第四話
1週間後の満月の夜。脱出の日になった。
夜2人は合流し、小屋に隠れる。しかし、計画は思わぬ形で崩れる。
二人が隠れていた小屋に、突然村人たちが押し寄せてきたのだ。
「お前ら、この村を出るつもりだったのか!」
怒号が飛び交う中、カナとレンは逃げ道を探すが、完全に包囲されてしまった。
「やばい……どうしよう」
カナは焦りながらも、レンと手を取り合った。
「絶対にあきらめるな。俺たち、どんなことがあっても一緒にいよう」
レンの言葉に勇気をもらいながら、カナは次の手を必死に考えた。
村人たちの怒号が狭い小屋に響き渡る中、カナとレンは焦りながらも脱出の手段を探していた。村人たちは完全に二人を囲み、「逃げられると思うな!」と叫び続けている。
「レン、このままじゃ捕まる!」
焦るカナが叫ぶと、レンは落ち着いた声で答えた。
「大丈夫だ、カナ。俺たちはここを出るんだ。何があっても一緒に。」
彼の声には不思議な落ち着きがあり、カナも一瞬だけ恐怖を忘れた。その時、レンの視線が小屋の裏にある木製の窓に向かった。
「カナ、あそこだ。窓を壊して外に出よう!」
カナは頷き、二人で窓に向かって走り出した。レンが肩で思い切り窓枠にぶつかると、古い木がバリバリと音を立てて崩れた。
「今だ!」
窓の外には村人たちの目が届かない裏手の森が広がっていた。カナとレンは窓から飛び出し、そのまま森の中へと駆け込んだ。
夜の森は暗闇に包まれ、木々が風に揺れてざわざわと不気味な音を立てている。カナは息を切らしながらも、レンの手をしっかりと握り、走り続けた。
「追ってきてる?」
後ろを振り返るカナに、レンは短く答えた。
「分からない。でも立ち止まるわけにはいかない。」
しばらく走り続けた後、ようやく二人は大きな木の下で立ち止まった。月明かりが彼らの顔を照らし、汗と土で汚れたその表情が浮かび上がる。
「やっと……ここまで来た……」
カナはその場にへたり込む。村人たちの怒声も、足音も聞こえなくなっていた。
「これで追ってこられないはずだ」
レンも息を整えながら周囲を見回す。だが、安堵したのも束の間だった。カナが足首を押さえてうずくまっているのに気づいたレンが驚いて声をかける。
「カナ、足をどうした?」
「たぶん、捻っちゃったみたい……」
カナの足首は腫れ始めており、彼女は顔を歪めながらも必死に痛みを堪えていた。
「歩けるか?」
「うん……大丈夫。少し休めば。」
しかし、レンは首を横に振った。
「無理するな。俺がおぶるよ。」
「でも、レン……」
「いいから、乗れって。俺たちは一緒に村を出るんだろ?」
そう言って、レンはカナを背中に背負った。彼の背中は温かく、力強かった。
「ありがとう、レン……」
カナは彼の背中に顔を埋めながら、未来の彼を思い出していた。あの時と変わらない彼の優しさが、胸に染み入るようだった。
その夜、二人は森の中で野宿をすることになった。レンは木の枝を集めて小さな焚き火を作り、カナを暖めようとした。
「これからどうする?」
焚き火を見つめながら、カナがぽつりと聞いた。
「まずは村を離れたことを確認しよう。それから地図を見て次の村を目指す。」
レンは力強く答えたが、カナは少し不安そうだった。
「本当に私たち、この先やっていけるのかな……?」
「大丈夫だ。お前がいるなら、俺はどんなことでもやってみせる。」
その言葉に、カナは少しだけ未来への希望を見出した。