表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/50

30 西の大平原

カルマ結晶を取得し、基地に帰った直後、私にとって重大事が発生した。私はマチネ少尉とクルミから前婚を申し込まれた。前婚とは結婚するかどうかを試す期間で、6か月が目途となる。私は驚いたが、了承した。私も男なので、結婚の意志を示した魅力的な二人を前に、自分の気持ちを抑え続ける自信が無かった。前婚期間をすぎれば3人は自動的に結婚に至る。マチネ少尉はAIだが、人格権を持っている。人間と人格権を持ったAIとは結婚できる。サルカンドラ連邦の法律では複数人婚を認めている。当然3人での結婚は可能だ。

しかし、ひとつ問題があった。軍規では階級が異なる者は性的関係を結べない。階級の上位者がハラスメントで軍から追放される。このままだと私は軍から追放される。そのことは二人も分かっていて、クルミ二等兵は前婚に先立ち、軍を退役した。そして軍のサポーターとなった。今は身分は階級を持たない軍属だ。

ついでだが、サニー三等兵はリンガハン調査の功で昇進し、二等兵となった。


カルマ結晶を手に入れて1カ月がたった。私達4人は西の大平原に来ている。当然だが「カルマの光」作戦は継続しているが、ここ6カ月、地上での作業や作戦はない。今は軌道エレベータの工作機械の完成待ちの状態だ。

私にはリンガハンでやり残した仕事がある。軍事作戦とはいえ、リンガハンに千人強の奴婢たちを置き去りにし、放置した。リンガハンには住民が残していった資材があるが、その資源も有限だ。直ぐに底をつくだろう。彼らには導くものが必要なのだ。私がなれればいいが、私には別の使命がある。私は候補を思いついた。しかし、彼らは今も西の大平原に生きているだろうか。


そこで私は西の大平原で彼らの調査を思い立ち、マチネ少尉に相談した。リンガハンの奴婢は私の責任なので、西の大平原の調査は私1人で行うつもりであった。しかし、いつの間にか4人で調査することになった。私は1人で行くと言ったが、3人の拗ねた態度との不満顔に抗しきれなかった。


私達4人は商人を装い大草原を旅している。商うのは塩だ。この塩はアロキアで仕入れた。塩は最も重要な大草原との交易品だ。塩は大草原では取れない品なので、遊牧民は交易により手に入れる以外にない。リンガハンが壊滅したため、商人キャラバンも消滅した。そのため、アロキアの塩は行き場を失い値崩れしていた。私はアロキアで売られていた塩の全て、およそ30tの塩を買った。袋で言うと1200袋になる。

全部は持ちきれないので、20tは筏に置いてある。行商には10tだけ持っていく。

移動ドローンに木製の荷馬車を10台けん引させ、見つけた遊牧民と物々交換をしながら、大草原を旅してきた。移動ドローンには遠くからでも見えるよう「塩の旗」を掲げているせいで、遊牧民を捜さなくても彼らの方から近づいてくる。

遊牧民たちは小型の草食雑竜ヒジを放牧し生活している。ヒジからは革と肉が取れる。流通しないが卵や血も取れる。ヒジの革と干し肉は交易品である。移動には中型の草食雑竜マウを使う。遊牧民はマウを上手に乗りこなしながらヒジを放牧している。遊牧民の中にはマウを専門に飼う一族もいる。

遊牧民は15組前後の親戚が集まって1つのキャンプを作る。1つのキャンプの人数は100人から150人ほどだ。遊牧民は放牧地でヒジやマウに草や低木を食べさせる。その放牧地の葉を食べつくすと、次の放牧地に移動する。放牧地の移動は2カ月毎に行う。1年で5箇所の放牧地を循環している。

彼らの話す言語はクルミやサニーの話す宮廷新語に近い。宮廷新語であれば8割程度は通じる。遊牧民の生活に即した単語が多く、それらの単語を覚えれば、会話には困らない。


右前方500mほどにマウに乗った遊牧民が見えた。4人いる。彼らは「ホホーィ、ホホーィ」と繰り返しながら、少しづつ我々に近づいてくる。この言葉は遊牧民が敵意の無いことを示す掛け声で、我々が「ホホーィ」と返せば、我々も敵意がないことを示したことになる。


サニー「ホホーィ、ホホーィ」

サニー「ユート様、僕が交渉してきます。彼らの野営地は僕の位置でわかりますよね」


そう言うと、私の返事も聞かずに、近づいてくる遊牧民に向け、マウを走らせて行ってしまった。サニーのマウは遊牧民との物々交換で手に入れたものだ。マウは駆け足では時速35Km、速足で時速20Km、並足では時速12Km出すことができる。さらに並足では8時間くらい連続で平気で乗ることができるので、非常に機動力が高い。サニーは直ぐにマウにハマり、ここ2週間。夢中で練習していた。まだ、遊牧民とは比べようもないが、速足なら遊牧民に付いていけるくらいになっている。


クルミ「ユート様はサニーに甘すぎます。マウだってサニーがねだれば、直ぐに買って与えるし」

私「サニーは初めてできた弟なんだ。大目に見て欲しい」

マチネ「ユート様、サニーは南西5Kmの窪地に向かっています。舵を切ります」

私「ありがとう」

マチネ「クルミ、行商の準備をしなさい。今日は遊牧民の野営地で一泊します。いいですか」

クルミ「はい、姉さん」


30分で遊牧民の野営地に着いた。サニーは遊牧民の子たちとマウを使った鬼ごっこで遊んでいた。交渉などしていないのは明らかだ。クルミのサニーを見つめる目が厳しい。この後、クルミに叱られることだろう。

まづ、キャンプの長老に挨拶し、行商の許可をもらう。するとキャンプの家族たちが荷車に近づき、商品を物色するのだが、私達の商品は塩だけだ。家族たちには見本に用意してある塩の塊を無料で配った。


私「どれだけ必要ですか」

長老「6袋買いたい」


塩は1袋25Kg、6袋だと150Kgになる。塩は人間ばかりでなく、ヒジやマウにも与えなければならない。6袋は1回の取引量としては普通の量であった。


私「支払いは」

長老「ヒジの干し肉、ヒジの革はある」

私「成体のオスのマウ3頭、成体のメスのマウ12頭、あとヒジの革30枚でいかがでしょう」

長老「10Kgで1頭と革2枚か。よろしい。取引成立だ」

私「では後日、別の者に取りに越させます。契約状を頂けませんか」

長老「木簡を刻み、後でお渡しする」

私「ありがとうございます」


商売が終わり、長老から茶が振舞われた。私は今回の調査目的のヒムガム一族について長老に聞いた。


私「ヒムガム一族について教えてください。何でも構いません」

長老「ヒムガム一族か。苦い話だ。まあ、知っていることを話そう。ヒムガム一族は我らとは心根が異なる一族だった。彼らは戦いを恐れぬ。彼らも昔は草原の中原で暮らしていたが、この地を狙う奴婢狩りと戦い、敗れ、西方に去った。彼らの暮らす地は西方高山の麓にあると聞く。あまりに遠いので正確な場所は分らぬ。

ところで、ユート殿はエリコ一族のことは知っておるか?」

私「エリコ一族ですか。初めて聞く名です」

長老「ヒムガム一族は奴婢狩りと戦いに際し、周りの部族の支援を求めた。ほとんどの部族は戦いを好まぬ故、支援しなかった。唯一エリコ一族だけがヒムガム一族と共に戦った。奴婢狩りはヒムガムを避け、エリコを襲った。ヒムガムがエリコを助けようとエリコ一族の野営地に向かったが、時すでに遅くエリコ一族は皆殺しにされていた。これがキッカケで、ヒムガム一族はこの地を去ったのだ。エリコ一族は滅んだが、エリコ一族と血のつながりのある一族が西方に今も暮らしている。スランカ一族という。その部族ならもう少し詳しい話が聞けるかもしれん」

私「スランカ一族ですね。貴重な話、ありがとうございます」


ヒムガムについてやっと次の手がかりを得た。この地の長老からは聞けなかったが、ヒムガムには「英知の使徒」と呼ばれる英雄がいるとの情報がある。わたしはこの英雄に会ってみたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ