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40 勇者

今日は朝から慌ただしい。司祭様や若い学際達が勇者召喚の準備をしていた。午後になるとベルクも月の神殿に入り、待機した。勇者と入れ替わりに異世界に赴く望む人とその家族も月の神殿に入った。日が落ちると、5人の望む人が召喚堂に集められ、司祭様が最終の確認を行った。召喚堂に入れば、もう生きて外に出ることはできない。5人は納得の上で召喚堂に入った。召喚堂の外から家族は望む人が眠ったりしないよう声をかけ続けている。眠ってしまうと異世界には行けず、真理の光に吸収されてしまうそうだ。


夜8時をすぎ、3つの月が夜空に並んだ。月の光が召喚堂の中央を照らすと、中央の床が青く光りだした。召喚堂の床に座っていた5人の望む人が消えた。望む人たちは異世界に赴いたのだろう。望む人の家族は満足した顔で召喚堂を退出していった。


私たちはこの後に起こる勇者召喚を待った。5人の望む人が消えた後、床の青い光は更に強くなっていた。時刻は夜10時、3つの月の真ん中の月が南中する。床の青い光が一瞬、揺らめく。召喚堂には5人の人間がいた。どうやら勇者召喚は成功したようだ。司祭様からは事前に、勇者が召喚堂を出るまで絶対に声を掛けてはいけないと注意されていた。勇者召喚を見守る者は司祭様の注意を守っていた。


勇者たちはなかなか召喚堂から出てこなかった。司祭様によれば、勇者たちは今、真理の光と対話している。この対話で勇者は自分の与えられた力を自覚する。10分ほど召喚堂に留まった勇者は一斉に召喚堂から外に出てきた。出てきたのは青年3名と少女2名だった。年のころは私と同じくらいだろうか。


母さん「お待ちしておりした。勇者様方、こちらにおいてください。ここは危険です。安全な場所にご案内致します」

勇者「ここは何処、あなたはだれなの」

母さん「歩きながらお話させてください。ここはダイスタン帝国、異世界です。私は通訳官のクミコと申します。こちらに控えるのは息子のヒザシです。勇者様とこちらの人との会話を通訳します」

勇者「私たちはどうなるんですか?」

母さん「ダイスタン帝国より勇者様に魔王討伐の命令が下ります。しかし、直ぐにと言う訳ではありません。この世界をよく観察し、深く思索してください。そのうえで、どの様に生きるかを決めてください」

勇者「拉致しといて、酷い。元の日本に戻して」

母さん「そうですね、酷いことをします。勇者様を元の日本に戻すことは不可能です。ですから、この世界でどう生きるかを考えてください。これから勇者様に合わせる人物は勇者召喚の発案者で、責任者です。一つ忠告をさせてください。この人物を非難をしても何も益になりません。今は勇者様にとって緊急事態です。雰囲気に流されることなく、自分をしっかり持ち、正しい判断を心がけて下さい」


勇者一行はベルクの待つ、聖堂についた。ベルクは司祭席で満足そうに私たちを見下ろしていた。ベルクが話し始めると母さんが同時に翻訳をする。勇者が話すと同時に翻訳をベルクに話す。


ベルク「勇者御一行様、私はベルクと申します。皇帝陛下の相談役と同時に勇者隊の責任者です。皆様、自己紹介して頂けませんか」


勇者1「俺はヤマダ・レン、15歳だ」

勇者2「俺はキムラ・ユウマ、15歳」

勇者3「私はサトウ・ユイ、14歳」

勇者4「私はシバタ・アオイ、15歳」

勇者5「僕はカワイ・シュウ、15歳」


ベルク「今、帝国は魔王軍の攻撃にさらされています。魔王軍は西方のリンガハン王国を滅ぼし、ヒムガム魔国を興し、さらに力を蓄えています。ヒムガム魔国は帝国の生命線ともいえる奴婢の供給を断ちました。奴婢なしに帝国の繁栄はありません。この理不尽に対抗するため、皇帝陛下は軍を派遣し、ヒムガム魔国の魔王軍と戦います。しかし、魔王軍の力は強大です。勇者様には魔王軍と戦う我らをお助け頂きたいのです。タダで助けろとは言いません。勇者様に永代にわたる貴族の称号と領地を与えます。この世界で生活するに十分な富と言えましょう」

ユウマ「話は理解しました。私たち5人で話し合いの時間を下さい」

ベルク「よろしい、話し合いの時間を与えましょう。7日後の午後、また参ります。その時までに決めて頂きたい。良い結論を期待しています。質問や要望があればクミコ通訳官にお話下さい。出来得る限りの善処を致します」


キムラ・ユウマは冷静な判断で、考える時間を稼いだ。自分達の考えを整理、まとめたいのだろう、5人だけで1日話し合っていた。1日の終わりに、魔王軍とヒムガム魔国を知る専門家1名、貴族と領地に関する専門家1名、商業の専門家1名の助言を求めてきた。ベルクを通じ、専門家を3人招き、勇者たちの質問に答えさせた。勇者たちは思い悩んでいるようだが、心の内は明かさなかった。

勇者たちは月の神殿以外の世界を知らない。母さんの発案で帝都を観光することになった。最初は宮殿から初めて、観劇、公園、ティーハウスでお茶と軽食を取った。最後に市場を案内した。市場には奴婢があふれている。この世界では一般的で、ありふれた存在のため、誰も気に留めないが、常識の呪縛に囚われない者からみた奴婢は人間を動物として扱う卑劣で残酷な制度である。母さんから、誰が、どの様にして奴婢を作るかを教えられ、勇者たちは少なからずショックを受けたようだ。


明日は勇者達が帝国に協力するか否かをベルクに回答する日だ。母さんは勇者達と夕食の会食を申し込んでいた。会食が終わろうとする頃、母さんは今日の本題を切り出した。


母さん「勇者様に私の素性をお話しします。私は勇者様と同じ世界からこちらに迷い込んだ人間です。私もあなた方と同じ日本人です。私は勇者様を同胞だと思っています。同胞として最後の忠告を致します。ただ、この忠告は勇者様の考えを否定したり、行動を縛るものではありません。

明日、勇者様はダイスタン帝国の提案を受け入れるか否かを返答しますね。ダイスタン帝国の提案を受け入れる場合は何の問題もありません。これ以降の話は忘れてください。

ダイスタン帝国の提案を拒否する場合、問題が起きます。提案を拒否した勇者様の命は暗殺者に狙われます。暗殺者はどこに逃げようと追ってきます。ただ1か所、暗殺者が入れない国があります。魔王軍が治めるヒムガム魔国です。ヒムガム魔国で市民になり、生きて行けます。ご希望であれば、私共がお助けします。

勇者様、私の目を見てください。はい、では私共の助けを求める方は、素早く瞬きを2回お願いします。確認できました。ありがとう」


サニーは食事が終わると、素早く席を立ち、勇者達の部屋に向かった。助けを求めた勇者のドアの下から手紙を滑らせ投函した。


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