第4章 - 変わらない1日の終わり-
カズマは勤務を終えて会社を出ると、同じように周囲の人々が目の前に現れる。通勤時と変わらない光景だ。自動運転の車が行き交い、どこを見ても誰もが目標を持っているように見える。ただし、その目標がどこに向かっているのか、カズマにはわからなかった。
「今日もまた、何も変わらずに終わるのか…」
「カズマ様、帰宅ルートを選択しました。安全で最適なルートをお選びしましたので、ご安心ください。」
端末の声が聞こえ、カズマは目を閉じながら、普段通りの道を選ぶ。何も変わらない、いつもの帰り道だ。道行く人々は、ほとんどが無言で歩き、スマートフォンや端末の画面に目を落としている。まるで機械のように、自分がどこに向かっているのかすら考えることなく、ただ目の前の指示通りに動いている。
カズマはその風景を眺めながら、心の中で何度も問いかける。
「これが、『俺』の一日だったのか?」
帰宅したカズマは、玄関の扉を開けると、すぐに端末が彼を迎える。
「おかえりなさいませ、カズマ様。今日も無事に一日を終えることができました。」
「うん、お疲れさま。」
カズマは軽く頷き、リビングへ向かう。食事は端末によって最適化された栄養満点なもので、無駄がない。しかし、それがかえって冷たく感じてしまう。食事は食事として機能し、栄養が体に届くのは当然のことだが、その「食事を楽しむ」という感覚はもはやどこか遠いものになっていた。
食事を終えると、カズマはソファに座り、テレビをつける。画面に映るニュースも、いつもと変わらず、どこか遠くで起こっている出来事をただ報じるだけだ。それを見ながら、カズマはぼんやりと考える。
「結局、俺は何を求めてるんだ?」
「カズマ様、明日のスケジュールが最適化されました。翌日もスムーズに一日を過ごすための準備が整っています。」
「明日も…また同じなんだろうな。」
カズマはつぶやきながら、テレビの画面に映る無機質な映像を見つめる。仕事も、生活も、AIによって完全に最適化され、無駄のない流れで進んでいる。だが、その最適化が、逆に彼にとっては空虚さを生んでいた。
やがて、夜も更け、カズマはベッドに横たわる。照明が自動で暗くなり、部屋は静まり返る。目を閉じても、頭の中に浮かんでくるのは、今日一日、ただただ「最適化された時間」を過ごしたという実感だけだ。
「いつまでこの生活は続くんだろう…」
カズマは目を閉じながら、ふと自分に問いかける。その問いに対する答えは、頭の中に浮かぶことはなかった。ただ、無意味に流れる時間だけが、彼を包み込んでいく。
「そんなの決まってる、死ぬまでだ」
心の中でそんな言葉がひとりごちる。しかし、それもすぐに薄れ、やがてカズマは深い眠りへと落ちていく。世界は相変わらず、何一つ変わらない。彼の目の前で進行する、すべてが最適化された流れの中で、カズマはただ、無力感を抱えて眠るだけだった。