表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/50

11 魔人

私の率いる冒険商隊はドラゴンツリーの西側を南にゆっくり進んでいた。傭兵長は今日の野営地を捜すため、斥候を北西、北、北東にそれぞれ送り出していた。北西側、北東側の斥候は冒険商隊の野営地を見つけられなかった。北側に送った斥候は最後に帰って来た。


傭兵長「ベルク様、北に送った斥候がとんでもねーモノを見つけた。北には広い草地があって、その真ん中に大きな卵がある。とんでもねーモノは卵や草地じゃないです。草地の端に、杭に刺さった竜人の生首があるみてーです。生首だからもう腐ってたそうです。生首は他に2つあるそうです。ベルク様、魔人の巣に間違いねーです。魔人に見つからないうちに、さっさと逃げましょう」


魔人の巣だと!。頭の中で、陛下の命令と難題が「魔人の巣」を鍵に全て一気に解けた。今まで解けなかった難問が解けた快感はすさまじかった。私の気分は一気に高まり、魔人にまみえる恐怖を軽々と凌駕した。

私「魔人に会う。傭兵長、冒険商隊を北の草地まで進ませろ。魔人の対応は私がする。お前達傭兵は魔人に手を出すな。絶対だぞ」

化け物一歩手前の傭兵長すらビビる魔人だ。他の者が手を出すとは思えなかったが、念には念を入れるため、言葉にし、釘を刺した。


ほどなくして、冒険商隊は草地に着いた。斥候が言っていたことは事実だった。草地の端に杭が刺さり、杭の頂上には竜人の生首が刺さっていた。腐った今でも、竜人の特徴である赤い髪が残っていた。視線を草地の中央に戻すと、そこには魔人が立っていた。魔人は暗い緑を基調とした不思議な柄の服を着ていた。頭の位置に人間の頭は無かった、代わりに人間の頭より少し大きめの、作りものの頭が胴体に刺さっていた。作りものの頭には目が付いていない。


私は冒険商隊に待機と休憩を命じた。商隊員と奴婢にはどんなことがあっても騒がないよう命令した。また傭兵には魔人を攻撃しないことと、武器に手を掛けないことを再度、厳命した。

商隊員のなかから肝のすわった番頭と店員を選び、手持ちの金貨と陛下から頂いた葡萄酒を持たせた。元王子と王女は手を後ろ手で縛り、縛った縄を傭兵長に持たせた。縄で縛ったのはこの2匹が私の財産であることを魔人に示すためだ。


私は魔人と交渉するため、両手を頭の上に掲げ、魔人の真正面からゆっくりと近づいた。20mまで近づいた時、魔人も両手を頭上に掲げた。こちらが敵意の無いことを理解したと見て間違いない。魔人も敵意が無いこと表明してくれた。私達は魔人の2m手前まで進んだ。後の店員から葡萄酒を受け取り、跪いて、葡萄酒を魔人に差し出した。3秒ほど間が空いたが、魔人は葡萄酒を受け取り、そしてその場に胡坐で座った。魔人は私にも座るよう手で合図をした。私が座ると、魔人が小石と小枝を取り出し、地面に置いていく。始めは石と石、次は石と枝、次は枝と石、最後は枝と枝を置いた。そして上から順に空、光、光、空を石と枝の下に描いた。魔人の言いたいことが分かった。魔人の世界では空はハイや承諾を、光はイイエや拒否を表すのだろう。


魔人は先ほど手渡した葡萄酒を魔人の脇に置き、空と光の図を指さした。私は葡萄酒が魔人への贈り物であることを説明した。魔人は大振りな動作でゆっくりと頭を2回縦に振った。この動作の意味も分かった。承諾、了承、理解を示すのだろう。私はここで自分が魔人のペースにハマっていることに気づいた。冒険商隊は無理やり魔人の巣まで引き連れてきた。恐怖で突飛な行動を取る者が出るかもしれない。魔人との交渉に時間を掛けられない。私自身も交渉が必要無ければ、逃げ出したいのだ。


私は魔人の次の行動を手で制して、地面に竜人の横向きの絵を描いた。そして、足首の竜人の刃を丸で囲む。そして少し離れた場所に線で丸を描き、その丸の中に金貨袋を置き、元王子と王女の奴婢を立たせた。次にその輪から矢印を魔人に向け伸ばした。最後に竜人の刃を囲む丸から矢印を私に向け伸ばした。これで私が竜人の刃を買いたいこと、対価として金貨と奴婢の2匹を支払うことを伝えたつもりだ。上手く伝わっただろうか。


魔神は暫く私の描いた図を眺め、頭を2回縦に振る承諾の身振りをし、卵の方に歩いて行った。葡萄酒は置いてあるので戻ってくるはずだ。卵の裏手から白い物を2本手に持って帰って来た。間違いない、魔人は竜人の刃を持っている。私は商談に成功したことを確信した。魔人との商談で人間相手に使う駆け引きを使わなかった。会った瞬間から魔人の知能が高いことは分かった。そして私は交渉での優位な点を一つも持っていない。こんな状態で交渉などすれば、魔人に見下される。だから率直に、私が竜人の刃を欲していることを正直に示し、あとは魔人に任せることにした。私は自分の運に全てを掛けた。私には運が残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ