絶完了」


 ネイが平坦な声で告げる。だがその目には、かすかな満足の色が浮かんでいた。


「残存艦、混乱状態。波形から判断すると、複数の艦が誤信号を受信してるわ。──ツバサ艦長、追撃の好機です」


「ソル、視認できる範囲で“高性能艦”は?」


「ええ、左舷側のE-3番艦。推進出力が高く、指令回線のリレー端末も装備してる。おそらく脱出指揮艦よ」


「よし、α隊をそちらへ回せ。セイバー隊、追撃開始!」


 


 その声とともに、〈カリバーン〉の機動戦力が一斉に動き出した。空間を切り裂いて飛び出すセイバー隊の光条を、ネイとソルは無言で見守る。


「……ねぇ、ソル。あれが“現場の騎士”ってやつ?」


「ええ、そうよ。私たちはその盾と眼になればいい。彼らが剣を振るいやすいように」


「ふふ、了解。じゃあ、次の敵波形も全部剥がしてあげないとね」


 索敵と電子戦。その見えない戦場においても、カリバーンの“艦橋の乙女たち”は、静かに、そして誇り高く戦っていた。




「敵艦隊、指揮系統喪失。回線断絶、艦内命令系統も混乱中。大半の艦が無秩序に移動を開始。艦種によっては逃走体勢」


 ルリが静かに報告する。


「敵艦の反応波、標準戦闘値から60%以上の低下。現場は明確に“恐慌状態”です。──艦長、今です」


 ツバサは立ち上がり、全艦内に向けて号令を発した。


「セイバー隊、追撃開始! 逃がすな。統率を失った敵はただの雑魚だ!」


 〈カリバーン〉の周囲に散るように配置されていたセイバーα、β、γの機影が一斉に噴射スラスターを展開し、動き始めた。


 


 “海賊どもに、容赦は不要だ”


 ツバサの瞳には、勝利の確信と、銀河の火種への冷徹な眼差しが宿っていた。

 


「セイバー隊、追撃。ブレイカー隊、残存艦への強行突入準備」


「了解!」


 指揮系統を喪失した海賊艦隊は、蜘蛛の子を散らすように四方へ逃走を始めた。


「セイバー隊、追撃開始。損耗を抑えつつ、逃走艦の足を止めろ。特に高出力エンジンを積んでるやつを優先だ!」


「了解、艦長!」


 先陣を切るのはセイバーαの主力コンビ、レナ・アークとヴェクス・テイルウィンド。


「レナ、目標艦は前方8時方向。排熱パターンが違う、逃げ足の速いタイプよ」


「了解。ヴェクス、右から回ってミサイルレーン潰して!」


「任せろ、“ハンティング開始”だ!」


 鷹獣人のヴェクス機が軌道を滑空し、精密射撃で敵艦の側面タレットを撃ち抜く。直後、レナの機体が急加速し、プラズマランスで艦尾を刺し貫いた。


 爆炎が散り、逃走艦はスピンしながら沈黙する。


「1隻、沈黙。次!」


 


 セイバーβは長距離支援を展開。ナディア・チャンとホアキン・シルヴァが、正確無比な狙撃で敵艦の機関部を次々と破壊していく。


「αの前を通る敵艦、狙い撃つ!」


「照準完了。撃つ!」


 光条が走り、敵艦の推進装置が爆散。加速不能となった艦はセイバーγに捕捉され、電子妨害によって航行不能に追い込まれる。


 


「γのキョウです。左舷側3番艦、通信封鎖完了。ブリッジシステム掌握まで残り12秒」


「対応早ぇなあ、キョウ」


 


 機体同士が宙を駆け、連携で逃げ場を封じていく。


「セイバー隊、残り4隻!」


「行くぞ、まとめて終わらせる!」


 


 レナとヴェクスが再び左右から挟み込み、敵艦の進路を封鎖。ナディアが狙撃、キョウが通信妨害、ホアキンが予備砲塔を破壊——連携は完璧だった。


 


 最終的に、セイバー隊だけで9隻中6隻を行動不能にし、残りはブレイカー隊によって接収された。


 


「セイバー隊、敵艦の追撃完了。全機、損傷軽微です」


 アルフレッドの報告に、艦橋のツバサは満足げに頷いた。


「よくやった、みんな。あの機動、まさに“騎士”だった」


 


 電子戦と高速戦闘の連携、それがセイバー隊の真価だった。


 ザン=クロード率いるブレイカー隊がスラスターで飛び出し、敵艦ブリッジに直撃。そのまま制圧し、敵艦のデータリンクを強奪。通信記録がルリへ送られる。


 


「解析完了。……やはり、指示元はアステラン軍内通コード。海賊行動の対価として“補給と赦免”が約束されていました」


「やっぱり、仕組まれた襲撃だったか」


 


◆ ◆ ◆


 


 戦闘後、〈カリバーン〉は鹵獲艦3隻とログ記録を引き渡し、その戦果により報酬として9,000万クレジットを得る。


 リュカは報告書にサインしながら、にやりと笑った。


「この記録、レオニス王に回しておけ。戦争の証拠としてな」


「了解」

 


 銀河の戦火は、確かに灯った。

 その炎が何を焼き尽くすのか、ツバサにはまだ分からない。だがその中心に、〈カリバーン〉は確かにいた。



(これはもう、ゲームじゃない。だが……)


 ツバサは静かに呟いた。


「俺は、まだこの銀河を楽しむ気でいる」


 その言葉に、ルリが微笑みで応えた。


「ならば、全力でお支えします。艦長」


 零番艦〈カリバーン〉、再び星海へ。

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