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第六話 サファリナ邸

 打ちひしがれているガリアを横目に私は考えた。


 グランハルバードが時計塔に隠されていたこと、街の家々の間隔が他国の都市と比べて妙に広いこと。魔獣の死体やドレスの機体の回収が組織化されていること。もろもろを合わせると、この王都そのものが、いやもしかしたらこの国そのものが今日魔獣に襲われることを予知して造られていたように思える。

つまり……。


「陛下、質問をしてもよろしいでしょうか」


「なんだ」


「巨大魔獣は、まだこれからも来るのですか」


 国王の目がギラリと光った。


「来る。五百年前より予言されておった。やつらは来る! この国を滅ぼし、世界を平らげんとするために! そして我が国の切り札が、王国防衛騎乗重鎧、ドレスだ! ドレスだけが、巨大魔獣どもの圧倒的な力に対抗する可能性を秘めておる。そして……!!」


「……そして?」


 私の質問に、王は瞳の奥の火を消した。しゃべりすぎだ、と思ったのかもしれない。


「話は以上だ。ドレスや魔獣について詳しく知りたければガリアかジャンに尋ねるがいい」 


 まだなにか話したがっているガリアをさえぎり、騎士団長のシリウスが私たちを階段へと促す。

 背後ではまだ職員たちが忙しく動き回っていた。


 国王は私が今日ガリア王太子に婚約破棄されたことを知らないのだろうか。いや、第二王子のジャンですら知っていたのだ、知らないはずはない。そう考えて不意に思い至った。私とガリアの婚約など、国王にとっては些事でしかないのだ。

 それほどまでに、巨大魔獣とは国家存亡の危機なのであろう。あるいは、この世界の命運を掛けるほどのもの、か。


 再び王家の馬車に乗りサファリナ家の屋敷につく頃には、私は疲労困憊ではしたなくも船をこいでいた。


 メイドと白髪頭の執事長が迎えてくれた。


「疲れていらっしゃるでしょうから、旦那様へのあいさつはせずそのまま就寝されてよい、とのことでございます」


 執事は一礼するとそう述べた。うなづいてそれに応えると、メイドとともに自身の寝室へ直行する。


 魔獣について、あるいは婚約破棄の件について何か話があるかもと思っていたが、拍子抜けだった。

 いや、サファリナ家はもともと貿易商の家系。情報の取り扱いについては他家よりも先行している。ひょっとしたらガリアが今日婚約破棄を発表するということすら父は知っていたのかもしれない。


「失礼します」 


 メイドのシルキィが私のドレスを脱がしていった。深いオレンジのドレスは所々(すす)で汚れてはいたが、最高級の仕立てのためかほつれなどは見当たらなかった。


 寝間着を着せながらシルキィが紙片を私の手に忍ばせた。

 彼女は下級であるとは言え貴族の出でありながら、文字が読めず忘れっぽい性格で仕事のミスも多い。しかし愛想が良くへこたれない性格のため、苛烈な極悪令嬢の身の回りの世話という役回りを与えられている、表向きはそうなっている。


 何気ないそぶりで折り畳まれた紙片を開けた。


【国王→当主 徴税額二割の免除】


「ちょっと!」


 私は声をあらげた。


「前も言ったでしょ、このパジャマ私の好きな柄じゃないって。新しいものに変えてくれる!?」

「は、はい。申し訳ございません」


 バタバタとシルキィが部屋の中を鈍くさく走り回り、新しい寝間着を用意した。 

 彼女は私の小言を聞きながら紙片を受け取り、躊躇(ちゅうちょ)なく口に運んだ。消化してしまえば証拠はどこにも残らない。


 シルキィは父ではなく私に忠誠を誓うかけがえのない手駒だ。


 もちろん読み書きはできるし、与えられた仕事は誰よりも速く終わらせ、空いた時間で屋敷の内外の情報を収集している。

 愛想の良さは本物か分からないが、去年まで行っていた悪趣味な「遊び」の準備や始末をになっていたのも彼女だ。


 笑顔を顔に張り付かせたまま、シルキィはカートを押して出口へ向かう。感謝を込めてもう一度うなづくと、忠実なメイドは目を細めかすかにうなづき返し、部屋を出ていった。あれが彼女の地の顔だといいんだけど。


 伯爵領の徴税額の二割を免除、か。

 私の値段としては、悪くない。税を免除すると言うことはそれだけ王家がサファリナ家の心をつなぎ止めたいという気持ちの現れでもある。今後貴族社会でのサファリナ伯爵の発言力は強くなるだろう。


 問題は、その金額は婚約破棄の分だけなのか、グランドレスに乗って巨大魔獣を退治した額まで入っているか、だ。そしてそれはいかにシルフィが敏腕であろうと、盗むことのできる情報ではないだろう。

ご愛読ありがとうございます。


これからも本作をよろしくお願いします。


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