表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/50

22 カルマの光

私はマチネ少尉より、重大な事実が判明したため、会議の時間を1日取るよう依頼された。


サー・マチネク「エド少尉に重大な事実を説明します。私達は同盟歴2025年にいます。驚くべきことに、我々は過去にいるということです。遭難事故の影響により、輸送船団は5万光年の空間距離を移動するとともに1000年過去に時間移動しました。

この事実に気付いたのは、1年2か月前、エド少尉から基準星の位置のずれが時間跳躍の結果では無いかと指摘を受けたことがきっかけでした。指摘に従い、過去2千年前から未来2千年後の基準星の位置を計算したところ、過去に1000年の時間跳躍したしたと仮定すると、基準星の位置の誤差が0となりました。しかし、これだけの事実だけで時間跳躍が発生したとするのは早計です。私達が本当に過去にいるとすれば、歴史通りのことが、これから起こるはずです。

天文学者により、過去8千年まえから超新星爆発は観測時刻、発生場所が秒単位で正確に記録されています。もし私達が過去にいるとすれば、惑星サランでは同盟歴2024年から1年2か月で4件の超新星爆発が観測されるはずです。はたして歴史通りに4件が検出され、発生日時も一致しました。

この事実から、間違いなく私達は過去にいます。そして現在の日時は同盟歴2025年です。


さらに重要なのは私達が同盟歴年2025年にいることです。現在は「植民星モナンシの悲劇」前です。50年後に起こるビランの奇襲、「植民星モナンシの悲劇」を、私達は防ぐことができるかもしれません。同時に500年後に起こる「悪魔の洪水」を阻止できる可能性があります。人類3兆人の悲惨な運命を救える可能性があるということです。

しかし歴史は変えるべきではないという考え方もあります。私達が過去の人類に歴史を教えることで、「悪魔の洪水」を防げるかもしれません。しかし、歴史が変わったことで、もっと別の悲劇を引き起こす可能性もあります。


エド少尉、私達が経験した歴史をこの時代の人類に教えるか否か、どちらを選ぶかは貴方が選択してください。軍を維持するか、解散するかは、この選択肢により決めようと考えています。

以上です。

以降はマチネ少尉と協議してください。エド少尉の選択肢はマチネ少尉に知らせてください。



私はサー・マチネクの音声レターを聞き終わり、不思議な高揚感に興奮していた。私は軽い気持ちで時間跳躍の可能性を指摘したのだが、とんでもないことになった。それに私は未来への時間跳躍しか想定していない。まさか過去に戻るとは夢にも思わなかった。

サー・マチネクは人類である私に選択を任せた。AIとしては選択に関与するつもりが無いのだろう。

偶然の神は私を選んだ。私は3兆人の悲惨な現実を避ける機会を逃すことはできない。


私「マチネ少尉、私は私達の知る歴史をこの時代の人類種に知らせるべきだと判断しました」

マチネ少尉「了解、サー・マチネクと同期します。エド少尉ならそちらを選択すると思っていました。早速ですが、サー・マチネクが立案した作戦の原案をレクチャーします」


マチネ少尉から聞いた作戦の原案は以下であった。


最初にすべきことは輸送船団の巡洋艦マチネクと98隻の輸送船をサルカンドラ星系連邦宙軍から独立させることだ。

惑星サランには人類種や知性を持つ恐竜がいる。軍事作戦を実行するには彼らの命を奪ったり、権限を制限したり、行動や移動を制限もしくは強要する必要があるが、サー・マチネクはその権限を持っていない。そのため、いちいち母星の連邦宙軍の総司令官に許可を取らねばならない。現在、許可を取ろうにも、時間跳躍で不可能なのだ。軍規に依れば、総司令官との通信が不可能な場合、独立軍を宣言し、現場に総司令官を置く必要がある。

なので、私達はサラン独立軍となった。総司令官は私、エド・ユート。総司令官は不味い事が起こった場合、責任を取る役目なので人間にしかなれない。これで、軍として作戦を実行できるようになった。


次は惑星サラン軌道上に超光速通信ステーションを建設し、サルカンドラ星系連邦宙軍と交信する。作戦はこれで終わるのだが、超光速通信ステーションの建設が難問なのだ。超光速通信ステーションは3つの主要部品で構成される。超光速通信ステーション筐体、マスター接続済みカルマユニット、カルマ結晶の3部品だが、超光速通信ステーション筐体は輸送船団の物資を使用し3年で完成できる。

2番目のマスター接続済みカルマユニットは救命ボートのロッカーの中に転がっている。つまり、惑星上にある。現在、惑星上から軌道上に物資を運ぶ手段がない。

3番目のカルマ結晶だが輸送船団の物資の中に無い。カルマ結晶は人類種の母星のみで見つかっている。惑星サランは8番目の人類種が見つかり、人類種の母星である。カルマ結晶は惑星サランにもある。

10m級カルマ結晶の位置は事前の調査で判明している。ただ、厄介な場所にあるので、どうするかを考える必要がある。この1年で2回、私はカルマ結晶の調査を命じられた。やっとサー・マチネクの意図を理解できた。

マスター接続済みカルマユニットとカルマ結晶を結合し、軌道上に運ぶ必要があるが、ロケット等を開発したとしても打ち上げに失敗する可能性がある。人類3兆人の運命を成功率の低いロケットに任せるわけにはいかない。幸い輸送船には軌道エレベーターの宇宙側に必要な物資がある。足りないのは地上側の物資なのだが、軌道エレベーターを運用するわけではなく、カルマ結晶をインストールしたマスター接続済みカルマユニットを軌道カーゴで軌道上に運べれば良いだけなので、地上設備は作らない。


整理すると惑星上での作業は

1.カルマ結晶を取得する。

2.マスター接続済みカルマユニットにカルマ結晶をインストールする

3.岩石台地の中心に直径10m、深さ1Kmの竪穴を掘る。

4.竪穴の底に軌道エレベーターワイヤーフックを設置。

5.宇宙側から惑星に降ろされる軌道エレベーターワイヤーを岩石台地の竪穴に誘導し、フックに掛ける。

6.岩石台地の縦穴を削岩瓦礫で埋め、軌道エレベーターワイヤーを岩石大地に固定する。

7.カルマユニットを軌道カーゴに乗せ軌道上に上げる。


軌道上での作業は

1.超光速通信ステーション筐体を作成する

2.軌道エレベーターの軌道側を組み立てる

3.軌道エレベーター用ワイヤーフックを作成し、重力カーゴで惑星に送る

4.軌道エレベーターのワイヤーを惑星に伸ばし、地上側と連結する

5.カルマユニットを地上から回収する

6.カルマユニットを超光速通信ステーション筐体にインストールする


私はこの作戦を「カルマの光」と名付けた。特段の理由はないが、閃いてしまった。マチネ少尉の反応は「そうですか」の一言であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ