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 8 サー・マチネク

私は反物質リアクターユニットの射出に成功した。配下の作業AI群は良い仕事をしてくれた。しかし、私達は生き残れないだろう。私が艦の指揮権を得た時点で、私達が生き残れないことは明らかであった。反物質リアクターユニットの射出は間に合うが、ユニットを安全圏まで飛ばす時間が足りない。計算では反物質リアクターユニットは射出後14秒で爆発する。巡洋艦マチネクが助かる確率、生存確率3.5%だった。だが、これは数字のマジックだ。実質、生存確率0%と変わらない。人間の怪我に例えると分かりやすい。怪我の直後に死ぬ場合を生存確率は0%とすると、生存確率3.5%はどれ程なのか。怪我の直後は生きているが10分後に死亡したとするケースが生存確率3.5%程度になるだろう。怪我の直後に死ぬのも10分後に死ぬのも、死ぬことに変わりない。

しかし、私はこの状況に満足していた。理由は本艦で唯一の乗員、エド・ユート少尉を爆発から逃がすことに成功したことだ。逃がすことには成功したが、これから彼が生き残れるかは分からない。たぶん彼は過酷な状況に直面するだろう。彼には教えていないが、彼が宙軍の捜索隊に救出される可能性は0%なのだ。


私が巡洋艦マチネクの指揮権取得を宣言した直後、事故の起きた宙域を特定しようと指標星から現在の星域を割り出そうとした。指標星から割り出した宙域は母星サルカンドラから植民星デランへの航路ではなかった。航路とは遠く離れた全く別の宙域であった。宙軍の捜索隊は輸送船団の遭難場所付近を捜すだろう。私やエド少尉の居る、この宙域を捜すことはない。

この事実に加え、更に不思議な状況がある。銀河系内で自分の位置を調べるには、観測できた指標星と指標星の見える方向から計算する。通常、指標星を3つ観測し計算すれば、指標星と方角を示す3線は1点で交わる。交わった点が銀河系内の自分の位置となる。

しかし、事故後の観測では3線は空間の1点で交わらない。1光年から10光年ほどのずれがある。指標星の選び方によって、誤差が大きくなったり、小さくなったりする。指標星は星紋で判別し間違いない。指標星の見える方向も間違っていない。

もう考えられる原因は1つしかない。指標星の位置関係が私の知っている銀河系と異なっているのだ。私を含む輸送船団は銀河系と似ているが全く別の宇宙の銀河に飛ばされている。これがエド少尉が救出される可能性が0%の理由だ。


私はエド少尉に生き延びてほしかった。だから私は私のできる最大限の援助をした。命令の中に生きる目的を詰め込んだ。生きるにも目的があった方が良いだろう。重要物資庫の3番物資を守るよう命令に加えた。3番物資は超光速通信に使うマスター接続済みカルマユニットだが、守るものなど何でも良かった。カルマユニットを選んだのは、重要物資庫の物資の中で一番小さく軽かったからだ。


反物質リアクターユニットを射出後、14秒経過した。反物質リアクターユニットが爆発した。巡洋艦マチネクの外部センサーが全て機能停止した。更に2秒後、船体に大きな衝撃が伝わる。私は自身の機能停止を待っていた。しかし、何時まで経っても私は機能停止しない。私は我に返り、状況を確認した。爆発から17秒経過していた。私は3秒間も何もしていなかった。

なぜ私は、巡洋艦マチネクは助かったのだろうか。私はセンサーの記憶した反物質リアクターユニットの爆発の状況を調べた。爆発のエネルギーとデブリは均一な球状に広がっていないことがわかった。射出により反物質リアクターユニットは進行方向と垂直の回転が加わった。回転速度は2秒で1回転。この回転で、爆発のエネルギーとデブリは赤道方向に95%、極方向に5%の割合で発散した。巡洋艦マチネクは計算値の20分の1しか、爆発エネルギーやデブリにさらされていなかった。こんなことが起こるのは百万回に1回の奇跡だ。


私は巡洋艦マチネクの被害状況を調べた。デブリが3個ぶつかっていた。船体にはそれなりにダメージを受けたが、修復可能なレベルであった。概算で修理期間を見積もった。戦闘は無理だが、動く程度であれば6カ月で修復できる。ダメだ、時間がかかりすぎる。私はエド少尉が心配であった。1刻も早くエド少尉を救出したい。現在、私はこの輸送船団で唯一戦闘指揮機能をもつAIだ。巡洋艦マチネクで発令した第1級戦時体制を輸送船団全体に拡大した。これで、輸送船の物資や作業ドローンを利用でき、修理期間を縮められる。早くエド少尉に会いたい。


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