第六話
ある朝、レンが家を出た後、カナは街で情報を集めることを決めた。未来の記憶では、レンが命を落としたのはどこかの組織が、村を襲ったのが原因だった。ならば、その組織の動きを調べ、接触を防げばいいのではないか――そう考えたのだ。
市場で買い物を装いながら、周囲の噂話に耳を傾けるカナ。村の外れで何やら怪しい商人が出入りしているという話を聞くと、胸がざわついた。
「これかもしれない……」
その晩、レンが帰宅した後、カナは彼に何気ない顔で尋ねた。
「ねえレン、最近村の外れで何か怪しいことが起きてるらしいよ。何か知ってる?」
レンは目を丸くしたが、すぐに優しく笑った。
「いや、何も聞いてないけど。カナ、そんな噂話を信じる必要はないよ。大丈夫、俺がいるだろ?」
その言葉に安堵しながらも、カナの中には確信が芽生えていた。「レンが無関係だとしても、これが未来の悲劇の原因かもしれない。何が起きているのか確かめなくちゃ。」
次の日の夜、カナは意を決して村の外れへ向かった。月明かりの下、薄暗い道を歩いていると、遠くから低い話し声が聞こえてきた。音のする方へ近づくと、何人かの男たちが小声で何かを話している。
「……次の取引はこの週末だ。倉庫でな。」
「わかっている。そこまでバレなきゃいいんだろ?」
「あぁ祭りの日のためにな。」
カナは茂みの影に隠れ、息を殺して話を聞いた。何か良くないことが進行しているのは間違いない。この取引がレンにどう関係してくるのかは分からないが、未来のあの悲劇と無関係とは思えなかった。
家に戻ったカナは、未来の記憶を思い返した。レンが命を落とした原因は、その優しさが災いして何かに巻き込まれた結果だった。ならば、自分がその危険の芽を摘むしかない。
「レンに知られないように、私がやるしかない。」
カナは決意を新たにした。
その週末、カナは取引が行われるという倉庫に向かった。手には村の鍛冶屋で借りた小さな短剣を握りしめている。
倉庫の周囲は静かだったが、中からは話し声が漏れ聞こえてくる。カナは慎重に中を覗き込んだ。そこには怪しげな商人たちと、何箱もの荷物が並べられていた。
「……武器だ。これって、未来のあの事件の始まりじゃない?」
カナは唾を飲み込んだ。このまま放置すれば、この取引がきっかけで何か大きな問題が発生し、レンに影響を及ぼすかもしれない。
彼女は短剣を握りしめ、少しずつ倉庫の中へ足を踏み入れた。しかし、その瞬間、何かが後ろから彼女の手首を掴んだ。
「何をしているんだ?」
聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、そこにはレンが立っていた。
「レン!どうしてここに?」
「カナ、君こそどうしてここにいるんだ?一人でこんな危険な場所に来るなんて!」
レンは鋭い目で彼女を見つめた。
「俺がいない時に、何か調べてると思ってたけど、こんなことをしていたなんて……説明してくれ。」
カナは口をつぐんだ。未来の話をするわけにはいかない。レンを巻き込むつもりもなかった。
「ただ……危ないことが起きそうだったから。」
それだけを絞り出したカナに、レンは深くため息をついた。
「俺を信用してほしい。何があっても、カナを守るのは俺の役目だ。でも、こういうことは一人で抱え込むな。分かったか?」
カナは言葉を失い、ただ頷くことしかできなかった。
二人で倉庫を離れる途中、レンがぼそりと呟いた。
「……危ないことが起きる、か。その勘、当たってるのかもな。」
彼の言葉に不安を覚えながらも、カナはレンの背中を見つめて決意を新たにした。
「未来は変えられる。絶対に、変える。」
しかしその夜、村の外れに現れた一人の影が、新たな危機を告げるかのように倉庫を見つめていた――。