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1話

 襲撃から一週間。フォージ・ネストの管理棟にて、ツバサは身分認証ホログラムの前に立っていた。白銀の光が網目状に走り、虹色の印章が浮かび上がる。


「身分認証完了──〈アストロイド・クラン外征第零部隊長・衛宮ツバサ〉」


 続いて、カリバーンの船体登録コードが発行される。艦首に小型ドローンが取り付けたプレートには《AX‑C00 ‑ Caliburn》という刻印。これで銀河法的にも“正式な船籍”を持ったことになる。


 整備デッキに戻ると、AI〈ルリ〉が立体投影で迎えた。


「艦長、登録おめでとうございます。これでどの星系港でも合法的に補給が受けられます」


「ありがとな、ルリ。──で、量産計画の進捗は?」


ルリは手を振り、無数のデータラインを展開した。中央に輝くのはカリバーンの設計コア、その周囲に八つの影が並ぶ。


「解析の結果、彼らの持っている資材だけでは生成が不可能と分かりましたのでコチラからの持ち出しで補完することにしました。結果、魔導エンジンは“10基”しか生成できません。2基は予備と研究用として取って置くとの事……よって複製は最大八隻が限度です」


「八隻か……多いのか?」ツバサは独りごちる。


「つまり、九番目以降は出力不足かリュカはそれについて何か言ってきているか?」


「いいえ。8隻もあれば十分との事です。それに運用データを取れば、劣化版になりますが既存戦艦へ“部分移植”という形で改造できます。魔導エンジンを段階移植し、火器とバリアの強化が可能です」


そうなると違う心配も出てくると呟きながらツバサは腕を組む。


「コピー艦は八隻、残りはアップグレード艦……ならば全艦を一気に強化し、艦隊全体の底上げを図れるな。これで俺達は用済みだって後ろから打たれたらたまんないな」


だがその可能性をルリが否定する。


「その可能性は低いです。第一に魔導縮退炉をコチラがキープしている事。第二にオリジナルであるカリバーンがあれば、もしかしたらこの先、魔導縮退炉の生成が可能になるかもしれません。第三にコピー戦艦にオリジナルの私は負けませんので敵にまわした際の被害を考えれば仲間に引き込んでおくのがベストと判断されているはずです」


「まあ向こうにとっては首輪代わりなんだろうが船員の補充もしたしな」


補充人員の詳細データがルリからツバサのタブレットに送られる


補充人員のリストがタブレットに届く。エルフ、ドワーフ、獣人――多種族混成クルーだ。いまはシミュレータ訓練中。


「魔導騎士〈セイバー〉のパイロット六名はリミッター付きでも既存機の四割増し性能を発揮しています。パワードスーツ〈ブレイカー〉隊も三名が慣熟中です」


「問題はなさそうだな。全員で18名かフルメンバーでの行動になるな。ところで素材の持ち出しについてはタダではないよな?」


そう流石に貴重な魔石と加工技術などを出すのだからそこは買い取ってもらわないと困ると考えるツバサ


「はい。未知の物質でしかも使い方も決まっているので加工技術も含めて買い取っていただきました。一生遊んで暮らせるくらいにはなりましたので逆にクランを抜けて、どこかで余生を暮らすという事も可能ですが一括払いが出来ないので毎月の固定額支払いと必要に応じて都度払いを了承しましたので所属している方が便利かと思います」


ルリの答えに満足したツバサ


「ならいい。取り合えず何かやってないと人間腐っちまうからな」


「そういうものですか?」


「そういうものだ。それで取り合えず近場のステーションに行って適当に仕事をこなそうと思うんだが出発はいつごろできそうだ?」


思考していたのか一瞬の間があったがルリが答える


「…訓練期間を後10日いただけたら問題ない水準になるかと思います」


「分かったそれまではのんびりするとするよ」



 10日後、補給プラットフォームでは整備士ドワーフたちが大小のコンテナを積み込み作業も終わった。魔素結晶、弾薬カートリッジ、予備フィン、そして新たに着任したクルー数名。


「機動戦隊隊長、アルフレッド・クレイ! セイバーα、βどちらでも行けます!」


 張りのある声に迎えられる中、ツバサは端末で“人員リスト”を確認する。これでカリバーンの乗員は十八名フルセット──魔導騎士隊も本来の布陣だ。

魔導騎士セイバーはα・β・γと3種類ありαは制空権の確保・βは長距離狙撃による支援・γは電子戦特化となっている。また敵艦隊制圧用にパワードスーツもある。


 最後に、補給責任者リコがタブレットを突き出した。


「艦長、当面1か月分の弾薬・食料は確保しました。燃費改善の実地検証を優先したいので、次の寄港で魔素触媒を追加仕入れして下さい」


「食糧庫は空間拡張されてるから半年分くらい入るだろ?」


多分、実際に横流しをしていた奴が居たのだろう。リコは頭を押さえながら語った。


「無限に支給していたら横領や横流しする奴も出てくるんです。なので支給は1か月分なので、そうとしか言いようがありません。必要なら自費で買っていただく事になりますのでステーションへ到着したら満載にしますか?」


「そういうやり方なら仕方ない。借金使って満載にできるがどうせ金はあるんだしステーションで買い付けるか」


「クランとしても満載にしたらその分、買い付けが必要になるので助かります。」


あからさまにホッとするリコだった。

クランも拠点とはいえ討伐がメインで生産拠点ではないから生産工場が大掛かりにあるわけではない。なので必要分は近くのステーションから買い付けている。


「了解。──さて、船出の時間だ」

目標はフォージ・ネストから最も近い位置にある商業ステーション〈オルドリン〉初任務として“哨戒・雑用クエスト”を片付け、銀河経済の感触を掴む。


「ルリ、長距離ワープ座標を計算。五〇%跳躍だ」


「了解。コア、同期シーク開始……完了。カウント5」


 艦が薄青い光に包まれ、宇宙が紙を破ったように裂けた。“零番艦”は星の裏側へ跳び出す。


◆ ◆ ◆


 オルドリンステーションは巨大なリング状コロニー。外郭には交易ドックがずらりと並び、内環には発光広告が連なる。


「ようこそ、アストロイド・クラン零番艦カリバーン。ドック07を割り当てる。入港規格は船体長五六〇メートルまで──問題ないな?」


「こちらカリバーン船長ツバサ。問題ない。ドッグ07へ入港する」


管制官からの指示に従いながらドックに係留する。


「補給が済んだらスグに出ていくか?それともしばらく滞在するか?」


管制官に聞かれ短期の滞在を予定している旨を伝える。


「しばらく活動しようと思っているから短期での滞在を予定している」


「了解だ。ドックの使用料は前払いだから忘れないようにな」


「ありがとう。気を付けるよ」


短期滞在の申し込みを済まし、ツバサはギルドへ向かう。副長ヴォルコフに艦の手続きを任せ、リコとユアは物資の買い付け、ブレイカー隊は護衛、セイバー隊長アルフレッドがツバサのサポートに付く。


 こうして“零番艦”の本当の航海が始まった――。

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