第1章 - 日常 -
いつもと同じアラーム音で目が覚めると、すぐにベッド脇のデバイスから音が消え点滅を始める。カズマは手を伸ばし、モニターの表示を確認する。
今日のスケジュールが脳裏に流れ込み、何の違和感もなくその内容を受け入れる。システムが提案する朝食、作業内容、健康チェック—すべてが既定のプランに沿った完璧な一日だ。
「おはよう、今日も予定通りか。」
彼は呟きながら、無意識に手を伸ばし、目の前のデバイスに声をかける。瞬時に、システムが返答する。
「おはようございます、カズマ様。今日のスケジュールは完璧に最適化されています。体調も良好です。」
その言葉に、カズマは何の違和感も覚えずに日課をこなす。朝食はAIが選んだ栄養素が完璧に配置されていて、食事は体に必要なエネルギーと栄養を補うためのものとして機能している。
彼の毎日は、AIが管理し、何一つ無駄がない。どこを切り取っても、調和と効率が支配している。しかし、心の中で、ふとした瞬間に疑問が湧く。
「こんな毎日、意味があるのか?」
朝の支度を終え、デバイスに目を向けながらカズマは思う。何年も前から、この生活が当たり前になっていた。AIがすべてを最適化し、カズマの生活もその中で完璧に組み込まれている。それが良いことだと信じて、疑うこともなかった。
でも、なんだか物足りない。
「不自由ではないけど自由な気がしないんだよな。」
彼は無意識のうちに吐息をつく。目の前の世界がどれだけ完璧でも、どれだけ効率的でも、何かが足りない気がしてならない。人々はいつもシステムに従い、生活を最適化している。でもその中で、カズマは自分が本当に生きているのか、疑問に感じ始めていた。
システムが支配する社会で、全てが「最適」だからこそ、カズマはその空虚さを強く感じる。自由意思が薄れ、彼が選んだことが本当に「自分の意志」なのか、それともただ流されているだけなのか、その境界が曖昧になっている。
カズマはただ、心のどこかで答えを探しているようだった。しかし、その答えがどこにあるのか、どうすれば見つけられるのか、今の彼にはわからない。ただ一つ確かなことは、今のままで満足していないということだけだった。