第三話
カナは新たな決意を胸に秘め、行動を起こすことを決めた。未来を変えるには、この村を出るしかない。レンと二人で新しい生活を始めるために、準備を進める必要があった。だが、彼女たちが自立して生きるには、数多くの困難が待ち受けていることを、カナはよく分かっていた。
「レン、ちょっと話があるんだけど」
次の日の夕暮れ、カナはレンを呼び出した。場所は、二人のお気に入りの小さな川辺。ここは周囲から目立たず、二人だけの秘密の場所だった。
「どうした? 昨日の話の続きか?」
レンは首をかしげながらも、その目には真剣さが宿っていた。
「うん。村を出る準備をしようと思うの」
カナの言葉に、レンの表情が少し固まる。
「そんな急に? 俺たちまだ何も準備できてないぞ」
「だから、これから準備するの。お金とか、必要なものを集めるの。それに、どこに行くかもちゃんと考えないと」
レンは少し黙り込んだ。彼自身もこの村にいることが辛いと感じていたが、行動に移す勇気がなかったのだ。
「……分かった。お前が本気なら、俺も協力するよ」
その言葉に、カナはほっと胸をなでおろした。彼の協力がなければ、この計画は始まりすらしない。
次の日から、カナはレンとともに村を出るための計画を本格的に始めた。最初に必要だったのはお金だった。レンは畑仕事を手伝い、少しずつ報酬を得るようにした。カナも雑用を引き受け、わずかでも蓄えを増やそうと努めた。
村の人々は二人を快く思っていなかったが、彼らが働く姿を見て無下にはできなかった。
「お前ら、最近よく働いてるな」
ある日、村長が皮肉めいた声をかけてきた。
「この村を出るつもりなんじゃないのか?」
その言葉にカナは一瞬息を飲んだが、すぐに笑顔を作り返した。
「そんなわけないじゃないですか。ただ、少しでも役に立ちたいと思って」
村長は不信感を抱きながらも、それ以上は何も言わず立ち去った。カナは心の中で冷や汗をかきながら、レンに耳打ちした。
「バレるのも時間の問題かもしれないね」
「だったら急がないとな」
数ヵ月が過ぎた頃、二人の手元には最低限の資金が集まった。次の課題は行き先だ。
「行くなら、暖かい場所がいいな」
レンが冗談めかして言うが、カナは真剣に地図を見つめていた。未来の記憶から、彼らがたどり着いた村の場所をぼんやりと思い出していた。そこは小さく貧しい村だったが、住民たちは温かく、二人を受け入れてくれた場所だ。そして、襲われてレンを亡くした村だ。あの襲撃からレンを救う。それが、2人が幸せになり、助かる方法だと信じている。
「ここに行こう」
カナは地図の一点を指差す。レンはそれを見て頷き、計画が具体的になっていくのを感じた。
「よし、準備は整ったな」
レンの言葉にカナも小さく微笑んだ。この計画が運命を変える第一歩になると信じて。
計画が進む中、カナたちは新たな問題に直面した。それは、村の人々の目だ。二人が頻繁に行動を共にしていることで、周囲の疑念が強まりつつあった。
「最近、あの二人妙に仲がいいわね」
「もしかして、この村を出るつもりなんじゃないか?」
噂は徐々に広がり、村の大人たちの耳にも届き始めた。
「カナ、少し慎重にならないとダメだ」
レンが真剣な顔で言う。
「分かってる。でも、焦らないとこの計画が台無しになる」
そんな中、村長が二人を呼び出した。
「お前ら、最近妙に動き回ってるな。何を企んでいるんだ?」
村長の目は鋭く、二人を試すような視線を向けてきた。
「いえ、特に何も。ただ……村に迷惑をかけたくなくて、ちゃんと働こうと思っているだけです」
カナは必死に笑顔を作りながら言い訳をするが、村長は納得した様子ではなかった。
「まぁいい。だが、変な真似をするんじゃないぞ」
村長が立ち去ると、カナは力なく溜め息をついた。
「危なかった……」
「もう少し慎重に行動しよう。これ以上目立つのはまずい」
次の日、二人は再び村の外れで落ち合った。村を出る日程を決める必要があったのだ。
「来週の満月の夜に出よう」
レンが提案する。夜なら誰にも気づかれず、村を離れることができるからだ。カナもそれに頷き、準備を急ぐことを決意した。