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48 生きること

私は魔弟の暗殺に成功した。奥歯と頬の間に隠した毒玉を吐き出し、テントの入り口に体を向けた。護衛達は皆、倒れた魔弟に注意を向けている。誰も私達暗殺者に注意を向けていない。リーダーのチャロは既にテントの入り口を出るところだった。私たちは運が良いのだろう。武器を持った7名の護衛は私達暗殺者の殺害や捕縛より、魔弟の保護を優先してくれた。毒を飲んだコラン以外の9人は無傷でテントから脱出できた。


魔王軍の兵士は魔弟のテント目掛け、走って行くが、どの兵士も私達9人を咎めなかった。


タラ「これからどうするの、チャロ」

チャロ「魔王軍の武器を奪い戦う。ダザイに逃げる。どちらか選べ」

ジュディ「どちらも嫌。私は奴婢のキャンプに戻る」

チャロ「そうか。好きにしろ」

タラ「ジュディ、魔王軍に捕まって、殺されるよ」

ジュディ「そうかもね。でもね、もう奴婢の印は消えない。ダザイに逃げて、奴婢として生きるのは殺されるより嫌なの」


誰も魔王軍との戦いを選ばなかった。チャロも含め4人がダザイへ逃げた。残った5人は奴婢のキャンプに戻った。5人でまとまっていると見つかりやすいということで、5人は別れ、バラバラになった。


次の日、元奴婢はヒムガム市民への参加の意志の有無を確認された。ダザイに残り、奴婢として生きることを選択する者はいなかった。全員がヒムガム市民となることを選択した。私は暗殺者狩りがあるのではとおびえていたが、いつまでたっても、魔王軍の暗殺者狩りは始まらなかった。


おびえて過ごすこと数日、私達の輸送が始まった。ハルファンとボルキンを経由しヒムガムまでの2カ月の旅であった。魔王軍に護衛され安全であることと、十分な食料が与えられたこと、余裕のある行程であったため、元奴婢たちは皆元気であった。いつしか私も暗殺者狩りの不安を忘れていった。


ヒムガムに到着し、最初に与えられた仕事は教育であった。元奴婢たちは文字の読み書きと数の計算について、6カ月の基礎教育を受けた。私は既に教育を受けていたので退屈な時間だった。基礎教育に続いて3カ月の専門教育が受けられるのだが、官吏、兵士、特殊の3コースがあり、面接を受けて決める。私は事前に兵士コースを希望することを伝えていた。

面接はゴーレム先生が行う。私の順番が来て、ゴーレム先生の待つテントに入った。


ゴーレム先生「ジュディ、貴方の希望する兵士コースは受理できません。官吏コースか看護師4級コース、医官補助師4級コースであれば受理できます」

ジュディ「私は兵士の資質があると思います」

ゴーレム先生「はい、兵士としての資質は十分です。ですが貴方の経歴に問題があり、魔国としては貴方を兵士にできません。貴方は魔弟様の暗殺を企てました。その時点で、兵士になる資格を失いました」


私は驚きのあまり声が出せなかった。魔国は私が魔弟の暗殺者だと知っていた。それにも関わらず、私を殺しもせず、野放しにしていた。


ジュディ「私は殺されるのでしょうか」

ゴーレム先生「いいえ、魔弟様の命令は『殺すな』でした。殺すことはありません。魔国の市民として精一杯生きてください」

ジュディ「私は魔弟を殺したのですよ。それでも許されるのですか」

ゴーレム先生「はい、貴方が魔弟様の暗殺を企てたことは事実ですが、魔弟様は生きていらっしゃいます。ニュースボードを読まないのですか。魔弟様の活躍が掲載されていますよ。

重大な忠告をします。今、私は教師モードのため、貴方の不敬は注意にとどめますが、魔弟様の敬称を省くなど不敬です。魔弟様に敬意を持って接することを勧めます」


市民広場にあるニュースボードのことは知っていたが、私は為政者に都合の良い嘘を宣伝するモノと思い込んでいたため、読むことは無かった。改めてニュースボードを読み、この8カ月のことを理解した。

ダイスタンの奴婢は5カ月前に解放されていた。解放された奴婢は5千人に上る。ダイスタンの元奴婢はボルキン郊外に作られた第2教育センターで教育を受けている。1カ月前にダイスタン帝国の村や町の全てがヒムガム魔国に恭順した。ダイスタン帝国は滅んでいた。21あったダイスタン帝国の属国も奴婢を解放し、ヒムガム魔国に恭順していた。この大陸でヒムガム魔国に恭順を示さない国はハルタ教国のみとなっていた。

今、魔弟様は大草原とハルタ教国の国境に築陣し、ハルタ教国を併合する準備を進めている。半年後にはヒムガム魔国による奴婢の解放が完了する。


兵士になることを諦めた私は官吏コースを受講した。そして大草原の中央駅の官吏に任じられた。私が配属されたのは遊牧民課で、遊牧民課は遊牧民の戸籍を管理する組織である。定期的に遊牧民のキャンプを巡り、出生届と死亡届の受理、族長の登録を行っている。届を出すと慶弔金を渡すので遊牧民は喜んで届を出してくれる。

私は採用課の1人、保健衛生課の1人、巡回判事1人、商業課1人でチームを組み、行商商隊に同行し、マウで旅をする生活を送っている。


赴任してから1年、この仕事を続けているが、私には天職であった。旅は楽しいし、遊牧民の男はおおらかで、心根ばかりでなく私の体との相性も良く、私を満足させてくれる。実は、ある遊牧民の族長から愛妾にならないかと誘われている。子供を産めない体であることは告げたが、彼は私にキャンプの子供の教育を任せたいと言った。次に巡るときに返事をすることになっている。もちろんイエスと返事をするつもりだ。私は遊牧民となり生きていこうと思う。


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