表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/50

13 兄弟

私は人間の群れを、上空からドローンで監視していた。人間の群れは時速2.5Kmの速度で南の方向に移動していく。30分程、監視して、群れの最後尾が1Kmまで遠ざかったところで、人間の群れの監視はドローンに任すことにした。


縛られたまま、放っておいても可哀そうだ。女と男の子の縄を解いてやることにした。かなり結び目が締まっていたので切ってしまおうと考えたが、ロープは上等なサバイバル素材だと気付き、丁寧に解いた。お陰で10mのロープが2本手に入った。


2人のロープを解いていて気付いたことがある。女は栄養状態が悪いのと、表情が乏しいため、ずっと年上に見えたが、近くから見てみると若いことに気付いた。15歳前後だろう。男の子は見た目通り、陰部の付け根にうっすらと毛が生えだしているので12歳位か。3日に1度しか体を洗わない私がいうのもなんだが、二人は臭かった。近づくとツンと刺激臭がする。髪の毛はべとべとで、縄で擦れた所の垢が剥げ落ち、そこだけ皮膚が白くなっていた。二人が受け入れてくれるなら、私は下着と服を着せたかったが、水浴びが先だと思い、下着の件は一旦保留とした。


時刻は午後2時を回ったころだ。人数も3人になったので水と食料が足りない。二人にも体を洗わせたかったので、本日2回目の水汲みを決断した。水汲みの前に水分補給がしたかった。二人とも喉が渇いているに違いない。飲料用の水を詰めておいた小ペットボトル3本を取り出し、少女と子供に1本ずつ渡した。まず自分が飲んで、飲み方を教えた。二人はなかなか飲まなかったが、一旦飲み始めると全量を飲きった。

彼らにも水汲みの分担をさせる。ペットボトルと防水バッグ、生活キットからタオル、石鹸と櫛を取り出し、軍用バックに詰めた。私は10本、彼らは6本ずつで、合計22本、44リットルが今日のノルマだ。


軍用バッグを2人に背負わせ、川に向かった。道中、少女から声を掛けられた。何を言いたいか分からなかった。無視するつもりはなかったが、何を訴えているか理由が分からず、歩みは止めなかった。暫くすると女は泣き出し、歩みを止めた。そして腰をおろした。その状態を見て、私は始めて、少女が何を訴えていたか理解したが、理解するのが遅すぎた。少女は排泄の許可を取っていたのだ。私がそれを無視したため、我慢しきれなかったのだろう。少女と呼べる年齢だ。さぞ恥ずかしかっただろう。可哀そうなことをしてしまった。


『デイ、少女が発した言葉で排泄に関連する単語は推測できないかな』

デイ「XXXXが排泄、YYYYが許可願いと推測します」

『了解、意思疎通の方法を考えないとまずいな』

デイ「私や救命ボートAIの推論機構が利用できます」

『協力を頼む』

デイ「了解」


トイレットペーパーは持ってきていないので、川で洗うしかない。泣いている少女を促し、川へ急いだ。体を洗うよう指示するのは大変だと思っていたが、簡単なジェスチャーだけで、すんなり体を洗うということを理解してくれた。タオルと櫛、石鹸を渡すと、後は教えなくても体を洗いだした。後は彼ら達でできることがわかったので、私は水汲みと魚釣りに取り掛かれた。二人とも栄養状態が良くなかった。多めに食べさせる必要がある。魚は簡単に釣れるので、いつもの2倍ほどの量を釣った。二人にも魚の運搬を手伝わせるつもりなので、多く釣っても問題ない。魚を釣り終わり、ワタヌキを終えたところで、二人の水浴び場所に戻った。

二人が体を洗い終わったかチェックしたが、綺麗に垢を落としていた。水浴びは合格点だった。次は軍用バックへのパック詰めを見本を示しながら、各自に渡した軍用バックに詰めさせた。人間の群れのなかで荷運びしていたためか、重心を高めに取るよう詰めることを理解していた。二人とも水と魚を問題なく詰めた。帰り道は野菜を取って帰った。二人にも野菜を取らせたが、雑草と間違えることは無かった。少しゆっくり歩いて帰ったので、救命ボートに帰ったのは夕方の5時であった。


人間の群れは既に救命ボートから10Km離れていた。人間の群れはもう問題ない。ドローンに帰還を指示しておいた。ドローンとの軍事リンクは切れたので戦闘支援ヘッドセットを外した。戦闘支援ヘッドセットを外した私を見て、少女は盛大な悲鳴をあげた。そして両膝、顔、伸ばした手を地面にに付けるポーズで固まってしまった。いつまでも固まった状態は困るので、さっさと立ち上がらせた。今日やらなければならないことは山ほどある。

新品の衣料キットを渡し、下着、靴下、ジャージ上下、ライトシューズの順に身に着けさせたが問題なく着たのだが、最初は服を着るのを渋っていた。二人で話し合い、それが終ると、教えなくても服を着ていった。下着や服の前後は服を着た経験がないと分からないはずだが、見分けていた。二人は間違いなく服を着ていた経験がある。

まずトイレ、穴を掘っただけの場所だが、排泄はここですることを教えた。地面に穴だけでは排泄姿を隠せない。早い時期に目隠しを作ることを決めた。

次は救命ボートの出入り方法。ボタン操作だけなので、1発でおぼえてくれた。

浄水器の操作方法、冷凍庫の操作方法、飲料水の作り方、竈の使い方、火の起し方、野菜のゆで方、魚の解凍方法、魚の焼き方・・・

まだまだ、ここで生活するためには、教えなければならないことが山ほどあるが、一度には教えきれない。言葉での意志の疎通ができない状態なので、教えられないことが大半だ。焦らず少しずつ教えるしかない。

食事を終えると、時刻は夜9時になっていた。二人の寝る場所として、救命ボートの乗員シートを指定した。横幅がすこし狭いので慣れないと窮屈だが、ここ以外寝る場所がない。男の子はすんなり分ってくれたが、少女は乗員シートで寝ることに抵抗した。少女1人を救命ボートの外になど寝かせられない。少女は涙を浮かべて抵抗したが、私は譲らなかった。少女は前にしていた両膝、顔、伸ばした手を地面にに付けるポーズで固まった。私は少女をおこす代わりに、抱え上げ、乗員シートに押し込んだ。少女は暫く乗員シートの中で泣いていたが、いつの間にか寝ていた。

救命ボートAIに、二人のトイレの兆候を監視させた。夜中にトイレがしたくなり起きるかもしれない。今は夜中に船外に出ることを禁止している。今はトイレは私が連れ出すしかない。

夜中でもトイレの場合船外に出ても良い、といった複雑な意思疎通ができるようになればこんな苦労は要らない。


次の日は作業を教えるとともに言語習得を頑張った。まず名詞、次は動詞、数詞を収集した。「これは何?」の問い合わせのフレーズをおぼえたことで、単語の収集は一気に加速した。私の名が「ユート」であることを教えたのだが、私を呼ぶとき、彼らは私のことを「魔人様」と呼ぶ。「魔人様」は何かの尊称のようなのだが、詳しくはわからない。二人の名前を聞こうとしたが答えてくれない。私が名前を尋ねていることは伝わっているが、答えてくれない。


『どうして名前を教えないのかな。名前を知らないと支障が出る。デイはどう思う』

デイ「エド少尉が離れている間、二人で交わされた会話を救命ボートAIが分析してくれました。二人だけになると名前を呼びあっています。少女はシャロ、男の子はタムです。この名前の確率は99.9%です」

『私に教えたくない理由があるのか。無理に聞き出したくない。シャロとタムの件は二人が話してくれるまで封印したい。しかし名前を呼べないと意思疎通が難しいよ』

デイ「名前の件で具申があります」

『教えて』

デイ「エド少尉が二人に名前を付けてはいかがでしょう。例えば少女はクルミ、少年はサニー」

『姉さんたちの名前じゃないか。でも有りだな。いや、ナイスだ』

デイ「二人は兄弟なので、エド少尉の兄弟である姉上の名前が連想されました」

『二人は兄弟なのか?』

デイ「はい。外形特徴だけの推測ですが、兄弟である確率は92%です」


私は兄弟に名前を提示した。姉はクルミ、弟はサニー。二人は私が提示した名前をスンナリ受け入れた。兄弟との意思疎通は更に進むことになる。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ