第二話
カナは必死に頭を整理しながらも、目の前のレンに視線を向けた。彼の笑顔はいつもと変わらず優しい目をしていた。
「散歩、行こうよ」
レンが促すように手を差し伸べてきた。その瞬間、カナはこれが新しいチャンスであることを確信した。運命を変えられるかもしれない。レンを助けるために。
二人は村外れの小道を歩いた。冷たい風が頬を撫でるが、それさえもカナには心地よかった。隣を歩くレンの存在が、彼女の胸に温かさを灯してくれたからだ。
「そういえばカナ、昨日の寝言が隣の部屋まで聞こえたぞ」
レンが急に笑いながら言った。その顔には悪意のかけらもなく、ただの好奇心が宿っている。
「ね、寝言?」
カナはぎこちなく返す。過去に戻る時、寝言が出ていたのだろうか。
「うん。『レンを助ける』とか、『私が絶対に守る』とか言ってたらしいぞ」
レンはからかうように笑ったが、カナは冷や汗をかいた。無意識のうちにそんなことを言っていたのかと思うと恥ずかしいし、何よりこの時点で彼に不審を抱かせてはいけない。
「……そ、それは多分夢で見たのよ。なんか、変な夢だったの」
カナは慌ててごまかしたが、レンは「そっか」と軽く頷くと、それ以上は深く聞いてこなかった。
二人がたどり着いたのは、小さな丘だった。そこには枯れ草が広がり、冷たい冬空が一望できる。レンが見つけた場所は、小さな村の中では一番静かで、どこか落ち着ける空間だった。
「どうだ? 悪くないだろう?」
レンが誇らしげに言う。カナはその無邪気な姿に思わず笑みを浮かべた。この時間を永遠に守りたい、そう強く思った。
だが、カナには一つ気がかりなことがあった。それは、この村の環境そのものだ。この村では、彼女もレンも孤独だった。周りのものたちからは冷たく扱われ、腫れ物のように見られていた。もしこのまま何も変わらなければ、未来でカナは、この村での厳しい差別に限界を感じ、自殺しようとする。そこをレンに止められて、二人が村を出る決意をするんだ。
「ねぇ、レン」
カナは静かに口を開いた。
「この村を出ようって、考えたことある?」
レンは驚いたようにカナを見つめる。
「どうしたんだよ、急に。出るなんて簡単じゃないだろう?」
その言葉にカナは少しだけ俯いた。もちろん、村の掟上簡単に村を出るなんてできない。嫌われ者の2人でも若い貴重な労働源なのだ。だが、未来を知るカナにはそれしか選択肢がないように思えた。
「でも……このままここにいても、私たちの居場所なんてないよ」
その言葉に、レンは少し黙り込んだ。風の音だけが二人の間を通り抜ける。
「……まぁ、確かにそうかもしれないな」
レンがぽつりと呟いた。
「俺も、ここにいるのがずっとしんどい。でもさ、出ていった先で俺たちが生きていける保証なんてないだろ?」
レンの言葉は現実的だった。だが、カナはもう未来の結末を知っている。ここにいれば、何も変わらない。一生2人は差別を受け続ける未来のままだ。
「……それでも、私はレンと一緒にいたい。だから、どんなに辛くても頑張るよ」
その真剣な言葉に、レンは少しだけ顔を赤らめた。
「お前、たまにすごいこと言うよな」
レンが照れ隠しのように笑う。カナは少し安心しながら、その笑顔をじっと見つめた。この時間を利用して、運命を変える。それがカナの決意だった。
帰り道、カナは心の中で何度も計画を練った。村を出るために必要なもの、行き先、そしてレンを未来の危険から遠ざける方法。それらを整理しながらも、彼との日常を大切にしようと誓う。
「絶対に失敗しない……」
カナの胸に宿る新たな決意。それは小さな光となり、彼女の道を照らし始めた。
次の日、カナは新しい一歩を踏み出す準備を始める。その行動が、二人の運命をどう変えていくのかは、まだ誰にもわからない。