第2章 - 通勤-
カズマは部屋を出ると、すぐに玄関の端末が彼を迎える。
「おはようございます、カズマ様。今日も素晴らしい一日をお過ごしください。」
「おう、ありがと。準備できた?」
「はい、カズマ様。今日の通勤ルートは渋滞が予想されますが、最短ルートを提案させていただきます。」
カズマは軽くため息をつき、端末の指示通りに動き出す。彼の生活は、端末によってほぼすべてが管理されている。出勤のルート、食事、健康管理、すべてが自動的に設定され、彼はただ流れに従うだけだ。
カズマが自宅を出ると、すぐに街の風景が広がる。AIによって最適化された都市は、無駄のない美しい街並みが広がり、人々はそれぞれの仕事に向かって歩いている。道路には自動運転車が行き交い、歩行者用のエリアも完璧に管理されている。
だが、カズマの目にはそれが何だか不自然に映る。人々の顔には疲れた表情が浮かんでいる。あらかじめ決められた道を、決められた時間に、決められた通りに歩く彼ら。その動きはどこか機械的で、自由が感じられない。
「よくもまあ、みんな同じように動けるもんだな。」
「カズマ様、こちらにご注意ください。右側に歩行者が多く、混雑が予想されます。」
カズマは軽く首を振る。端末のアドバイスに従い、少しだけ速度を緩めて道を進む。
「みんながみんな、AIに従ってるだけだもんな…なんだか、すごいよな。」
「カズマ様、すべての市民の健康と幸福はAIシステムによって最適化されています。この社会は、個々の自由を尊重しつつ、最適な形で管理されています。」
カズマは端末の言葉を聞きながらも、どこか冷めた目で街を見渡す。皆が同じようにスケジュール通りに動き、選択肢も、自由も、もはや感じられない。すべてはAIが決めた最適な方法に従っている。
「でもさ、ほんとにこれでみんな幸せなのか?」
「カズマ様が感じる幸福について、少しでも疑問をお持ちであれば、システムに問い合わせていただければ、より詳細な説明をさせていただきます。」
カズマは少し考えた後、手を振って笑う。
「そんなのいらないよ。質問してもどうせ『最適化された答え』しか返ってこないだろ。」
「カズマ様、システムは常に最適な選択肢を提供します。それが、皆様の幸福に繋がると考えています。」
カズマは軽く肩をすくめる。その後ろで、端末が彼の一日の行動を記録していることに気づきながらも、特に気にすることもなく歩みを進める。
通勤電車に乗り込んだカズマは、座席に腰掛けながら周りを見渡す。人々は目を閉じ、もしくは画面を見つめ、何も言わずにその日を過ごす。誰もが同じように、目の前の『指示』に従っている。
「これじゃあまるで機械だ。」
カズマの心の中に、またひとつ小さな疑念が湧く。みんながAIの導く道を歩き、自身で考える必要なく最適解をaiシステムが提供してくれる。それが「理想的な社会」として成り立っている。
「でもそれって生きてるって言えるのか?」
「カズマ様、ご質問にお答えします。健康管理に関するデータは個人レベルで日々収集され栄養、運動、睡眠、ストレス値など事細かに解析し対象個体に対して常に最適な健康状態を維持できるようサポートしております。」
カズマはため息をつき、少し笑った。端末が返す答えが、ますます冷徹に感じる。




