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2話

 リングコロニー内のギルドオフィスは活気にあふれ、依頼書を手にした者たちが行き交っていた。ツバサとアルフレッドは、入室時に入口の受付端末で身分証をかざす。


「本日の依頼はどれにしますか?」

 受付カウンターの若いオペレーターが呼びかける。短いツインテールには細かな魔素結晶の装飾が光っている。


「民間採掘船ブルーム号護衛を確認したい」

 ツバサが依頼番号を告げると、オペレーターはカウンター下からホログラムパネルを取り出した。


「ブルーム号の護衛ですね。報酬は10万クレジット、ルートは小惑星ベルトB9、所要時間は往復で約三時間。海賊被害報告は過去一週間確認なし。危険度は低めですが、予期せぬ事態に備えよとの注記があります」


「了解だ。正式に承諾する。ついでに巡回任務も一緒に受けたいのだが可能だろうか?」


「大丈夫ですよ。それでしたらこちらの巡回任務がよろしいかと思います。報酬は3万クレジットと低いですが片手間でこなせるかと思います」


 ツバサが承諾サインを入力すると、オペレーターは控えの依頼書と航路データをプリントアウトした。


「紋章スタンプをもって、こちらへどうぞ」


 薄いプラスチック紙にクランの紋章が刻まれ、アルフレッドがそれをツバサに手渡す。


「これで正式な護衛契約と巡回任務になります。ドック07の出航手続きをお忘れなく」


 ツバサは礼を言い、端末を手に取ると画面に表示された航路マップを確認した。


 その後、通路沿いに並ぶ依頼掲示板の前で、ツバサはクルーと合流した。アルフレッドが指さす先には、鉱石のイメージと護衛のイラストが並んでいる。


「皆、これが今回の任務だ。護衛区域はこのベルト全域。危険反応が出たらすぐに僕に報告。海賊の奇襲ならシールドを優先して使う」


 クルーたちは真剣な面持ちで頷き、各々の端末にミッション情報をダウンロードする。


「アルフレッド、大型船の護衛はお前に任せた。ナディア、ホアキンは偵察、メカ部隊は異常時の修理待機だ」


「了解、艦長。全力を尽くす」アルフレッドが返事をする。


「では、艦へ戻って準備を整えよう」


 ミッション承諾の証として手渡された依頼書を胸に、ツバサは一行を先導し、カリバーンへと向かう足取りを軽くした。正式契約を交わした瞬間、零番艦としての責任と期待が強く胸に刻まれたのだった。


 ギルドでの受注とブリーフィングを終え、ツバサは艦橋へ戻るとアルフレッド・クレイを見つけた。セイバー隊を率いるエースパイロットだ。


「アルフ、今回の護衛任務はどう見る?」


「安心しろ、艦長。ブルーム号の後方一〇キロからの護衛なら敵の奇襲も防げる。俺達セイバーαとβの連携飛行で完封できるはずだ」


 アルフレッドはヘルメットのバイザーを上げ、にっこり笑った。その自信は伝染し、ツバサの胸にも期待が膨らむ。


「じゃあ行こう。まずはブルーム号の護衛、終了次第ステーション周回の巡回に移行だ」


 カリバーンは艦首を反転させ、採掘ベルトB9へと雪崩れ込む。到着したブルーム号は、無骨な外殻に採掘ライトを無数につけた長大な船体だった。


「接近―後方位置をキープ。航路上に海賊ビーコンはないと思うが、念のためセンサーを強化しろ」


「了解、艦長」ルリが艦内システムを微調整する。


 ツバサは艦橋の窓越しにブルーム号を見下ろし、心の中でそっと唱えた。


(無事に完了させてこそ、本当の護衛だ)


 十数分後、異常なしの報告を受け、警戒レベルは3へ引き下げられた。


「セイバーβ、偵察モードに移行。アンテナを使って小型ステルスビーコンを探せ」


 ナディアとホアキンがβ機に分かれ、一帯を旋回する。甲板上の採掘アームが金属音を立てるたび、ツバサは胸を張った。


「敵影なし。本艦は予定どおり巡回任務に移る。護衛の指揮はアルフレッドに任せる」


「了解、艦長」アルフレッドがうなずいた。


 オルドリンステーションの周囲をぐるりと一周する軌道巡回では、セイバーγが電子戦センサーを全開にしてデブリ帯を探る。


『艦長、微弱なジャミング信号検出。座標送ります』


「ブレイカー隊、エアロック準備。現場へ急行だ」


 機動兵装〈ブレイカー〉のスーツを着込んだマコとグロムが、エアロックから外へ飛び出す。低推力スラスターを使い、小惑星の表面へそっと着陸した。


 そこにあったのは、朽ちかけた輸送ポッド二体。暴走したバッテリーが独自に発火を繰り返しているだけだった。


「ドローンの残骸か……不発だったな」


「処理は任せてくれ」マコが冷静にポッドを解体し、グロムがバッテリーを安全格納容器へ移した。


『危険物処理完了。追加報酬5万クレジットが発生します』


「やれやれ、拍子抜けだがこれも巡回任務の一環だ」アルフレッドが艦外カメラ越しに呟いた。


 その後、カリバーンは静かにステーションへ旋回し、採掘船護衛と軌道巡回の任務を完了させた。


(何気ない任務にも、学びはある──これが信頼の積み重ねだ)


 艦橋に戻ったツバサは、アルフレッドの肩をたたいて感謝を告げた。


「ありがとう、アルフ。次もよろしく頼む」


「いつでも盾になりますぜ、艦長」


 二人の笑い声が艦内に響き、零番艦の航海はさらなる信頼と絆を深めつつ続いていく――。


 オルドリンへの帰投途中、ルリが艦内に緊急アラートを発した。


「艦長、前方500km。無人採掘サイトが海賊に襲われています!」


 モニターに映るのは、灰色の小惑星表面に設置された機械群。そこへ赤黒い海賊ランクルーズ船が二隻、乱射するビームを浴びせていた。


「支援要請か?」


「はい、サイトのオーナーからSOSが。報酬は高額設定です」


 ツバサは操舵桿を握り直す。


「全戦力、海賊を叩く。主砲温存、まずはCIWSで制圧援護しろ」


 多層レーザーCIWSが高速パルスを放ち、海賊船のビームを撃ち落とす。だが数の差は埋まらない。


「ルリ、エクスカリバー発射準備。ジャミング対策を優先」


エネルギー安定…チャージ80%…95%…100%!


「発射!」


 艦首から金色の輝きが弾け、海賊旗艦が大爆発を起こす。残る一隻も恐れをなし、逃走を開始した。


「セイバー隊、追跡任務。ブレイカー隊は採掘サイトの防壁再構築支援」


 可変魔導戦闘機〈セイバー〉が追撃をかけ、残党を圧倒した。一方、〈ブレイカー〉隊が現地へ降下し、破壊された採掘ドローンを一台ずつ修復、バリアを張り直す。


 戦闘開始からわずか五分。無人サイトは再び稼働ラインへ復帰し、震える地平に魔素結晶の採掘機械が揺れていた。


「敵艦完全排除。サイト防御完了」


 タレットが静かに停止すると、クルー一同が安堵の息を漏らす。


(これで艦長の威信も高まっただろう)


 ツバサは窓越しに静かな星海を眺めた。

 カリバーンがドック07に戻ると、ツバサは手早く艦内ログをまとめ、真新しいギルドオフィスへ向かった。アルフレッドも付き添い、依頼受注時と同じ受付端末にログデータを転送する。


「護衛と巡回、両方問題なく完了しました」とツバサが告げると、端末から承認音が鳴った。


「報告ありがとう、外征第零部隊長衛宮ツバサ殿。報酬18万クレジット(護衛千+巡回3百+危険物処理)は口座に即時振り込みいたします。また無人採掘サイトのオーナーから支援要請の謝礼金として500000クレジットの振り込みがありましたのでそちらも一緒に振り込みしておきます。次の依頼も用意しておきましょうか?」


 ギルド職員は事務的だが、どこか温かな眼差しを向けている。


「お願いします。次は少し危険度高めの任務を見てみたい」


「了解です。それでは候補を三件ピックアップしておきますので、お時間のあるときにどうぞ」


 ツバサは礼を言い、端末を手に取って候補リストを受け取った。ホログラムには「偵察任務」「物資輸送」「調査依頼」の三件が浮かんでいる。


(次も、ちゃんと結果を出さないとな)


 ギルドオフィスを後にしながら、ツバサは心を引き締めた。そして、零番艦としての新たな一歩を静かに歩み始めるのだった。

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