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44 帝国の策

夜明け前、帝都に爆発音が2回鳴り響いた。私は家の者を走らせ原因を探った。家の者が持ち帰った情報は最悪だった。「月の神殿が瓦礫となっている」というのだ。私は月の神殿に急いだ。夜明け前だというのに、神殿に近づくにつれ、人出が多くなる。月の神殿に着くと、人だかりが出来ていた。人をかき分け前に出る。神殿も神殿に並ぶ宿舎や教堂など全てが原型を止めていなかった。現場で状況を調べていた警備兵を捕まえ状況を聞いたが、生存者は見つかっていないという。死者も原型がなく、見つかるのはバラバラになった体の一部のため、身元の特定は難しいようだ。

私の期待していた二の矢は折れてしまった。もう打つ手がない。


ベルク「皇帝陛下、早朝、勇者5人が殺害されました。月の神殿も破壊されました」

皇帝「魔王の仕業か」

ベルク「勇者は魔王討伐のため、召喚いたしました。証拠はありませんが、魔王かと」

皇帝「月の神殿を見張らせた耳目声も焼き殺されておった。魔王とは何者なのだ」

ベルク「人間以外の何かとしか」

皇帝「ベルク、そなたは魔王に会っているだろう。魔王はどれほどの力をもっておるか答えよ」

ベルク「知力は人間以上かと思います。魔王や魔弟が武を振るうところは見ておりません」

皇帝「力の分からぬ相手と戦うのは難儀だな」

ベルク「申し訳ありません」

皇帝「勇者が殺されたことは民の知るところだ。ベルク、閉門を命じる」

ベルク「承りました」


宮殿からの帰り道、私は使い人を親と兄弟の元に走らせたが、既に親と兄弟の家は閉門し、連絡が取れない。更に妻の親も閉門している。どうやら私の運もここまでのようだ。もうヒムガム魔国討伐軍が大勝してくれることを願うしかなかった。もし大勝したのなら、私1人の命で許されるだろう。妻子や親族に害が及ぶことが避けられる。


皇帝陛下から閉門を命じられ、4カ月が経過した。もうとっくに帝国とヒムガム魔国の戦いは始まっている。私は世間と遮断されているため、状況が分からなかった。宮殿から使いが来た。陛下がお呼びだという。いよいよ運命の時が来たようだ。


宮殿に着くと飛竜の間に通された。部屋には軍務卿が先着していた。挨拶したが軍務卿の表情は硬く、言葉数も少ない。やはり、ヒムガム魔国を攻めあぐねているのだろう。しばらくすると陛下が官吏を伴い入室してきた。軍務卿と私は起立、深礼をし、陛下の着席を待った。


陛下「着席を許す。軍務卿、ヒムガムへの討伐軍の状況を報告せよ」

軍務卿「1カ月半前、東軍8千はヒムガムの東4Kmに築陣を完了しました。同時に北軍との中間地点に連絡拠点を構築しました。東軍に遅れること2日、北軍1万2千はヒムガムの北6Kmに築陣を完了しました。ダザイからアロキアまでの街道沿いに補給部隊5千人を分散配置しました。1カ月半前までの戦況報告書はダザイの情報部隊に届いたのですが、以降の戦況報告書は届きません。情報部隊から連絡兵を北軍、東軍に送ったのですが全員帰ってきません。ヒムガム側に配置した補給部隊の2千とも連絡がつきません。ヒムガムは国境線で情報を遮断しています。現在、戦況がどうなっているか不明です」

陛下「耳目声、戦況を答えよ」

耳目声「北軍、東軍に同行した耳目声からの連絡が途絶えました。耳目声をヒムガムに潜入させましたが、一人も帰って参りません。アロキアに潜入させた耳目声からも連絡が途絶えました」

陛下「ベルク、この状況をどう見る。答えよ」

ベルク「連絡が途絶えて1カ月半、最悪の状況かと思います。全滅したとみるのが妥当でしょう」

陛下「他にないか」

耳目声「アロキアから帰った商人達の話ですが、旧リンガハン難民に給金賦役が課せられたとのことで、賦役の内訳はは武器防具の回収、死体運搬、物資運搬とのこと。求人数は1万5千、期間1カ月、場所はヒムガムの校外との事です」

軍務卿「状況は全滅です。ですが普通、被害が1割も出れば、軍は退却します。士官はそう教育されています。そこが解せません」

陛下「軍に作戦はあるか」

軍務卿「帝国に残された兵は兵8千と補給兵4千です。招集をかければ10万を集められます。ただ、全滅の原因が分からぬ故、イタズラに兵を失うことになるかもしれません」

ベルク「軍務卿に賛成いたします。通常の兵力は魔王軍に通じません」

陛下「ベルクに案はあるか」

ベルク「暗殺を計ってはいかがでしょう」

陛下「詳しく」

ベルク「魔王軍は都市を落とす時、奴婢を差し出させます。奴婢をヒムガム魔国の市民とするためです。奴婢の中に暗殺者を忍ばせ、魔王、魔弟を狙います」

陛下「耳目声、意見はあるか」

耳目声「奴婢を暗殺者に仕立てるには5年以上の時間が必要です。無理がるかと」

ベルク「逆です。暗殺者を奴婢にするのです」


耳目声は言葉に詰まった。周りは耳目声も人の親と言うことだろうと理解したが、耳目声は自分達を暗殺者と見ていない。皇帝の守護職と考えているため、暗殺者と自分達が結びつかなかっただけなのだが。


陛下「耳目声、どうなのだ」

耳目声「我ら耳目声は幼少から暗殺術を習います。奴婢の刺青を入れ、服を剥げば奴婢となります。陛下のご命令とあらば、喜んで適齢期の耳目声を奴婢として陛下に献上いたします」

陛下「耳目声よ、魔王と魔弟の暗殺計画の立案と実行を命じる」


私はヒムガム魔国討伐軍が健在で、戦闘中であるとの噂話の流布を陛下から仰せつかった。激戦につぐ激戦の末、英雄の出現で討伐軍が勝利するという、皆が期待する物語を何本も作成し、民に流布した。民は嘘の噂と知らず、戦勝話に酔いしれている。一部、西方とつながる商人は信用していないようだが、彼らの声は小さい。世間では無視された。


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