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36 帝国の介入

周辺諸国はリンガハンの動乱を監視、警戒していた。帝国も例外ではないが、帝国は周辺に20を超える属国を有しているため、属国の動乱など珍しくない。今まで、放置していたが、新国が興った。この事態を受け、やっと帝国は重い腰を上げた。


耳目声「リンガハン王国の現状を説明いたします。王都のリンガハンは魔王軍の攻撃で廃墟となりました。魔王軍はリンガハンの領有を宣言したため、リンガハン王は首都を放棄し、アロキアを首都としました。この状態が8カ月続いたのですが、2か月前、リンガハンの跡地にヒムガム魔国が勃興し、リンガハンをヒムガムと改名、同時に首都と定めました。ヒムガム魔国の王は魔王の弟で、魔弟と称しています。10日前、ヒムガム軍はアロキアを攻略しました。リンガハン王家および貴族8家は隣国のハルファンに亡命しました。リンガハン王家がリンガハン王国を出国し、領有を放棄したため、105ある町村は全てヒムガム魔国に恭順しました。以上であります」

皇帝「対応は如何に」

ベルク「陛下、耳目声に質問してもよろしいでしょうか」

皇帝「許す」

ベルク「ヒムガム魔国を興した民族とその人数をお教えください」

耳目声「遊牧民と思われますが、部族の詳細は不明です。人数は100に満たない数です」

ベルク「100に満たない人数で国を興したのですか」

耳目声「ヒムガム魔国は奴婢を市民として取り込みました。奴婢を含めると2600を超えます」

ベルク「奴婢を市民にしたというのですか」

耳目声「はい、廃墟に暮らしていた1000匹、アロキアの1100匹、町村で飼われていた500匹を取り込み、市民と致しました」

ベルク「不思議です。魔弟はどの様にして国を維持する考えなのかわかりません。国の維持には官吏が必要です。官吏には数を統べる力と文字をを統べる力が必要です。遊牧民と奴婢は官吏に向きません。官吏無くして税の徴収は不可能でしょう。武力は問題ないのですが、武力だけでは国は維持できません」

皇帝「ヒムガム魔国は続かぬと申すか」

ベルク「はい、来年の税の徴収もままならないと思います」

皇帝「触らぬのが最良か」

ベルク「いえ、陛下、リンガハンは奴婢の畑です。リンガハンの混乱で奴婢の供給が滞っております。まだ、供給が途絶えて1年未満ですので、奴婢の値段は上がっていますが、それ以外の影響は出ていません。しかし、混乱が数年続けば、大きな影響が出ます」

皇帝「大きな影響とは何か」

ベルク「長距離の荷運びはマウに引かせますが、短距離や込み合った場所、マウに適さぬ場所の荷運びは奴婢を使います。荷揚げ、配達、市場と冒険は大きな影響を受けます。これらは市民の生活に関りが深いため、市民から不満がでます」

皇帝「不味いな、何か対策は無いのか」

ベルク「ヒムガム魔国に対して奴婢3千匹の朝貢を求めてはいかがでしょうか。奴婢3千匹はリンガハンからの年間の供給量に当たります。ただ、朝貢を求めて従わない場合、軍を動かす覚悟が必要になります」

皇帝「良い案だ。採用する。秘書官、書記官に伝えよ。

ベルクは民意を動かせ。ヒムガム魔国が奴婢の朝貢を断れば、荷運びが滞るとの噂、ヒムガム魔国が帝国に嫌がらせをしているという噂を同時に流せ」

秘書官「御意」

ベルク「はい。承りました。陛下、お願いがあります、朝貢の使者ですが、私にお命じ下さい」

皇帝「許す。日程と文面は秘書官と詰めよ」


私はヒムガム魔国へ朝貢を命じる使者に任じられた。そして今、ヒムガム魔国へ向かって歩を進めている。道中、魔王、魔弟のことを考えていた。魔王にあった時、当時は怖さが先に立ち、冷静に魔王を評価できていなかった。自分の知っている魔王の力は知力だけだ。魔王はどんな武力を持っているのだろう。竜人を3体も屠る力があるから相当な武力だと推測するのだが。

軍の武力は魔王に通じるのだろうか。竜人と軍の武力は、竜人1体と軍人100人で釣り合うと聞いたことがある。魔人の巣には3体の竜人の首が串刺しにされていた。だとすれば魔王1人に軍人300人で釣り合う。安全を見れば500人だろう。軍1個大隊か。

魔弟が奴婢の朝貢令など受け入れるとは思えなかった。陛下に奏上した朝貢令は実質、軍の派兵案なのだ。私が使者を申し出たのは、魔弟の武力を計るためだ。適切な軍事力を派兵し、ヒムガム魔国を滅亡させなければならない。そして奴婢の供給を再開させ、冒険を守る。自分を育ててくれた竜人界への冒険は無くなって欲しくなかった。

帝都からヒムガム魔国まで20日の旅となる。始まりの町ダザイを過ぎたころから、リンガハン王国を魔王軍が攻めた時の状況が噂として流れてきた。部下達にはリンガハン王国関連の噂は全て報告させている。


噂を集めた結果、重大なことが分かった。まず、リンガハン王国と魔王軍の戦争だが、リンガハン王国は一戦も戦わず、破れ、アロキアに逃げたことが分かった。魔王軍がリンガハンの水を止めたため、住民はリンガハンで暮らせなくなった。王族、貴族、平民はリンガハンでの居住を諦め、アロキアへ逃走した。戦争が頭脳戦であることが良くわかる。

次にアロキアの陥落だが、魔弟が指揮を取った。魔弟はアロキアの物流を止めた。物流を止めた上で、宣伝戦を開始する。魔弟が提示した条件を飲めば、平民の生命と財産を保証することを住民に宣伝した。条件とは奴婢の放棄と王族、貴族の財産の提出であった。王族、貴族は平民の敵になった。王族、貴族はアロキアで暮らせなくなり、彼らは財産を持って、隣国に亡命した。ここでも戦いは起きていない。

リンガハンの王族、貴族は一戦も戦うことなくリンガハン王国を失ったのだ。

魔王も魔弟も純粋な軍事力を一度も示していない。しかし、これは光明かもしれない。ヒムガム魔国は奴婢と遊牧民の寄せ集めだ。軍として機能するとは思えない。魔王や魔弟が個として天才的な知力を持っていたとしても、圧倒的な軍事力をぶつけることで、粉砕できるのではないか。


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