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 5 知的生命体

今日朝起きると、デイから重要な報告があると聞かされた。

食事が出来上がるまでの時間に、重要な報告を聞くことにした。


『デイ、重要報告を聞かせてくれ』

デイ「昨夜、01:40から02:00にかけ、救命ボートは知性体からの偵察を受けました。

知性体の人数は5名でした。彼らは東南東から救命ボートに近づいてきました。

命令者と思われる1名は200m付近で4名と別れ、北に20m移動して待機しました。

残る4名は5m間隔で横方向に展開し、10歩進むごとに6秒の休止を取りながら救命ボートに近づいて来ました。

4名が96mまで近づいた時、命令者が撤退を命令した模様です。

4名の内の1名が了承の返答をかえすと、5名は撤退していきました。

彼等の行動は洗練されたもので、陸軍の特殊部隊の行動にも引けを取りません。

行動から知性を推測すると、人間種の知性と同等です。

ただ、彼等は人間種ではないと推測します。足の長さが1.5mほどありました。人間種で足の長さが1.5mとすると身長は3mになります。人間種で身長3mは考えられません」


またまたデイはとんでもない報告をさらりと伝えて来た。今回は重要が付いているだけ、まだましか。

知的生命体とは遭遇したくなかったが、この遭遇は不可抗力だ。重要なのは爭いにならないことだ。

偶然の遭遇も避けたい。私のサバイバルは更に選択肢が狭まった。同時に知的生命体との敵対の危険性も増した。


『デイ、今、その知的生命体が半径5km以内に居ないかどうかを調べたい。ドローンを上空1kmに飛ばし、索敵する。問題は無いか?』

デイ「問題なし、ドローンを飛ばします。1分後に上空1kmに到達。到達と同時に索敵を開始します。索敵時間は2分掛かります」

『知的生命体を発見した場合はドローンは上空にそのまま待機、知的生命体がいない場合はドローンを降下させ収容してくれ』

デイ「了解」


ドローンの索敵で、知的生命体は半径5km以内にはいないことが分かった。

今日の日課の水汲み兼食料調達はいつも通りやると決めた。水と食料の調達を取りやめるとサバイバルが破綻する。

安全を確保するため、30分おきにドローンを上空に飛ばし、索敵をすると決めた。知的生命体を発見した場合、軍事リンクで私に知的生命体の発見を知らせてもらうことにした。

今日はライフルの弾倉に40発の銃弾を込めた。拳銃の弾倉にも20発の銃弾を込めた。


『デイ、知的生命体は走ると早いだろうか』

デイ「速いと思います。最高速は時速60Kmほどではないでしょうか」

『遭遇したら逃げるのは不可能だな。遭遇しないことが重要ということか』

デイ「はい、遭遇し、狙われたら逃げられません。もし、襲われたら、戦う心構えをお願いします」

『了解』


私はいつもと同じように水汲みに出かけた。今まで安全に思えた道中であったが、今日からは一変して、怖い道中に思える。足取りも早足になり、いつもより5分も早めに着いた。釣りをしたが、釣れるまで、とても時間が掛ったように思われたが、実際はいつもより早めに目標の釣果を達成していた。

ドローンと軍事リンクがつながり、自分の周辺に知的生命体がいないことが分かったので、取りやめようと考えていた水浴びも済ませることができた。これで安全なネグラに、やっと帰れるという安心感と同時に、たかが水汲み、食料調達、水浴びにここまでびくびくしなければならない境遇が腹立たしかった。

昨日までの、安心できた世界は一夜にして消え、被食者として生きていく世界が現れた。

世の中には狩るものと狩られるものがいる。そのことは理解していたつもりだが、狩られるもの、被食者の世界が不安に満ちていることを私は初めて体験した。


デイ「エド少尉、具申があります」

『具申を許可する』

デイ「今日の午後に予定している西方面の探索を取りやめ、保留としたセンサー群のうち、機体監視センサーとマルチコミュニケーターの修理を提案します。

保留とした理由は修理部品がない点と、救命ボートのエネルギー枯渇で使える期間が半年しかないので、修理労力に対する見返りが合わない点でした。

しかし昨夜の知的生命体の偵察を受けたことで状況が変わりました。機体監視センサーは救命ボート周辺の索敵装置となります。マルチコミュニケーターのレーザー通信機能は出力と発信時間を調整すれば、レーザー銃として使うことができます。

更に音声受信機能は知的生命体の命令を受信できます。音声送信機能は知的生命体の命令を発信できます。知的生命体が攻撃してきた場合、偽装した命令を発信することで、攻撃を混乱させることができます」

『デイの具申を了承したいが、壊れてしまった部品調達はできるだろうか』

デイ「部品調達に関して、救命ボートAIから提案がありました。機体監視センサーとマルチコミュニケーターの故障した部品は船外に設置されているデータ収集ユニットです。両者の品番は違いますが、ハードは同じです。ソフトウエアにより専用部品となります。救命ボートにはこれと同一のハードが12台あります。その内5台は惑星降下や着陸制御に使用されており、もう使うことがありません。これらを取り外し、ソフトウエアを置き換えれば機体監視センサーとマルチコミュニケーターのデータ収集ユニットを作ることができます」

『修理に掛る見積もり工数を教えてくれ』

デイ「6時間です」

『デイの提案を了承する。では今から作業に取り掛かる。手順を指示してくれ』

デイ「機体点検口3番の6号ブロックを開き、36番ユニットと75番ユニットを外してください」


なぜか今日は作業に集中できた。デイの予想より1時間以上早めに作業を完了することができた。

デイは機体監視センサーを使えば救命ボート周辺1Kmまで索敵できると教えてくれた。目視できる草場の先、木々の生えた林の中まで索敵できるので安心感が半端ない。マルチコミュニケーターのレーザー通信装置を利用したレーザー銃はレーザー発信器の最大出力20Kw、発光時間を0.1秒に調整した。調整値で魚に試射し、威力を確かめたが、直径3cm、深さ5cmの範囲が炭化し吹き飛んでいた。一発では致命傷を与えるほどの威力は無いが、連射が効くので攻撃の足止め効果が期待できる。


最初に偵察を受けた日から、暫く知的生命体は姿を現さなかった。

今日は惑星サランに来て11日、救命ボートの索敵装置とレーザー銃が完成して4日めの夜だった。

私はデイに起こされた。


デイ「エド少尉、起きてください。例の知的生命体がいます。距離千m、方角は東南東、人数は5名です。時速20Kmの速度で近づいてきました」

『了解、監視を続行』


私は乗員シートから飛び起き、陸戦戦闘スーツを着る。


『知的生命体の姿を確認したい。モニターに映してくれ』

デイ「現在、距離800m、現在、障害物で視認不能。草場まで90m地点を通過」


モニターには木立しか映っていない。連中が森を出て、草場に出れば確認できる。モニターを注視していると、知的生命体の姿が映った。それは恐竜であった。5人の恐竜の顔は歩いていても上下左右にぶれないので細かい所まで良く見えた。表情からは知性が感じられた。更に驚いたことには5人の恐竜は槍を持っていた。それに服も着ている。まて、鎧かもしれない。このような相手にどう対処したら良いのだろう。宙軍の初期訓練課程では、このような状況の対処方法は教えてくれなかった。私は判断もせず、モニターを見続けた。


デイ「現在、距離400m」


「ギーギィキグ」最後尾の恐竜が声を発すると恐竜の隊列はその場で止まった。

「グ」最後尾の恐竜が再び声を発する

恐竜の隊列は、前回と同じように10歩進むごとに6秒の休止を取りながら近づいてくる。100mまで隊列が近づいた時、最後尾の恐竜は右に10mほどずれて止まった。前方4人の恐竜は10歩前進6秒休止のリズムで近づいてくる。私はどう対処したら良いか全く思い浮かばなかった。


デイ「対処方法を命令してください」

『待機、観察、手出しは禁止』

デイ「了」


とうとう4人の恐竜は救命ボート手前10mまで近づいてきた。4人は散らばり、トイレや竈、薪置き場、ゴミを埋めた場所を調べている。それらを5分程調べた後、救命ボートに近づいてきた。持っている槍で救命ボートの外壁を突いて感触を確かめている。大きな音を出さないよう加減して壁を槍で突く行為は高度な知性を感じさせる。


「イゥグーア」司令官の恐竜が声を発すると4人の恐竜は後ずさりで救命ボートから離れだす。20mほど離れると、司令官のいる方向に10歩前進6秒休止のリズムで帰って行った。5人が草場から森に入ったのを確認し、デイに命令する。


『奴らの基地を確認したい。ドローンで奴らを追跡したいが、問題はないか』

デイ「問題ありません。5体のトカゲを追跡します。ドローンを発射、高度2千m。軍事リンクを維持しします」

『デイ、奴ら知性体はトカゲじゃない。恐竜って言うんだ。トカゲは4足歩行だが、恐竜は2足歩行をする』

デイ「了解しました」


私はドローンが追跡する5人の恐竜の画像を見続けていた。5人は疲れ知らずのようだ。時速30kmを維持し、東に走り続けている。

モニターを注視していたが、私はミドルスクール時代にプレーしたゲームのことを思い出していた。見知らぬ惑星に降下し、恐竜を捕まえ、奴隷として使役しながら惑星生活を楽しむ。最初は弱い恐竜しか奴隷にできないが、奴隷にした弱い恐竜を足がかりに、より強い恐竜を奴隷にする。次々に奴隷を作り、最後は化け物のように強い恐竜も奴隷にする。私はなんだか恐竜が可哀そうになり、ゲームは序盤の段階で投げ出してしまった。私にはゲームのコンセプトが合わなかったのだと思う。


明け方4時になり、連中の足が止まった。救命ボートから東、90kmの地点であった。そこには102人の恐竜が確認できた。体の大きさは1.5mから4mまで大きさの違う恐竜が同居している。基地ではなく部落と呼んだ方がいいだろう。大きな建物はない。皆木々の梢で寝ているようで、ジッとしていた。恐竜は昼行性の可能性が高い。ドローンは救命ボートとの軍事リンクを維持するため、現在の高度は3千m、この位置からは恐竜の詳細が掴めない。高度を下げれば詳細を確認できるが、90Kmも距離があると、高度を下げると軍事リンクが途切れてしまう。今の高度が軍事リンクを維持する最低高度であった。


『デイ、恐竜を詳しく調べたい。高度を下げる必要がある。ドローンを一時、軍事リンクから切り離し、自律航行させる。自律モードで恐竜の詳細を調べるようドローンに指示して欲しい』

デイ「了解、調査時間を指示してください」

『09:00まで調査を頼む』

デイ「了解」


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