第十一話
祭りの夜が迫り、カナは考えを巡らせていた。何度も失敗を繰り返した末にたどり着いたのは、「武装集団の目的を先回りして操作する」という計画だった。
村を襲う理由が金に光る石と判明している今、その石を巡る争い自体を消す必要がある。後々村長に聞くと、光る石は、本物の金らしく、村が資金で困った時用に隠していた宝とのことだった。
それを聞いて、カナは本物の宝を村から失うわけにはいかないとも思っていた。宝が村の象徴である以上、それを失えば金の存在を知っている村人たちの心は沈むだろう。そこで彼女が思いついたのが、「偽物の金」を作ることだった。
カナは翌朝、レンと信頼できる村人たちを集め、計画を打ち明けた。
「私たちが村を守るためにできるのは、本物を隠して偽物で彼らを騙すこと。偽物を村から外れた洞窟に隠したことにして、そっちに武装集団を誘導するの」
村人たちは驚きの表情を浮かべたが、カナの真剣な目に押されて次第に頷き始めた。レンも腕を組みながら、しばらく考え込んだ後、意を決したように言った。
「カナの言う通りだ。宝を守りつつ村を守れるなら、それが一番いい。俺も協力するよ。」
こうして、村全体を巻き込んだ「偽物の金作り」が始まった。
村の鍛冶屋で働くグレンが鉱物を溶かして偽物を作り、塗装する作業していく。決してバレないように気に食わなければ、新しいのを作る。夜になると村人たちが交代で作業を続け、祭りの日までに偽物の金が完成した。カナはその光景を見て、村人たちの団結力に心を打たれた。
「これで、彼らを騙せる……!」
ついに満足のいく偽物の金が完成した。だが、偽物を作るだけでは計画は成功しない。武装集団に「金は洞窟にある」という情報を信じ込ませる必要があった。そこでカナは、村に潜む共犯者を利用することにした。
カナは以前の失敗から、村には武装集団に情報を流しているスパイがいることに気づいていた。その人物は村の中でも影の薄い存在、静かに酒場で耳を傾ける中年の男・コールだった。カナは何度も輪廻する中で、彼が祭りの日に不審な行動を取る姿を確認していた。
彼を疑いつつも、カナはあえて彼の耳に「宝は祭りの日だけ洞窟に隠される」という偽情報を吹き込む作戦を実行した。
カナはレンに協力してもらい、村の広場で何気なくレンに向かって話しかけるふりをした。
「ねえ、レン。お祭りの日だけ洞窟に金を隠すって、本当に安全なのかな……?」
その言葉を聞いたコールが、ふと顔を上げてこちらを見たのをカナは見逃さなかった。
「あぁ、みんなお酒とか飲むし、村の宝は安全なところに置いときたいからな。」
そして祭りの夜、計画通り偽物の金を洞窟に運び込んだカナとレンは、緊張しながら夜を迎えた。
これまでの経験では、夜更けになると武装集団が村に押し寄せ、騒乱が起きるはずだった。しかし、その夜は何も起きなかった。
レンが不思議そうにカナに話しかける。
「おい、カナ。本当にこれでうまくいったのかな?」
「たぶん……いや、きっと成功したのよ。」
カナは自信なさげに呟いたが、村が静寂に包まれているのを確認するたび、安堵の気持ちが広がっていった。
翌朝、村人たちは洞窟を確認に向かった。そこで見つかったのは、空っぽになった箱だけだった。偽物の金貨はすべて持ち去られていたのだ。
さらに、村の中を探しても、共犯者であったコールの姿は見当たらなかった。彼が村を去り、武装集団と共に逃げたのだろうと誰もが理解した。
レンが洞窟の中で空の箱を見つめながら苦笑した。
「本当に持って行きやがったな。カナの作戦、大成功じゃないか。」
カナも笑みを浮かべた。
「これでいいのよ。村も無事だったし、レンも無事だったし……もう何も失う必要はない。」
村人たちも次第に安堵の表情を浮かべ、無事に一夜を乗り越えられたことを喜んだ。
その夜、村の広場では静かな宴が開かれた。誰もが生き延びた喜びを分かち合い、カナもレンの隣で笑顔を見せた。
「これで本当に未来が変わったんだね……」
カナがぽつりと呟くと、そっとレンよ肩にもたれかかった。
「未来?まぁ村が襲われる未来はなくなって良かったよ。」
カナの言った『未来』に少し疑問を感じていたが、カナは「そうだね」
と相槌を打ち、笑った。
満天の星空の下、二人は手を取り合い、未来への希望を抱いて微笑み合った。