第3章 - 会社-
カズマはオフィスビルの扉を開けると、すぐにAI管理システムが彼を迎える。
「おはようございます、カズマ様。今日は会議のスケジュールが含まれておりますので、15分前には会議室に到着するようにしてください。」
カズマは軽くうなずくと、エレベーターに向かう。社内は無駄が一切なく、すべての従業員が決まった時間に仕事を開始し、終わりの時間には自動的に業務終了の通知が届く。社員たちも無言でPCに向かい、ただただ仕事をこなしている様子が目に入る。
カズマは自分のデスクに着くと、端末がすぐに彼の仕事の進捗を表示する。
「カズマ様、昨晩のタスクは全て最適化され、進行状況は完璧です。今日のタスクも順調にこなせる見込みです。」
「うん、分かった。」
カズマはモニターに目を向ける。そこには彼のパフォーマンスがリアルタイムで表示され、AIが彼の仕事の効率や質を厳密に分析している。すべてが数値化され、評価され、進行中のプロジェクトに必要なデータは常にAIが提供している。
しかし、カズマの目にはそのすべてが機械的で無機質に映る。目の前で働いている他の社員たちも、まるで感情を持たないロボットのように、淡々と自分の仕事をこなしている。評価が数字で示され、その評価がそのまま人事に反映される。昇進も降格も、すべてAIの判断で決まる。
「評価はもう決まってるんだろうな。」
カズマはそう呟く。昨夜の自分の仕事が完璧に進捗していたことは理解している。しかし、それでも感じるのは、この「評価」がどこか冷たく、感情のないものであるということだ。
AIは、効率性、スピード、成果だけを見ている。人間の感情や意欲、成長過程を評価に反映させる余地はない。昇進の可能性も、降格のリスクも、すべてシステムの判断次第だ。
「カズマ様、次の会議が開始されます。会議室に向かってください。」
カズマは再び軽くうなずき、会議室へ向かう。その途中で目にしたのは、他の社員たちも淡々と仕事をこなす姿だった。誰一人として声を上げることなく、ただ計画通りに動いている。彼らもまた、評価が数値で示され、その数値がすべてを決定づけることを知っているからだ。
会議室に到着したカズマは、席につくとすぐにモニターに表示されている自分の評価を確認する。それは、AIによって集められたデータに基づいた、客観的な数字で示されたものだ。会議の内容は、その評価に基づいて次のプロジェクトの方向性や、個々のパフォーマンスに対するフィードバックを共有するものだった。
「カズマ様、昨年度の評価に関して、フィードバックをお伝えします。昨年は全体的に好調でしたが、さらに効率化を進めるためには、以下の点を改善する必要があります…」
カズマはその声を耳にしながら、心の中で思う。「効率化、効率化、効率化…。結局、俺の人間としての部分なんて見られちゃいないんだな。」
会議が進行する中で、彼の心には一つの疑問が沸く。もしも自分のパフォーマンスが評価され、昇進することが決まっても、それが本当に自分の努力や成長の結果だと言えるのか。それとも、ただシステムに従ってきただけの結果なのか。
会議が終わり、再びカズマはデスクに戻る。次々とタスクが表示され、その指示通りに仕事が進められていく。だが、カズマはどうしてもその中で自分が「何者」なのかを見失っているように感じてしまう。
「結局、俺って何だ?」
その問いが胸の中で渦巻きながらも、カズマは次のタスクをこなす手を止めることはなかった。システムが評価し、次のステップを決めるその中で、自分自身の存在価値を見いだすことができないまま、ただ流れていくしかなかった。




