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31 ヒムガムの野営地

ヒムガムの手がかりとなるスランカを捜しながら、西へ行商の足を伸ばした。行商ごとにスランカの放牧地を聞いて、進む方向を調整している。なので確実に近づいている。

今日は遊牧民に会えなかったので、野営だ。夕食どきは会議の時間でもある。


マチネ「サー・マチネクから遊牧民の位置が示されました。南西10KmにキャンプAがあります。次は西南西58KmにもキャンプBがあります。どちらのキャンプもヒジを集めていないので移動は先です。行商順はキャンプAからキャンプBの順で行きましょう」

私「了解、西の山脈まで、どのくらいの距離だろう」

マチネ「もう千Kmを切りました。935Kmです。ただ、西の山脈は南北で1500Kmあるので、南北の移動が大変です。山脈の麓近くにいるキャンプは三つで、それぞれ500Km離れているので、事前に候補を絞った方が良いと判断します」

私「ありがとう。次のキャンプがスランカだといいな」

マチネ「スランカである確率は99%です」


今日は対面にマチネが座った。今日はマチネの日か。夕食の席で、私の対面に座った相手と同衾する。そういう決まりが出来ていた。どちらが同衾するかはマチネとクルミに決めてもらっている。もちろん、二人と同衾しない日もある。その日はサニーと夜空を眺めながら、サニーのせがむ星の話を聞かせながら寝る。


翌日、最初に尋ねたキャンプはスランカであった。通常の塩とマウの取引を終えた。取引後お茶を出されたのでヒムガムについて聞こう。


私「私はヒムガムを探しています。ご存じのことを教えて頂けませんか」

族長「ヒムガムは西の果てに逃げた臆病者たちだ。何故、ユート殿はヒムガムをお探しか?」

私「英知の使徒に会ってみたいのです」

族長は目を瞑り、暫く考えていた。そして、そば仕えの者を呼び耳打ちをしていた。

族長「失礼した。ヒムガムについては思い出したくない事ばかりだ。ユート殿にお話すれば思い出してしまう。私からはお話できません。もしヒムガムを知りたければ直接訪ねるのが良いでしょう。彼らが隠れる場所を知っています。その場所を教えましょう」


族長が合図すると、そば仕えの者が2枚の巻物を族長に手渡した。族長は1枚の巻物を解き広げた。出てきたのは地図だった。上に山脈が、下にリンガハンが描かれていた。上は西、下は東、右は北、左は南であることが解る。我らの放牧地はこの当たりと言いながら小石を地図の上に置いた。


族長「ヒムガムの放牧地はこの辺りです。2本峰の山が真上に見えます。赤き大地と黒き大地の境が

真右に見えます。ここは草丈の伸びが鈍く放牧地に適さぬ地、ここで放牧するのはヒムガムだけです」


私『マチネ、私達の地図で場所を特定してくれ』

マチネ『特定した地図をVV(バーチャルビジョン)に上げました』


私のVVにマチネが上げた地図が見える。サー・マチネクが特定してくれた、このキャンプがヒムガムなのだろう。しかし、キャンプの構成がおかしい。人間が82人、ヒジが1835匹、マウが105頭しかいない。西の大平原で最弱の構成であった。人間自体が少ないのに加え、ヒジは人数の30倍、マウは人数の2倍がキャンプ構成の平均値なのだが、ヒムガムのキャンプは平均を大幅に下回っていた。私には病んでいるように見えた。


族長「ヒムガムに会うには、こちらをお持ちください。ヒムガムは行商人を敵視しています。普通に近づけば、ヒムガムの攻撃を受けます。これはヒムガムとの友好の旗、私達がエリコの野営地跡から回収した物です。この旗を掲げていればヒムガムの攻撃を受けないでしょう」


渡されたのは長方形で大きさは縦1m、横1.5m、白地に赤い丸が中央に描かれたシンプルな文様の旗であった。


私「良いのですか。貴重な品と思いますが」

族長「エリコが滅びて10年、恨みを忘れる良い機会です。どうぞお持ちください」


*    *


そば仕え「族長、あの行商人は信用できるのでしょうか」

族長「たわけ、行商人は皆、奴婢狩りの手先だ。信用などできるはずが無かろう。あの行商人を利用したまでだ。我らではヒムガムに恨みを晴らす手段が無い。行商人を通して、奴婢狩り達にヒムガムの野営地を教えたのだ。我らの恨みは奴婢狩り達が果たしてくれよう。これでエリコの恨みがやっと果たせる。エリコの民も天で喜んでいるだろう」


*    *


とうとうヒムガムの野営地が分かった。現在地より、西南に1150Km。行商なしで進めば6日で着ける。ヒムガムに会うのが目的なのだから、当然、行商は無しだ。しかし、ヒムガムはどうなっているのだろう。


私「マチネ、ヒムガムのキャンプの構成が異常だ。原因を調べてくれないか」

マチネ「ユート様も気付いていましたか。人間と動物が共に数を減らしています。細菌などの生物学的な要因である可能性は低いです。サー・マチネクにヒムガムの野営地付近の地形と鉱物性の毒物を調べてもらいました。西の山脈から小さな川が平原側に流れ込んでいるのですが、川の水に銅が含まれています。銅関連の中毒が原因だと考えます」

私「ヒムガムの野営地付近は鉱物毒に侵されている可能性が高いのか。鉱物毒を防ぐ方法はあるのかな」

マチネ「川の水を中和する施設を作ります。次に銅を採掘すれば可能ですが、現実的ではありません。人体は銅に対して高い耐性があります。この土地を離れることで中毒症状は消えます」

私「ありがとう」


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