第七話
カナの胸中は不安と焦りでいっぱいだった。倉庫で見た取引の場面は、未来の悲劇に直結している気がしてならない。けれど、レンには未来の話を打ち明けることができない。すべてを伝えてしまえば、彼をもっと危険に巻き込んでしまうかもしれないからだ。
そんなある日の夜、村の広場で賑やかな音楽が響き渡っていた。村の小さな祭りが開かれていたのだ。
「カナ、たまには楽しまなきゃ。こんなときだからこそさ。」
レンの笑顔にほっとしつつも、カナの胸はどこか締めつけられるように痛んだ。未来ではもう会えないこの笑顔を、いったい何度繰り返し失うことになるのだろう――。
祭りの中、レンがカナの手を引き、花火を見渡せる丘の上へ向かった。二人の間には暖かな空気が流れていた。
「俺、思うんだ。どんなに辛いことがあっても、俺たちが一緒なら大丈夫だって。」
「レン……」
その瞬間、丘の下から銃声が響いた。
「――何?」
レンが反射的にカナを庇いながら振り返った。その音は、村の広場からだった。
「カナ、すぐに家に戻ってくれ。俺が見てくる!」
「待って!レン!」
カナの声も届かず、レンは広場へと駆け下りていった。
しかし、過去はここで家に戻ると翌日、レンが死んだと報告を受けたのだ。
すぐにカナはレンを追った。
広場にたどり着いたカナが目にしたのは、想像を絶する光景だった。怪しい武装集団が村を襲い、人々が怯えながら逃げ惑っていた。その中で、レンが必死に子供を守りながら立ちはだかっていた。
「やめて!レン!」
カナが叫んだその瞬間、鋭い銃声が再び響いた。
レンの身体がゆっくりと崩れ落ちる。
「――レン!」
カナは駆け寄り、血まみれの彼を抱きしめた。
「なんで、なんでこんな……!」
レンはかすかな微笑みを浮かべてカナを見つめた。
「……カナ、なんでここに....」
カナがいることに驚きながらも、細い声で続けた。
「泣くなよ。俺は大丈夫だ。お前なら、きっと乗り越えられる……だから逃げてくれ....」
その言葉を最後に、レンは静かに息を引き取った。
カナは涙を流しながら叫んだ。
「いやだ!レン、お願い……!」
絶望の中、カナは短剣を手に取り、自分の首に勢いよく刺した。その刹那、視界が真っ暗になり、世界が再び変わった――。
目を覚ますと、そこは見覚えのある小さな部屋だった。窓から見える景色も、部屋に置かれた家具も、確かに過去のものだ。
「……また戻ったの?」
カナは震える手で自分の顔をつねる。
「痛い....またあの時に戻ったんだ……また……!」
彼女の心は悲しみと焦燥感でいっぱいだった。同じことを繰り返させられる苦しみ。けれど、今度こそレンを救いたいという強い想いが胸に渦巻いていた。
「絶対に変える……!」
彼女は心の中で誓った。レンを失わないために、何度だって立ち上がると。
そして、カナはできるだけ同じルートを辿って未来へと進んだ。
脱出前、村人に勘づかれ襲われる時も、襲ってくる時間より少し早めに村に出ることでスムーズに村から逃亡できた。
過去のことを思い出しながら、うまく立ち回る。
今度こそは失敗しないように...