表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/50

41 帝都脱出

『監視者を索敵』

B46「神殿の周囲、監視者1、2、3」

『キル、監視者』

B46「了」

B46「監視者、キル、完」


月の神殿の周りで、母さんや勇者たちを見張る3人の監視者達の始末が終わった。これで帝都を脱出する準備は完了した。

時刻は午前3時、私と母さんは勝手口で勇者がトイレに立つのを待っていた。手紙で指示した時刻になった。勇者シュウが音を立てないよう静かに階段を降りてきた。勇者シュウは帝国の提案に乗らない選択をした。他の4人は帝国の味方となった。


シュウ「私に3分下さい。やり残したことがあります」

母さん「やり残したことですか?」


シュウは返事も聞かず、召喚堂に向かっていく。仕方なく私と母さんも後を追う。シュウは何のためらいもなく、召喚堂の中に入って行った。止めようとしたが、声が出せず、見ていることしかできなかった。シュウは中央のカルマ結晶の前まで進み、うずくまった。同時にシュウの体が青く光った。光は直ぐに消え、シュウはこちらに戻ってきた。


シュウ「ありがとうございます。終わりました」


何をしたのか気になったが、聞いている時間が無かった。私たち3人は無言で勝手口を出て不浄門に向かった。ここからは私が先導した。


『尾行の有無、監視』

B46「了」


帝都は下水が完備されていないので、し尿を人手で廃棄する必要がある。し尿は汲み取り業者が夜間に回収し、帝都の外に運び出す。不浄門はし尿や動物、奴婢の死体専用の門で、夜間しか開いていない。業者利用の専用の門なのだが、夜間、帝都で開いている門は不浄門しかない。そのため、どうしても夜間に帝都を出入りする必要がある場合、一般人もここを利用する。一般人がここを利用する場合、一人銀貨3枚の通行料が必要になる。通行料と言っているが賄賂である。守衛は通行料さえ払えば、見て見ぬふりをする。

ここまではリンガハンの貴族が書き残した備忘録にあった情報だ。今は備忘録を信じ、行動している。情報が間違っていて、事故が起こるかもしれない。その時は強行突破する。強行突破のプランも作成済みだ。

私たちは30分で不浄門に着いた。不浄門では料金として金貨1枚を渡した。守衛は無言で銀貨1枚を返し、門を通してくれた。強行突破しなくて済んだことにホッとした。門からの道はし尿処理場へと続くが、わき道に進み、街道に出た。街道に出ると、夜明け前だと言うのに帝都に食料を運ぶ荷車で混んでいた。マウの鳴き声や人が大声で話すため、辺りは雑然としていた。しかし、これで私たち3人は目立たなくなった。


母さん「シュウ様、帝国の提案を受けなかった理由をお聞きしても良いですか」

シュウ「やはり、奴婢制度の存在です。僕と同世代の男女が強制的に、しかも裸で働かされる制度を維持しようとする帝国に味方などできません。

他の4人から、日本の価値観でこの世界を見てはいけない。日本の価値観をこの世界に押し付けるべきでない。この世界の価値観を受け入れろと言われました。

理屈は一見、通っているのですが、僕には逃げにしか聞こえませんでした。彼らと何回か話したのですが、差は埋まりませんでした」

サニー「シュウ、魔王軍で働いてみませんか。魔王様も歓迎してくれますよ」

シュウ「すこし考えさせてください。ヒザシも日本語が話せるんだね。いままで一度も話さなかったので驚きました」

サニー「母さんから習いました。ところでシュウ、召喚堂では何をしていたのですか」

シュウ「僕の勇者の力は『対話』です。真理の光と話すことができます。真理の光から頼まれたんです。連れ出してくれと。周りの人や機械に迷惑をかけないと誓ってくれたから、僕は真理の光との融合を受け入れました」


シュウの話は突っ込みどころが多すぎて、この場所で、掘り下げる気にならなかった。

暫く街道を進むと、荷馬車の混雑も止み、人気(ひとけ)が途絶えた。


『周囲1Kmを索敵』

B46「人2、マウ2、東北東781m、以上」

『キル、勇者4。破壊、月の神殿』

B46「要5分、可否」

『可』

B46「了」


しばらく進むと道は林に差し掛かった。時刻は朝4時を少し回った。もう月は沈んでいるため、辺りはかなり暗かった。


B46「勇者4、キル、完。月の神殿、破壊、完」

『了、帰還』

B46「了」


帝都方面からドンドンと2回、太鼓を鳴らしたような音が響き、木々の上で寝ている鳥が起きたのかバサバサと頭の上で羽音がした。かなり小さい音なので、母さんもシュウも気に留めなかった。

これで今回の帝都遠征作戦が完了した。作戦の達成目標は全てクリアした。マチネ姉さんに作戦の完了を軍事リンクで報告した。マチネ姉さんから褒められると期待していたが、「早く帰れ。いつまで仕事を押し付けるのか」と逆に叱られた。マチネ姉さんに褒められるのは本当に難しい。


B46「頭上着」

『索敵、周囲1Km』

B46「ゼロ」

『着地』

B46「了」


B46空中B型ドローンは周囲1Kmに私たち3人しかいないことを報告して来た。私はB46に降下着陸を要請した。


サニー「母さん、シュウ。ドローンが迎えに来ました。降りてきます。ここで待ちましょう」


私たちはドローンに乗ってヒムガムに帰還した。シュウの世話は母さんに任せた。業務のほとんどはマチネ姉さんが処理してくれていたが、1カ月半も留守にしたため、私が処理しないとダメなものが山積みだった。帰還後1週間は地獄のような忙しさであった。


私が留守にした期間も含め、この2か月で市民が育ち始めた。市民の教育に力を入れた成果だろう。塩の道構築隊であるが2隊を追加し4隊を運用できるようになった。

現在は200個の石積み、距離にして800Kmの道を作成した。現在は大平原の中央基幹道の2割を構築できた。塩の道構築隊も更に増やす予定があるので、4カ月後には大平原の中央まで中央基幹道を伸ばし、初めての駅を作る予定だ。

行商人が途絶えたため、大草原では塩が不足し始めていた。道構築隊は塩の行商と道構築を兼用する部隊のため、塩の供給量は限られる。そこで行商の鑑札を発行し、認定した行商人に大平原での商売を許す行政令を発令した。次に、アロキアで塩の専売制を実施した。同時に行商での塩の小売価格にも制限を掛けた。この専売制は利益を独占するためではない。塩の値段を安定させるためである。

遊牧民に供給する塩は隣国のハルファンの岩塩鉱山に頼っていた。マチネ姉さんより、6カ月以内にハルファンを併合せよとの命令を受けている。サー・マチネクの調査によればハルファンの岩塩鉱山では2千の奴婢が働かされている。早く解放してやりたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ