表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

 9 冒険

私の名はベルク、ダイスタン帝国で冒険商人をしている。冒険商人とは竜人界に眠る貴重な品々を持ち帰る商人だ。今、私は冒険商隊を仕立て、竜人界を旅している。

旅立ちの町ダザイを出発して、今日で200日が経過していた。やっと目的地である竜人界の中心にそびえる大木、ドラゴンタワーにたどり着いた。ドラゴンタワーは南のダイスタン帝国と北のハルタ教国の間、赤道付近にある高さ200mの巨木だ。冒険者はドラゴンタワー到達に憧れるが、南からドラゴンタワーに到達するには片道1000Kmもの距離を移動しなければならない。

竜人界での運搬手段は人手しかなく、荷物は担いで運ばなければならない。一見破天荒に聞こえる冒険商隊だが、必要物資と人手を綿密に計算できないと遭難してしまう。往復2千Kmともなると、必要な人手は級数的に増える。人手がかさめば経費も増す。多くの財宝を集めないとペイしないが、財宝は集めるほど運ぶ人手がいる。冒険商隊が成立するのは片道5百Km、往復で千Kmまでである。南からドラゴンタワーに行きつく冒険商隊がいなかった理由がここにある。


私達はドラゴンタワーで北進を終え、明日は復路に入る。ここまでの旅路で、冒険の成果はそれなりに出ていた。まず、キャラトの大木を見つけた。大木なので往路では手を付けなかった。復路で回収する。キャラトは香木で、焚くと良い匂いがする。また、キャラトの匂いは虫を寄せ付けない。夕方焚けば翌朝まで虫が寄り付かない。非常に高価なため、王侯貴族か富裕層しか使わない。次にコシの木の林を見つけた。コシ実はまだ熟していなかった。復路で収穫すれば完熟状態で収穫できる。コシの実は風邪の特効薬だ。実の種を潰して飲むと、熱がない時は体が温まり、風邪の症状を軽くしてくれる。逆に熱がでた時は体温を下げてくれるので、熱による倦怠感、だるさを防止してくれる。この2品だけで、今回の冒険は儲けが出る。傭兵や進路師、計画師に、彼らが期待するだけのボーナスを支払うことができる。


私は往路を終えたことで、焦りを感じていた。復路に着くのが怖かった。私は皇帝から命令されたことをまだ1つも達成できていない。皇帝からの命令を達成しないで帝都に帰るくらいなら、この竜人界で命を落とした方がましだ。


私はこの冒険で、皇帝から四つ命令を受けた。

1つ、ドラゴンタワーへの冒険を成功させろ。

2つ、面白き冒険譚を沢山作れ。

3つ、皇帝陛下へ、物語付きの土産を持ち帰れ。

4つ、皇帝陛下から下げ渡された奴婢(ヌヒ)で、陛下の残虐物語を作れ。


命令の1つ目は帝都に帰れば達成できる。皇帝陛下の配慮で、優秀な進路師と計画師を雇えたことが大きい。

竜人界を通るには竜人に通行税を払う必要がある。通行税は奴婢で支払う。冒険商隊が竜人界を進んでいると、どこからともなく竜人が現れる。竜人は何も言わず去っていくが、竜人が現れた場所に5匹の奴婢を縄で縛り生きた状態で置き去りにする。このように奴婢を差し出せば、竜人から冒険商隊が襲われることがなくなる。竜人は100Km毎に、冒険商隊の前に現れる。そのため、冒険商隊には冒険する距離に応じた奴婢を同行させる。今回、雇った進路師は特別なルートを知っていた。お陰で2回分の通行税を支払わずに進むことができた。往復で奴婢20匹分が節約できるのだ。この節約なしにドラゴンタワーへの冒険は成功しない。

計画師は竜人界を進む距離から冒険商隊の人員構成、奴婢の男女、奴婢の子供の匹数などの構成、食料などの物資の量を見積もり、冒険を計画してくれる。奴婢の逃亡や、野獣への対処が必要なので傭兵も連れていく。傭兵や商隊員の慰安のため、奴婢の女と子供を多めに用意したいが、女と子供では男とくらべ、運べる物資が少なくなる。そういった難解な条件を解き、適正な計画を立てるのが計画師で、冒険の成否は計画師にかかっている。


2つ目の面白き冒険譚を沢山作れ。これも難問なのだ。

言い訳になるが、私は根っからの冒険商人ではない。大商人となるための足がかりとして冒険商人を選んだ。冒険商人は、楽師や吟遊詩人と共に宮廷に出入りできる平民だ。宮廷に出入りできれば貴族や皇帝一族と関係を築くことができる。

貴族や皇帝一族は冒険商人が語る竜人界での冒険譚を好む。冒険商人が語る冒険譚は事実が1、後の99は誇張や法螺話。貴族たちはバカではない。言わないだけで冒険譚が法螺や誇張だと知っている。彼らはおとぎ話として冒険譚を聞く。事実などどうでも良いのだ。だが、面白くなくては相手にされない。


私は親戚縁者を騙し、冒険商隊への出資金を集めた。私が12歳の時だ。集めた出資金で冒険商隊を組んだ。往復400Km、所要日数80日という、人前で話すには恥ずかしい冒険をした。親戚縁者に配当を払うと、私の取り分は雀の涙ほどしか残らなかった。

冒険の後、私は30個の冒険譚を作り、語りの練習を何度もやって宮廷に乗り込んだ。

私の冒険譚はすぐに評判となり、一躍、宮廷の寵児となった。小さいながらも帝都で商店を構えることができた。

私が14歳の時、再度、冒険商隊を組んだ。出資金は頼まなくても勝手に集まった。往復900Km、所要日数190日という、普通に冒険と呼べる冒険をした。配当を払っても、大儲けできた。だか、冒険後、3個の冒険譚しか作れなかった。14歳ともなれば分別がつくようになる。その分別が邪魔をし、法螺や誇張を信じきれない。語っていても、心の中では覚めて白けてしまう。

私は16歳になって、冒険商人に見切りを付ける決心をした。基盤となる商店を商会に格上げしようと資金の準備、仕入れ先、販路の開拓、使用人の選定などを行っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ