第九話
夕方の村の広場では、いつもと同じようにレンが笑顔でカナを迎えた。
「レン、今日は散歩しようよ。少しでも気分が良くなるようにさ。」
「散歩?いいね!行こうか!」
その笑顔を守るために、自分ができることをすべてやり尽くすと、カナは心の中で誓った。
レンの行動を注意深く観察しながら、カナは村で噂されている武装集団の動きについても情報を集め始めていた。今回のカナは、過去の記憶を最大限に活用し、慎重に事を進めていく。
『集団が動き出すのは今日の祭りの夜。それまでは絶対にレンを危険に近づけない。』
しかし、レンに真実を隠し続けることは容易ではなかった。
「最近、カナは何か隠してるよな。俺のことを避けてるみたいだし。」
そう問いかけるレンに、カナは笑顔を作りながら答える。
「隠してなんかないよ。ただ、いろいろ考えることがあって……」
レンの鋭い目つきが一瞬カナを貫いたが、それ以上は追及してこなかった。
祭りの準備が進む中、カナはついに決断を下した。
「レンを絶対に広場へ行かせない。そのためには……」
カナはレンの行動を制限するため、わざと喧嘩を仕掛けた。
「ねえ、レン。村の人たちのこと、どうしてそこまで気にするの?」
「どうしてって……俺たちもこの村の一員だろ?みんなが困ってたら助けるのが普通じゃないか。」
その言葉に、カナは胸が痛むのを感じた。
「でも、その優しさが……レン自身を危険にさらしてるの、分かってるの?」
「カナ、俺が危険な目に遭うって言うけど、そんなの誰にも分からないだろ。」
「分かるの!」
声を荒げたカナにレンは驚いたような顔をした。けれど、カナはそれ以上何も言えなかった。
祭りの夜が訪れた。村中が賑わいに包まれる中、カナはレンを倉庫に連れ込んで鍵をかけた。
「おい、カナ!何してるんだ?」
「お願い、ここから出ないで。」
カナの必死の表情に、レンは呆然としながらも問い詰める。
「どうしてこんなことをするんだ?何か知ってるのか?」
「お願いだから、信じて……ここにいてくれるだけでいいの。」
カナは未来の記憶を話したい衝動に駆られたが、それをぐっと抑えた。もし話してしまえば、レンがもっと危険な行動に出る可能性があったからだ。
レンが疑念を抱きながらもカナの言葉を信じている間、カナはひとりで武装集団の動きを阻止しようと広場へ向かった。
広場では、武装集団が村を襲う準備を進めていた。カナは身を隠しながら計画を乱そうとしたが、見つかってしまう。
「こんなところで何をしている?」
カナはとっさに飛び出し、集団の注意を自分に向けた。
「やめて!この村には何もないわ!」
だが、彼らは容赦なくカナを捕らえ、危険な状況に追い込んでいった。
その時、レンが倉庫から飛び出してきた。
「カナ!」
「レン!どうして来たの!?」
「お前が何か抱え込んでるって分かってた。でも一人で背負わせるなんてできないだろ!」
レンはカナを守るために集団に立ち向かった。しかし、彼らは容赦なくレンに銃口を向けた。
カナの悲痛な叫びが響いたその瞬間――またしてもレンは命を落とした。