表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

第10章-選択-

案内人の後に続きやってきたのは、河川敷にある球場だった。辺りにはほとんど人影はなく、街灯の淡い光が空虚に広がる。周囲の空気はひんやりとしていて、カズマの心臓は鼓動を速めていた。


球場の中心地のあたりで立ち止まった彼の姿は暗闇の中で一層浮かび上がっているようだった。

カズマの足音が近づくと、案内人はゆっくりと振り返る。その顔にはいつも通りの微笑みが浮かんでいるが、今回はどこか陰鬱さが漂っていた。


「ではカズマさん、選択の時です。」


その言葉がカズマの耳に届いたとき、案内人の背後から突然、強い光が発生した。


カズマは驚きあまりの明るさに目をほそめる。

案内人の背中から、まるで光の渦が広がるかのように、無数の光の板が浮かび上がった。

その光の板は空間を切り裂くように回転し、まるで神話の世界にでも入り込んだような異様な景色が広がる。カズマはその光景に圧倒されるが、同時に何か得体の知れない不安が胸を占めていった。


「何が起こっているんだ」カズマは思わず声を漏らした。


案内人はその目を、冷たく、まるでどこか遠くを見つめるようにしてカズマに向けた。微笑みも消え、無機質で機械的な印象が強くなる。


「これは、運命の旅路を進む“道しるべ”。」案内人の声は、先程までの温かみを完全に失い、冷徹で無感情な響きに変わっていた。その声にはまるで感情がなかった。ただ、ひたすらに命令のような言葉だけが響く。


「人の子よ、貴様の運命は、ここから先に進むことでしか変わらない。だが、その先に待つものは、すべてを失う覚悟を伴うものだ。」案内人の声が、さらに機械的になり、それはもはや人間らしさを欠いた、何の感情も映さないものだった。


案内人はゆっくりと、手に何かを取り出した。それは、螺旋状に光る奇妙な形をした塊だった。

それがカズマの前に差し出されると、カズマは思わず後ろに一歩引いた。


それはDNA構造のような形をしていて、まるで生きているかのように光を発しながら螺旋を描いていた。

光の輪が幾重にも重なり、その中心に向かって引き寄せられていくようだった。


「これは運命を受け入れ歩む覚悟のある者に与えられる力だ。」案内人はその言葉を冷たく告げる。「受け入れ、進む覚悟があるか?」


カズマは、その手に差し出されたそれを見ると、思わずその不気味な輝きに目を奪われた。

彼の中に浮かぶ疑問は膨れ上がり、迷いが深まる。しかしその時、案内人が再び言葉を発した。


「どちらを選択するかは貴様次第だ人の子よ、拒否すれば、貴様の受けた兆しは潰えることとなる。」案内人の姿がさらに変化していく。彼の背後に広がる光の板が回転し、全てがその方向に吸い込まれるかのように感じられた。案内人自身がその光と一体化していくかのようだった。


その瞬間、案内人の言葉が冷徹に響く。「さあ、選べ人の子よ、今こそ選択の時」


カズマは、その無機質な言葉に身震いをしながらも、決断を下すべき時が来たことを感じ取る。

案内人が再び口を開く。


「運命を受け入れ進む覚悟はあるか。」


カズマは無言で光を放つそれを見つめた。螺旋状に光るそれがまるで自分の心の奥深くにまで届くような気がしてならなかった。頭の中にさまざまな疑問が渦巻き、心の中で自分をどうしても信じることができない自分がいた。


「進むべきか、戻るべきか。」


これが一度きりの選択だということを、案内人の言葉がしっかりと伝えていた。

しかし、どんな選択をしても、もう元には戻れないということが、カズマを激しく不安にさせた。


「どうして俺なんだ。」カズマは自分でも驚くような声で口を開いた。その声には、少しの怒りと、止められない好奇心が入り混じっていた。


案内人は少しの間、言葉を発さずに静かにカズマを見つめていた。その目には、何も感情が浮かんでいなかった。だが、次の瞬間、彼の背後で回転していた光の板が急激に加速し、まるでその場の時間さえも歪めるような勢いで回転を続けた。光はまるで無限の数の扉を開くように広がり、カズマの視界を覆い尽くす。


そして、彼の言葉が、まるで指示を受けたロボットのように響く。


「これが貴様の運命だからだ。私はただ、その運命をお前に知らせているに過ぎない。」


カズマの心は震えていた。自分の内側で何かが、確実に変わりつつある感覚があった。何もかもが圧倒的な速さで動き、彼が選ぶべき道が迫っていた。しかしその瞬間、彼はふと、案内人の言葉を思い出した。


「運命を受け入れ進む覚悟があるか」


その問いに、心の中で答えを見つけることはできなかった。だが、カズマは少しずつ覚悟を決め始めていた。自分が今、ただの歯車であることに対する不安、恐れ、そして無力感――それらがすべて一つになり、カズマの中で激しく火花を散らしていた。


案内人が再び口を開く。


「さあ、答えよ人の子よ。」その声は冷徹で無機質。カズマはその言葉に従わなければならないような圧力を感じた。


「……俺は、進む。」


カズマは深呼吸をして言葉を発した。声は震えていたが、それでもしっかりとした決意が込められていた。


次の瞬間、案内人の背後に広がる光の板が一瞬で収束し、カズマの体を包み込んだ。そして、案内人が一歩前に出ると、光はカズマに集まり、まるで吸い込まれるようにその体に収束していく、カズマはその瞬間、体の中で何かが変わる感覚を強烈に感じ取った。


案内人の無感情な声が響く。「これより先、貴様は新たな存在となる。全ての情報が融合し、再構築される。」


カズマは一瞬、意識が遠のくような感覚を覚えた。しかし、すぐに目を開けると、周囲の世界が以前とは違った形で見えるようになっていた。光が、音が、そして空気が――全てが新しく感じられる。


案内人はその無機質な視線をカズマに向け、最後に言い放った。


「運命の扉は開かれた、進め勇敢なる人の子よ、貴様の歩むこの旅路、我が最後まで見届けることを約束しよう。」


言い終えた瞬間、案内人の背後で回り続けていた光の板は瞬く間に収束しあれだけの光量を放っていた全ての光が消え去った。


そして、何事もなかったかのように暗く静かな河川敷の球場に膝をつき俯く案内人とその前で立ち尽くすカズマの二人だけが残った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ