表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/50

21 故郷

僕はサニー。サルカンドラ星系連邦宙軍の初期教育部に所属する三等教育兵だ。3カ月前、エド少尉の勧めで、連邦宙軍に入隊した。姉のクルミも一緒に連邦宙軍に入隊した。


先日、エド少尉、クルミ二等教育兵、僕の3人で、東の岩石台地の調査を行った。日程は3泊4日である。岩石台地の標高は100mあるため、かなり遠くからでも、岩石台地を目視できた。最初は岩石台地の周りを歩いて調査した。周囲は30Kmもあり、1日がかりとなった。台地の下から頂上に登れる道は3か所あった。その道の内、南の1箇所は勾配が緩く登りやすい道であった。2日目は大地の上を調べた。台地は巨大な変成岩の塊である。地面は侵食が進んでいないため、樹木は殆ど生えていない。草も岩の窪みに貯まる土や枯草に根を張るしかなく、まばらに生えるだけであった。

夜は3人でキャンプした。今はエド少尉だが、僕にとっては魔人様だ。奴婢に落ちて動物のように扱われてきた僕と姉を人間として扱ってくれた。魚の釣り方や捌き方、木の切り方や、調理の仕方、どれを思い出しても楽しいものばかりだ。3人でこうして一緒に寝るのも久しぶりだ。できることなら3人で昔のように水浴びがしたい。僕は夜おそくまで、エド少尉に星の話を聞かせてもらった。エド少尉とのキャンプが楽しくて、夜更かしばかりだった。


僕が三等教育兵になって、半年がたった。いままで僕らの世界の言葉で教えてもらっていたが、先日から人類同盟語で教えを受けている。エド少尉やマチネ少尉との会話も人類同盟語で話すよう指導された。


今日は基地の東にある山脈の調査だ。調査目的はカルマ結晶の位置と、その量を調べることだ。山脈まで1900キロあるので、実際に行くのではなく、ドローンによる調査を行う。最初にカルマ結晶が作る電磁波黒体を調査する。電磁波黒体は遠赤外線より波長の長い電磁波と紫外線より短い電磁波を吸収してしまう。電磁波黒体は山脈の高度7千m付近にあり、半径500mの球となっている。惑星サランの地図を作成しようと宇宙から観測した時に見つかった。

ドローンの可視光カメラで山脈を映すと普通の景色に見えるのだが、センサーで観測した画面では山脈中央の山に黒い球が刺さっているように見える。ドローンはその球の周りを旋回しながら観測する。センサー画像と可視光画像を比べることで、球の中心点を割り出した。中心点は山脈中央の最高峰の東側斜面の表面にあった。

ドローンのカメラの倍率を20倍にし、電磁波黒体の中心点を観察した。そこには無数の人間の死体が散乱していた。数は少ないが、恐竜の遺体も散見される。中央には日の光を浴び、青くきらめく岩があった。死体はいずれもその岩の方を向いている。

今日のミッションは電磁波黒体の中に超小型観測ドローンを潜入させ、どうなるか調べることだ。ドローンで電磁波黒体を2週、回って記録を取った。超小型観測ドローンを電磁波黒体に向け発射した。電磁波黒体に向け飛ぶ超小型観測ドローンを観察する。電磁波黒体に触れた時、超小型観測ドローンからの連絡が途絶えた。超小型観測ドローンは制御を失い、落下していった。

ここには間違いなくカルマ結晶が存在する。しかしこの場所のカルマ結晶は電磁波黒体が大きすぎるので、採取が困難だ。


僕が三等教育兵になって、11カ月がたった。あと1カ月、卒業試験に合格すれば連邦宙軍の正式な軍人となる。卒業試験は受かるか心配だったが、心配するほど難しい試験ではないとエド少尉から笑われた。


今日は南西1350Kmにある電磁波黒体の調査を行う。ドローンで上空から目視観察を行う。実地調査も必要だが、ドローンで先に採取が可能か調べた後になる。この地が調査対象となったのは川沿いにあるからだ。この川をさかのぼれば、川は岩石台地に接し、東の山脈に至る。岩石台地の南で分岐する支流を辿ると、僕たちが水浴びをした川に出る。川沿いが重要なのはカルマ結晶を運搬するのに都合が良いためだ。道のない竜人界では船による運搬は効率がいい。

ドローンは既に1200Kmを飛び、竜人界と人間の国の境を出ようとしていた。僕、エド少尉、クルミの3人は指令室のモニターで送られてくる画像を眺めていた。ドローンは川沿いを進む。竜人界の樹林が切れ、木と草が生える林を抜けると草原が広がる。更に進むと草原に白い岩が所々むき出しで見えるようになった。遠くに町並みが見える。町の周りには畑地が見える。川は町の南を抜け、更に南東に進む。川沿いに並行して細い道が白く見える。ドローンの目が良いのか、道を進む荷車や人が小さく見える。木は生えているが見通しの良い林が続いていた。遠くに岩場が見える。川は岩場に阻まれ、岩場の手前で左に曲がり、南に向きを変えた。川が曲がる場所、川の右側には町が見えた。川沿いの道は真っ直ぐその町に向かっていた。この町は先ほどの町よりも少し大きいようだ。町中には石作りで大きめの建物がちらほらある。町の中央を進む道は1つの赤茶色い大きな建物にぶつかる手前で、右に直角に曲がっていた。

ドローンは町の上空を旋回し始めた。


エド少尉「ここが目標の建物だ。建物の中に電磁波黒体がある。川までの距離は500m、町中なのが難点だが、直径10mの電磁波黒体があるのはこの場所だけだ。後日、実地調査を行うことになるはずだ」


ここは間違いなくリンガハン王国の首都リンガハン。目標の建物とは月の神殿の召喚堂だ。

僕はクルミの顔を見た。目が虚ろで、心ここにあらずの表情だった。クルミも気付いている。僕は机の下から手を伸ばし、クルミの手を握った。少し震えているのが分かる。クルミは僕の手を強く握り返してきた。そしてクルミが僕を見て頷いた。僕も頷く。


クルミ「エド少尉、お話ししないといけないことがあります。放課後、時間を頂けないでしょうか」


クルミと僕はエド少尉に僕たちの過去を全て話した。リンガハン王国の王女、王子であったこと。国を助ける目的で、自ら奴婢になったこと。奴婢の実態を知ったこと。自死が禁じられ、名を捨てたこと。リンガハン国王が奴婢の売却に手を染めていたこと。通行税、慰安目的で冒険商隊に連れていかれたこと。魔人に餌として売られたこと。そして今回の目標はリンガハン王国の神殿であることを話した。


クルミ「名前を言えなかったのは、名前を捨てる誓いをたてた為です。それと魔人様との幸せな生活が壊れるのが怖かった。魔人様から新しい名前を頂いた時は本当に嬉しく、私は生まれ変わりました。クルミとして生きていけることは幸せです」

サニー「クルミのいう通りだよ。僕はサニーとして生きる。昔のことなどどうでも良い。ただ、魔人様に隠し事をしているので苦しかった。リンガハン王国にいる父母、弟妹は血がつながっているが他人だ。僕の家族は魔人様とクルミだけだ」


この時点では決定していないが、リンガハン王国でのカルマ結晶の採取が決まり、採取の邪魔になるリンガハンは魔王軍ことサルカンドラ星系連邦宙軍サラン独立軍に接収されることになる。さらに、この事件がキッカケとなりリンガハン王国は歴史の幕を閉じる。元第一王子の僕がリンガハン王国の幕引きの実行者とは皮肉なことだ。


僕とクルミは12か月の初期訓練課程を終え、試験にも合格した。その日の夕食は特別豪華だった。エド少尉、マチネ少尉からお祝いの言葉を頂いた。明日は任官式があり、式が終わると僕達には副脳が支給される。野戦病院のAI医療治療台で頭に注射を打つという。注射は7日毎に、計5回打つそうだ。エド少尉から注射はとてつもなく痛いと脅された。それと同時に、頬に刻まれた奴婢の刺青を消すと言われた。これは毎日10分の計50回に分けて処置される。何でも皮膚の中の青い物を細い針で吸いだすそうだ。僕もクルミも奴婢の刺青など、もう消えなくても良いのだが、宙軍では顔の刺青は禁止らしく、刺青を消すのは命令だった。

そうそう、この基地のボスはマチネ少尉だと思っていたが、さらに上にボスがいた。任官式の時、その存在と名前を知った。名前はサー・マチネク。空の上の暗い所に浮いているそうだ。マチネ少尉でも十分怖い。その上となるとどれだけ怖いのだろう。会いたくない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ