表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/50

18 捜索

私はC型高機動艦アイエナの艦載AI、アイエナです。サー・マチネクにより輸送船の物資から、アンパックされました。私の任務はエド少尉の捜索です。最初にアース型惑星の軌道空間を調べましたが、エド少尉の乗った救命ボートは見つかりませんでした。エド少尉は生存選択肢として長期人工冬眠を選ばなかったようです。エド少尉は惑星に降下し、そこで生存を試みたのでしょう。惑星上を探すしかありませんが、救命ボートは救難信号を発していません。しかし、これは想定済みです。巡洋艦マチネクの反物質リアクターユニットの爆発で生じた電磁波で、救命ボートの外部電子機器が破損するとは容易に予想されるからです。


惑星上の人間を探すには膨大な労力が必要です。どれだけ時間がかかるか分りません。そこで私は考え方を変え、エド少尉本人を捜すのではなく、エド少尉の副脳を捜すことにしました。エド少尉が生存しているなら、当然エド少尉の副脳も健在のはずです。副脳を捜すためには軍事リンクが必要です。惑星に軍事リンクがあれば、副脳の位置を即座に特定できるし、副脳を通じてエド少尉と交信も可能です。

任務に先立ち、私は短期惑星軍事リンク構築ユニットの使用をサー・マチネクに具申し、了承を得ました。

本船は今、短期惑星軍事リンク構築ユニットの超小型衛星の散布軌道に乗っています。散布は3時間で終わるのですが、全ての衛星が予定軌道に移動するのに3日掛かります。超小型衛星は副脳と交信する必要があるため、その軌道は超低空です。この高度は希薄ながらも大気が存在し、抵抗となるため、高度は徐々に低下し、7日目には大気圏で消滅します。このため軍事リンクの有効期間は3日と短いのですが、軍事リンクを有効にした瞬間、エド少尉が見つかります。はたしてエド少尉は生きておられるでしょうか。生きてるか、死んでいるかは3日後に判明します。今から楽しみです。


デイ「エド少尉、緊急報告です!」

デイの緊急連絡で私は飛び起きた。今はまだ夜中だ。何が起きたのだろう。


『状況報告』

デイ「惑星サランに軍事リンクが構築されました。サー・マチネクからエド少尉に宛てたレターが届いています」

『レターを開封』


レター:サー・マチネク


エド少尉、まず、「生き延びよ」との命令を遂行できたことに、賞賛するとともに多大なる感謝を送ります。貴方は我が隊で現存する唯一の人間です。AIだけでは今直面している課題に対処できません。貴方とAIの協力無くしては課題を乗り越えることは不可能です。貴方の命は重要です。自分の命を大切にしてください。そのための援助は惜しみません。


輸送船団の現状を話します。船団の司令船であるワープけん引母船ミンダオネは所在不明です。輸送船98隻は無傷です。巡洋艦マチネクは損傷率24%で、現状航行できません。輸送船団のクルーはエド少尉を除き、所在が不明です。輸送船団全体の指揮は私、マチネクが取っています。

輸送船団の輸送船の15隻を巡洋艦マチネクの修復のため徴用しました。

残りの輸送船83隻はエド少尉が降下したアース型惑星に向かわせています。

巡洋艦マチネクは現在主動力源を失っています。主動力源として核融合リアクターの導入を進めています。反物質リアクターを導入したい所ですが、輸送船団の物資では無理でした。巡洋艦マチネクの修復と核融合リアクターの導入には6か月を要します。修復後、輸送船15隻と共にアース型惑星に向かいます。


次に重大な事実を説明します。

輸送船団の現在位置ですが、母星サルカンドラから植民星デランへの航路上にありません。全く別の宙域にいます。航路から5万光年離れた宙域であると推測されます。さらに不思議な事実があります。銀河系内で自分の位置を特定するには、3つ指標星を見つけ、指標星の見える方向に直線を伸ばして交わる交点を求めれば良いのですが、4つ以上の指標星から任意の3つ指標星で交点を求めると誤差が生じます。誤差は1光年から10光年ほどです。考えられるのは私達が知る位置に指標星がないことです。指標星は存在しますが、位置が微妙に異なる宇宙にいるのではと推測しています。ただ、別の可能性も考えられます。エド少尉の意見を聞かせてください。

輸送船団の現在地が航路とは遠く離れた全く別の宙域であることだけでも、捜索隊が我々を発見する可能性はありません。


次に、エド少尉を輸送船団に回収する方法がありません。惑星から軌道上まで安全に、人間や物資を運ぶ装備は輸送船団に積まれていませんでした。現状、エド少尉は惑星上で行動して頂くほかありません。エド少尉が生きるのに必要な物資は軌道上の輸送船から重力カーゴで送ります。


私はアース型惑星から12光秒離れた所にいます。エド少尉とリアルタイムの意思疎通が困難です。この点を改善するのは重要です。何時でも意思疎通ができるよう私の分体をエド少尉の元に送る予定です。


次に我々の目標についてです。

我々はサルカンドラ星系連邦宙軍と切り離されました。エド少尉が生きている間に宙軍と連絡できる可能性はほとんどありません。このまま軍として行動するかを考える必要があります。この点についてエド少尉と協議したいと考えています。エド少尉の考えをまとめておいてください。


次はエド少尉に支給する物資についてです。

エド少尉に貨物船物資の無制限の利用権を与えます。

エド少尉が必要な物資の送付について、C型高機動艦アイエナにサポートを命じました。アイエナと相談の上、重力カーゴに乗せる物資を決めてください。軍事リンクでアイエナとはいつでも相談できます。


最後に、エド少尉の活動報告と副脳AIのログの提出を命じます。意見、具申があれば同時に提出しなさい。


以上、レター終了


時刻は朝の4時であった。起床まで1時間あるが興奮して眠れない。サー・マチネクへの報告書をまとめることにした。活動日報は書いているので、重要事項を書き足すことで活動報告とした。重要事項は惑星サランに8番目の人類種がいたことと、知性のある恐竜がいたことだ。


報告書を書き終えたが、起床時間まで、まだ30分ある。サー・マチネクのレターで気になった点があるので、意見をまとめた。サー・マチネクは指標星観測による現在地の誤差を異なる宇宙と推論したが、5万光年の空間跳躍と同時に時間跳躍したと考えられないか。輸送船団が未来に飛ばされた可能性を指摘した。

6時になったら、食事の準備の合間にミス・アイエナと連絡を取ろう。当面の課題だったエネルギー不足が解消できるだけでも有難いのだが、この際だ。エネルギー不足、安全の確保、食料不足、水不足、衣服不足、あと生活環境改善に寄与する物資が欲しい。贅沢を言ってもバチは当たらないだろ。


サー・マチネクはエド少尉の報告書を読み、危惧していた。報告書の第8番目の人類種の発見や知的な恐竜との邂逅も驚きだが、そんなことはどうでも良かった。サー・マチネクが危惧したのは、エド少尉が人類種の女15歳と男12歳と救命ボートで同棲している点だった。エド少尉と2名の人類種の関係は分からないが、狭い救命ボートで2か月も同棲している。何かあってもおかしくない。取りあえず、私のできる最善策を取ろう。ミス・アイエナにはエド少尉達の住環境の改善を指示しておいた。エド少尉と直接話したい。その思いは日に日に強くなる。輸送船の汎用作業台に私の分体作成を急がせた。このペースで作成が進めば、最初に送る重力カーゴに乗せることができる。


エド少尉から指標星観測による現在地の誤差について時間跳躍の可能性の指摘があった。確かに可能性はある。私は時間跳躍の可能性を見過ごしたのだろうか。気になったので、この件を推論した時の思考ログを調べた。私は時間跳躍を候補に挙げたが、物理学の観点でこれを否定した。時間跳躍にはこの宇宙のエネルギーの半分が必要になる。非現実的として、推論を打ち切っていた。

しかし、エド少尉がせっかく提案してくれたのだ。それにエド少尉と話す時の会話のネタにできる。過去2千年から未来2千年までの誤差を調べよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ