第五話
翌朝、なんとか森を抜けた二人は、初めて見る広い草原にたどり着いた。遠くには山々が連なり、緑豊かな風景が広がっていた。
「見て、レン。すごい景色……」
「本当にきれいだな」
二人はしばらく草原を歩き続けた。その先に見えたのは、目的地としていた小さな村だった。木造の家々が並び、畑では村人たちが作業をしている。
「あの村だ!早く行ってみよう。もしかしたら、ここで新しい生活ができるかもしれない」
レンの提案にカナは頷き、二人は村へと向かった。
村に入ると、二人は不安な気持ちで胸がいっぱいになった。だが、そこに住む人々は予想外に優しく、温かく迎えてくれた。
「どうしたんだい? 旅の途中かい?」
畑で作業をしていたおばあさんが声をかけてきた。レンはカナと顔を見合わせ、小さく頷いた。
「はい、少し遠くから……」
「そうかい。疲れてるみたいだから、うちで休んでおいき。」
その言葉に、二人は驚きながらも感謝して家にお邪魔することにした。
その村は小さく、決して裕福ではなかったが、住民たちはお互いに助け合い、穏やかに暮らしていた。カナとレンもすぐに村人たちと打ち解け、貯めたお金で小さな家を借りて暮らし始めた。
レンは力仕事を手伝い、カナは畑で働いた。村での生活は大変だったが、二人はこの平穏な日々に幸せを感じていた。
夜、レンと並んで星空を見上げながら、カナはふと思った。
「未来も、こうやって穏やかに過ごせたらいいのに……」
しかし、カナの心には一抹の不安が残っていた。未来の彼の運命を変えるためには、もっと大きな行動が必要だと感じていたのだ。
暖かい村での暮らしは穏やかで、心が癒される日々だった。それでも、カナの心は決して安らぐことはなかった。彼女には、この時間が長く続かないことを知っている苦しみがあった。
未来でレンを失ったあの日、そして再び過去に戻った自分――それを知っているカナにとって、この生活はただの「猶予」に過ぎなかった。
「レンを守るために、何を変えるべきなんだろう?」
夜になるとカナは小さなランプの灯りの下で1人、深く考え込むことが増えた。未来の記憶が次々と甦る。村が襲われ、最後にはレンの命を落とす姿。それを変えるために戻ってきたのに、今の自分は何もできていない気がしてならなかった。
「どうすればあの未来を変えられるんだろう...」
カナは、過去に戻った瞬間からそう考えていた。レンを救うためには、何かを変えなければならない。未来の記憶は鮮明だ。優しい笑顔で支えてくれたレンの死――それをもう一度目の当たりにするのは耐えられない。
どうすれば運命を変えられるのか。どんな行動を取れば、あの未来を避けられるのか。答えはまだ見つからない。
「一歩ずつ、やれることをしよう」
そう自分に言い聞かせたカナは、レンの目に触れないところで計画を練り始めていた。