プロローグ
——《ゲームの終わり、銀河の始まり》
主砲管制席に差し込む青白い警告灯が、衛宮ツバサのまぶたを無遠慮にこじ開けた。
目の前のホログラムパネルは、見慣れたはずのゲーム UI ではない。魔方陣めいた回路図と、耳慣れない文字列が高速で走っている。
〈魔導縮退炉臨界安定域を維持〉
〈外部空間——未知座標系〉
ツバサは首を巡らせた。艦橋は無人。だが背後から女の子の声がした。
「艦長。わたしの呼び名、覚えていますか?」
半透明の少女アバター——艦内 AI〈Caliburn OS〉が微笑む。ゲームで散々いじった外見のままだった。(切れ長の目に黄金色の瞳に銀髪ツインテールで年齢は16歳程度で胸は人並みにある程度)
「……ルリ? ここは正式サーバじゃないのか?」
「接続先不明。推定転移現象です。――つまりAstral Wars外の現実宇宙ですね。なので現在漂流中と言う事になります。一応、索敵範囲に反応はありますので救援要請を出してみますか?」
「そうだな。戦闘になったら任せるがいいか?」
「ご自身ではやらないのですか?」
「そうだな安定したら慣らしからやっていこうと思う。知識はあるが実戦経験がないような感覚なんだ」
転移した際に操縦方法なんかは何故か頭に入っているがゲームと違う実戦経験は無いに等しいツバサだった。なので戦闘をAIにまかせるゲームで言うオート周回として可能だろうと判断したのだ。
「では救難信号を出しますね」
「頼む」
「こちら傭兵〈アストロイド・クラン〉救難隊。所属を名乗れ。繰り返す、所属を——」
傭兵? そんなNPCはアップデート情報に無かった。ツバサは咄嗟に送信を開く。
「こちら……戦艦〈カリバーン〉艦長、衛宮ツバサ。ショートワープの事故で状況が分からない。救援を要請する」
ツバサは咄嗟にうその情報を流したがいきなり転移して来たというには無理があるしこれでいいだろうと判断した。
回線の向こうで男が低く唸った。
「了解した。着艦ベイを開け。座標リンクを送る。――1番近いステーションでもかなり距離がある。それより我々の拠点の方が近いから一度、そちらへ案内する。そこで多少のメンテナンスと補給なり出来るだろう。大丈夫だ。悪いようにはしない」
「助かる。座標リンク受信した」
「もし彼らが海賊だった場合勝てそうか?ルリ」
「技術レベルにかなりの差がある事が確認できていますので拠点へ行っても全く問題ありません」
それなら行ってみる価値はある、とツバサは肩の力を抜いた。
小惑星〈フォージ・ネスト〉——それは外殻の岩肌の下に巨大ドックと居住区を抱え込んだ、移動要塞だった。
降り立ったツバサを迎えたのは、銀髪の老提督リュカ・バルクロフト。
腰まで届く外套を翻し、彼は燻んだ蒼色の義眼で〈カリバーン〉を見上げる。
「魔導炉2基がサブエンジンか…それになんだあのメインエンジンは知らねぇな…シールドは三重展開型。しかも質量圧縮甲板まで……ほう、古代文明の遺産とはいえ、動いてるのは珍しいな」
「“古代文明の遺産”とは?」
「使ってて知らないのか?我々より以前に栄えたであろう魔法科学文明の事だ。たまにこうして拾う事があるんだが技術がマチマチで使えないことが多いがお前さんのは応用が利きそうだな。こちらの安全確認のためにも調べさせてもいいか?」
「わかったその代わりに衣食住は保証してくれるんだろ?」
「勿論だ」
執務室
「調査結果だが異界の戯れとしか聞こえんが、そのほとんどがオーバーテクノロジーで宝の山のような物だな。お前さん身分証も船体登録もしてないみたいだが訳ありなんだろう?わが〈アストロイド・クラン〉に、その技術を提供してみないか」
「見返りは?」
「お前さんの身分の保証人になってやる。もちろん船体登録の手続きもしておいてやる。そしてクラン内での立場は部隊長待遇でどうだ?地位的には俺のクラン内で3番目の地位だ。部隊長と言っても、独立行動権を持つ外征部隊長の地位ってことで部下はお前さんの船に乗るぶんで最低でも1隻あたり5人以上の人員は搭乗してもらう。機動兵器も搭載しているみたいだしパイロットを乗せておくと良いだろう」
老提督の提案は大胆だった。
設計図の一部を渡す代わりに、ツバサは独立部隊長の地位を得る。しかもカリバーンのコピー艦を建造し、各エリアの旗艦に配備する計画だという。あまりの話の展開について行けそうになくなるツバサだが頑張って理解していく
「〈カリバーン級〉……?」
「お前の船は“ゼロ”だ。好きに銀河を駆けろ。ただしクランの旗は掲げてもらう」
ツバサは足元の小惑星の揺れを感じた。リュカに緊急通信が入って来た。どうやら海賊が嫌がらせに来たみたいだ。大きな海賊団が定期的に嫌がらせの攻撃を定期的にしてくるという話をツバサは聞く。迎撃は部隊長に任せるとリュカは話を戻した。遠雷のような砲声。外壁で、深宇宙海賊と迎撃部隊が交戦を始めたらしい。
「……分かった。協力してもいいが渡す技術は全部は無理だブラックボックスになっている魔導縮退炉は渡せんが魔導エンジンなら設計図もあるからそちらを渡そう。それでいいか?」
「分った。それでいいだろう。コレで晴れてお前さんはアストロイド・クランの一員になる。宜しく頼む早速で悪いんだが腕試しも兼ねて外の掃除を頼んでいいか?」
「ああ、スグに行こう」
ツバサはカリバーンへ搭乗すると宇宙海賊を撃墜するために出撃する
「戦闘なんだがルリに任せるんじゃなくて自分でやってみようと思う。ルリはサポートを頼む」
「承知しました」
アストロイド・クラン防衛戦
「こちら新人のツバサだ。参戦するように指示を受けた戦況を教えて欲しい」
調査ついでにヴァージョンアップもしてくれていたようで敵味方識別が可能になっていたので迎撃隊の隊長に通信を送ってみる。
「おう、フリゲート級が10隻ってところだ、いつもの嫌がらせの小競り合いだから適当に追い払ったらいいが。気は抜くなよ」
「了解、だが撃墜しても構わないんだろう?」
「いうなぁ新人、ならやって見せろ。1機でも撃墜したら1杯おごってやる」
「言質取ったからな!通信終わる」
通信を切ったらすぐさまルリが敵艦を補足する
「敵艦フリゲート級10隻を補足。魔導粒子収束砲を使って相手の足を止める!その後はマナレールガンに切り替え残敵の掃討にかかる」
「ルリ、旗艦を狙う。一撃で終わらせる」
「魔導粒子収束砲“エクスカリバー”充填開始――チャージ70…90…100%」
カリバーンが光の矢となり敵陣へ突入。集中砲火がバリアを叩くが、青白い膜が火花をはじく。
「発射!」
艦首が開き、金色の魔法陣が三重に重なる。刹那、白銀のビームが走った。
敵旗艦が真っ二つに割れ、背後の二隻を巻き込んで爆散。無音の宇宙に炎の花が咲く。
「残り七。レールガンに切替ます」
「了解!マナレールガン、連射モード――ファイア!」
超硬徹甲弾が隕石雨のように降り注ぐ。フリゲートが次々と装甲を貫かれ、爆芽となって弾けた。
最後の一隻がワープで逃亡を図る。
「逃がさない!」
ツバサは操舵桿を倒す。機首が跳ね、即興の“格闘機動”。側面砲塔から叩き込む一撃。閃光。沈黙。
戦闘終了、所要一分四十二秒。
「やるじゃないか新人、名前は何ていうんだ?」
「ツバサだ戻ったら一杯おごってもらうからな忘れんなよ」
「勿論だ。男に二言はない一番いい酒を奢ってやる」
「そいつはありがたい。楽しみにしている」
通信が切れ、ツバサは息を吐く。初陣は完勝。しかし胸の内には震えが残った――これが“現実の戦争”の重みだ、と。
カリバーンがフォージ・ネストのドックに滑り込むと、格納庫はまるで新星の誕生を祝うかのような喧噪に包まれていた。修理アームが主砲砲身を撫で、シャトルリフトが次々と戦果の残骸を運び去る。甲板の向こうでは、迎撃隊の整備兵たちがツバサの到着を待ち構えていた。
「新人だ!」
若い整備兵が叫ぶ。歓声が走り、ツバサは照れ隠しにバイザーを上げた。
「ルリ、システムチェックを任せる。俺は提督に顔を出してくる」
「了解。艦長は楽しんでらっしゃい。私はここで“自慢話”の準備をしておきますから」
◆ ◆ ◆
重力リング酒場〈ブラスト・キャスク〉。粗削りな金属壁に、魔導ランタンが琥珀色の光を落とす。カウンター奥の巨大タンクには“銀河一”と書かれたラベル。ラゼル隊長が椅子を蹴って立ち上がった。
「来たな、新人! いや、ツバサ。約束の一杯だ──いや、一本だ!」
彼が放り投げて寄こしたのは、手のひら大の蒼いクリスタルボトル。《星釀(スタ―ブリュー)》──フォージ・ネスト名物の超高発酵酒。ツバサが栓を抜くや否や、泡の弾ける音がバー全体に広がった。
「うおっ……香りが濃いな」
「アルコールだけじゃねえ。微量のマナが回路を叩く。脳が眩むぜ」
ツバサはくい、と一口。喉に流れ込む途端、視界が一瞬だけ光彩を帯びた。
「……効くな、これ」
「だろ? お前の砲撃も同じくらい効いたぜ。三隻まとめて粉砕とは、恐れ入った」
笑いが弾ける。そこへ老提督リュカが現れ、場の空気がほどよく引き締まった。
「騒ぐのは結構。ただし契約はまだだぞツバサ」
カウンターにカード型端末を置く。紋章付きのデータシール──〈アストロイド・クラン正式隊長任命状〉だ。
「正式に活動できるのは身分証と戦艦の登録が終わった後になるが取り合えず先に任命だけやっておく」
そう言って一拍おいたあと先ほどまでの穏やかな表情から一変、真面目な顔に変わりリュカは続けた
「衛宮ツバサ、カリバーンを旗艦とする外征第零部隊長に任ずる。任務──独自判断での宙域安定化、及び未知技術の活用研究。報酬率は基本60%、成功ボーナスは別途交渉」
「──承知した」
ツバサは指をかざし、赤い署名光が走る。
「諸君──銀河は広い。だが我らの野心は、それより広い。ツバサ、そしてカリバーンに栄えあれ!」
グラスがぶつかり合い、液体が宙に舞う。ツバサは蒼い泡越しに、どこまでも続く星海を思い浮かべた。
(ゲームの続き、いや……ここからが本番だ)