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 7 後始末

戦闘の被害を確認するため、救命ボートの外に出た。最初に丸太で打ちつけられた救命ボートの外壁を確認した。外壁の耐熱セラミックが割れて剝がれていたが、壁自体は壊れていなかった。竈は壊されていない。薪は散乱しているが拾えばいい。トイレは恐竜が踏み抜いたのだろう。潰れていた。新しいトイレの穴を掘る必要がある。だが、大した手間ではない。丸太が2本転がっていた。私1人で、丸太2本を切り出し、ここまで運ぶとすると、丸1日作業しても終わらないだろう。これは本当に助かる。

丸太ついては、興味深い点が見つかった。丸太の切断面が美しいのだ。鋭利な刃物で切ったように見える。丸太を切り倒した方法を知りたかった。

早速、トイレの穴掘りに取り掛かる。直ぐに終る。次に丸太を片付けるため、救命ボートに近い1本をノコギリで切断した。これで午前の作業は終わりとした。午後は死んだ恐竜の調査に向かった。途中、丸太を切断した木の切り株が見つかった。近くには払った枝と木の先端部分が散乱していた。切り株の切断面を確認すると、やはりこちらも鋭利な刃物で切ったように美しかった。

恐竜のいる場所に近づく。デイの忠告通り、離れた場所から、恐竜にライフル弾を1発づつ撃ち込み死亡を確認した。

恐竜に近寄って確認する。まず最初に死因を調べた。死因は出血死と断定した。死んだ恐竜は大量の血を流していた。出血痕にはレーザー弾の弾痕があった。レーザー弾が体表近くの動脈か太い静脈を切断したのだろう。

次に恐竜の外形を調べた。恐竜は驚くほどの大きさだった。体長は4m、体重は1tはある。足の長さは2m弱、手の長さは1m。手は5本指で、人間の様に、親指が他の4本と正対する構造だ。槍を持ち、鎧を着る個体がいることに納得する。恐竜は器用さも持っている。

足は指に特徴があった。第2指、第3指、第4指の3本は前を向き、太く頑丈にできている。第1指は足の反対側に出ており、その指先の爪が長さ60cmの片刃になっていた。刃は少し足裏側に湾曲している。そして第5指も第1指と同様に足の裏側に出ており、指先の爪は20cmの片刃になっている。ただ刃の湾曲はなく直刀であった。近くの木のえだを取り、切れ味を確かめた。第1指の爪の刃、第5指の爪の切れ味を確かめたが、共に葉を力を掛けずに切断できた。これは使える。サバイバル用品には剃刀がなかった。これで髭と髪の毛を整えられる。ナイフはあるのだが、切れ味が足りないので、髭と髪の毛の手入れに利用できなかった。ぜひ持ち帰り、サバイバル用品に加えたい。野生動物に荒らされる前に回収することを決めた。


*     *


逃げ帰る道中、ゲグナルは作戦が失敗した原因を考えていた。

まず、先遣隊で離れザルの巣を取り囲み、離れザルの逃亡を阻止する。先遣隊は逃亡阻止に成功した。丸太班は訓練時より迅速に丸太を切り出した。運搬も5人の息が合い、丸太を巣にぶち当てることができた。予定ではパニックを起こした離れザルが巣から飛び出してくる。それを待ち構えている狩人が足爪で離れザルを狩る。これで今日の仕事は終るはずだった。

実際には離れザルは巣の中で怖気づいたのか、巣から飛び出してこなかった。だがこれも想定内だ。私はもう1つの丸太班を用意していた。二の矢を放とうと、第二班を巣に突進させた時、異変が起こった。

第二班の先頭がいきなり転び、悲鳴をあげた。先頭が丸太を落としたため、丸太班は急停止した。先頭だけではない、丸太班の狩人が次々と悲鳴をあげ、倒れ転げまわっている。直ぐにその理由が分かった。いきなり俺の肩口に強烈な痛みが走る。俺は反射的に悲鳴をあげてしまった。その後のことはよく覚えていない。俺が正気に戻った時、狩人たちはバラバラな方向に走り出していた。退却の命令を発したが、パニックになった狩人達には届かなかった。俺は近場で倒れていた狩人を起こし、東に退却するよう命令した。俺の命令に従った狩人は2人しかいなかった。東に退却しているときも2回、背中に痛みが走り、転んだが、なんとか3人で東の林の中に逃げ込んだ。

もう離れザルどころではなかった。散ってしまった狩人を集めるため、3人で咆哮をあげた。西や南、北から応答の咆哮が聞こえた時にはホッとした。

皆集まってきたが、内2人の元気がない。少し東に移動するが、2人は移動に遅れ、ついてこれなかった。そこで俺はもう一回休憩を取った。その休憩後、3人の狩人が立てなかった。俺は立ちあがれない3人をその場に残し、村に帰還することを決めた。


村に戻った俺は族長に俺の見た事実を私情を交えず、淡々と報告した。村への帰り道、俺は何が間違っていたか何度も考えた。しかし、俺の知恵では分からなかった。族長であれば、教えてくれるだろう。そう思い、事実を伝えることに徹した。


ハシムサン「残した狩人はサムラの子のガワラとブンガ。ヒシの子のドバンか」

ゲグナル「はい」

ハシムサン「今からサムラとヒシを訪ねる。ゲグナルよついてまいれ」

ゲグナル「その前に私は何を間違えたのでしょう。お教えください」

ハシムサン「それは後だ。サムラとヒシを見舞うのが先だ。自分を優先する心根を改めよ」

ゲグナル「心に刻みます」


サムラもヒシも最初は怒りを俺に、そして族長にぶつけてきた。俺は誠心誠意謝るしかできなかった。別れ際、族長はサムラとヒシに自分が悟りの義に入ること、そして俺がその悟りの義の先導となることを伝えた。悟りの儀とは東にある聖山に赴き、悟りを開く修業をすることなのだが、それは建前でしかない。村からの追放に体のいい理由を付けたに過ぎない。我ら竜人は孤では生きられない。東の聖山に着くころには2人共死んでいるだろう。


ゲグナル「悟りの義の先導は受け入れます。私の何が間違っていたのでしょうか。族長、いやオババ様、お教えください」

ハシムサン「お前は間違ってはいない。お前の戦った相手が離れザルでは無かったのだ。別の何かだった。だからもう悩むでない」

ゲグナル「では村が危険なのでは。次の族長が、奴に手を出すかもしれません」

ハシムサン「我の置き土産として、長老たちには奴に手出しせぬよう申し渡しておく。心配は無用。2人で楽しく聖山に赴こうではないか」


*     *


次の日、私は斧とノコギリを持ち、恐竜の爪の刃の回収に向かった。第5指、20cmの爪は剃刀にピッタリで、手に入れられたことは本当に嬉しかった。第1指、60cmの爪の用途は今は思いついていないが、必ずサバイバルに役立つと思う。なのでこれも回収した。恐竜3体の爪の回収は2時間も掛からなかった。恐竜の爪の回収は午前中いっぱいを予定していたため、大幅に時間が余った。私は作るかどうか迷っているものがあった。それをこの空き時間で作ることにした。

作ろうと考えていたのは恐怖のオブジェだ。このオブジェを見た恐竜はオブジェを見ただけで恐怖する。私への恐怖心は私への攻撃を抑制するだろう。ぜひ、恐竜には恐怖してもらいたいのだ。地面に杭を刺し、その杭の頂上に恐竜の頭を刺す。これで恐怖のオブジェができあがる。

恐竜は知的生命体だ。今の知的レベルに至れば、間違いなく葬送の概念も生まれているだろう。葬送の情を逆なでし、怒りと共に恐怖を引き起こす。戦いは怒りが引き起こすのではない。戦えば勝てると思う相手を舐めた心が引き起こすのだ。恐怖した相手を舐めることはできない。

私は恐竜の頭を回収した。重かったが3体の恐竜の頭を持ち帰った。救命ボートから500m離れた所に3か所、杭を撃ち込んだ。次に持ち帰った恐竜の頭を杭の頂上に刺した。頭は簡単には外せないよう、制御ウイングのロープでキツく固定した。こうして恐怖のオブジェが完成した。


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