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23 人類・ビラン戦史

同盟歴2075年、人類同盟は初めて、人類同等の知性を持つ生命体と出会う。人類はこの生命体をビランと名付けた。ビランとの邂逅は人類に取って悲劇的であった。

ラグバラ星系ウガリの植民星モナンシとの通信が途絶えた。ラグバラ星系ウガリ政府は植民星モナンシに宙軍の艦船を派遣した。宙軍の艦船は星系級巡洋艦であったが、正体不明の敵との交戦の報告をした後、通信を断った。

ウガリ政府は平和国家であったため、強力な軍を持っていなかったが、国家の総力をあげて軍団を構成し、植民星モナンシに向かった。

軍団は植民星モナンシ付近の宙域まで、進軍できたが、そこで、敵と交戦状態に入る。ウガリ宙軍は果敢に攻めるが、敵も強く、戦争は長引くことになった。

戦争の硬直状態を打破しようと、ウガリ政府は人類同盟の他の政府に支援を求めたが、当時の人類同盟の政府は領土問題や貿易問題、人種偏見などで協力し合う状態ではなかった。

ウガリ政府は戦争開始から軍に予算をつぎ込み、軍を増強した。そして20年後、ウガリ宙軍はビランを撃破し、植民星モナンシを奪還した。


植民星モナンシの人口は開戦前、96億人であったが、奪還時の人口は40億人に減少していた。この20年で人口の60%が減少した。ウガリ政府は植民星モナンシで何が行われたのかを調査した。


植民星モナンシの軌道エレベータの軌道側が何者かに占拠され、使用不能になった。同時に軌道上にある人工衛星や有人施設との通信が途絶えた。

次に、植民星モナンシ全土で住民が風のような症状の後、死亡する病が猛威をふるった。原因は未知のウイルスと特定できたが、ワクチンは作成できなかった。この未知のウイルスはスレーブウイルスと名付けられた。スレーブウイルスにより、人口の1割が死亡した。スレーブウイルスの流行は一旦終息したが、植民星モナンシの住民に異変が起こった。植民星モナンシの肌色は6割が黄色、2割が黒色、2割が白色なのだが、生まれる子供は全て白色の子であった。肌色白化の原因を調べると、スレーブウイルスの遺伝子の一部が人間の遺伝子に取り込まれていることが原因だった。ただ、肌色白化以外の不利益は見当たらなかった。

9年後、次の異変が起こる。子供の顔の頬に黒い横筋が現れる奇病が流行した。この奇病もスレーブウイルスの遺伝子が原因であった。8歳を過ぎると、子供の頬に黒い横筋が現れる。頬に黒い横筋が現れた子供は1年以内に死亡する。この年、黒筋病で9千万人の9歳児が死亡した。

黒筋病で住民が打ちひしがれている時、初めて敵からの接触があった。彼らは植民星モナンシに黒筋病の子供の提供を求めてきた。提供の見返りに、提供人数の2倍の黒筋病治療薬を出す。子供1人を犠牲にすると、子供2人が助かる。だが植民星モナンシの政府はこの要求を受け入れなかった。人口が急激に減少したのはこのためだ。


植民星モナンシの奪還後、住民の遺伝子を調べ、治療方法を探ったが、スレーブウイルスの遺伝子は完全に人間の遺伝子に組み込まれ、人類の科学では、治療できなかった。生まれる子供が9歳で死ねば、遠からず植民星モナンシは滅亡する。


ウガリ宙軍はビランの足跡を辿り、96光年先にビラン惑星を発見した。このころには植民星モナンシの悲劇は人類同盟の諸世界に広く伝えられ、人類同盟諸国の民意はビラン討伐で結束していた。

ウガリ政府の要請で人類同盟の諸政府はビラン討伐軍への派兵を決定した。ビラン討伐軍はビラン惑星を滅亡寸前まで追い詰めた。

しかし、ここで横やりが入る。ビラン主星から講和の打診がウガリ政府にあったのだ。討伐軍が攻めていたのはビランの植民星だった。

ビラン主星が提示した講和条件の中で、黒筋病治療薬の提供があった。黒筋病治療薬の効果を確かめるため、サンプルの提供を求め、その効果を計った。結果は良好であった。

黒筋病は未来永劫、植民星モナンシの住民を苦しめるだろう。何らかの原因で黒筋病治療薬の供給が途絶えると植民星モナンシの人類は絶滅する。しかし、今、黒筋病治療薬を手に入れなければ100年で植民星モナンシの人類は絶滅する。

講和を受け入れるか否かは植民星モナンシの住民に委ねられた。植民星モナンシは講和を受け入れた。

ウガリ政府がビランと講和条約を結ぶと共に人類とビランは平和条約を結ぶ。

こうしてつかの間の平和が訪れた。


同盟歴2579年、人類同盟の全惑星で一斉に奇病が流行りだした。症状は突然高熱がでて、2週間ほど高熱が続く。高熱に耐えられない者は死亡する。致死率は3%と高く、諸政府は対策に追われた。この奇病はウイルスが原因で、デビルウイルスと名付けられた。デビルウイルスの進化速度は早く、4カ月後には数万の亜種が現れ、再度、流行する。発生から3年流行しているが、流行の収まる気配がない。人類の人口は徐々に減り、流行前の7割を切ろうとしている。全ての活動が滞り、人類は全ての面で機能不全を起こしていた。人類は総力を挙げ、デビルウイルス対抗薬を作成した。これを迅速に量産化すれば人類滅亡を防ぐことができる。

疫学的に考え、人類同盟の全惑星で一斉に流行りだしたことは不自然であり、人為で仕組まれたと考えられた。デビルウイルスの遺伝子も、既存ウイルスのキメラ状態であったことから、生物兵器と断定された。

人類の疲弊が頂点に達した時、ビランは平和条約を破棄し、人類を攻撃してきた。人類の居住惑星は128あるが、ビランは60の惑星に軍を差し向けた。機能不全に陥っていた諸国の軍では、ビランの攻撃に対抗できなかった。第1波で攻撃された60の惑星は全てビランの手に落ちた。

第2波の攻撃が始まる前に、人類はデビルウイルス対抗薬の量産化に成功した。そしてビランの第2波攻撃に人類はよく抵抗した。30の惑星がビランの手に落ちたが、人類はビランの艦艇の7割を破壊した。

この時点で、人類には38の惑星しか残されていない。もう1回、大規模な攻勢を掛けられたなら、人類は危なかったが、ビランももう1回攻撃を掛ける体力が無かったのだろう。戦争状態は続くが、両者は攻撃をひかえた。

自然と国境線が決まり、冷戦が継続することになる。このビランの侵攻は、後に「悪魔の洪水」と呼ばれる。


同盟歴2639年、開戦から50年後、ビランとの小規模な紛争が起こった。この時、ビランの戦艦を撃破したが、内部を調査できる状態で捕獲できた。戦艦には250名の戦闘員の死骸があったが、全員人類であった。肌色白化し、頬には黒い横筋が浮かんでいた。乗員の遺伝子を調べるとスレーブウイルスと思われる遺伝子が組み込まれていた。ビランは占領した惑星をスレーブウイルスで汚染し、3兆人が暮らす人類惑星90を奴隷工場に改変した。

この事実を知った人類の衝撃は凄まじく、倫理観は根底から変わった。人類が何万年も継続して守ってきた性善説はこの時滅んだ。そして性悪説が台頭した。法律と軍規は全て改められた。同時に人類にとって、ビランは滅ぼすべき敵となった。人類かビラン、どちらかが滅ぶまで戦争は続く。


現在、人類は積極的にビランを攻撃していない。ビランの軍艦には自分達と同じ人類が乗っている。ビラン艦を撃破しても殺すのは奴隷化された自分達の兄弟なのだ。ビランは影に隠れ、人類同士を戦わせようとしている。代わりに人類は生物遺伝工学の研究に力を注いでいる。以前は倫理規定に縛られ、生物遺伝工学を忌諱してきた人類だが、残る人類を守るため、生物遺伝工学の研究を進め、ビランの生物兵器に対抗する。同時にビランの生物学的研究も許可された。宇宙船などで拿捕した数千人を研究対象としている。


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