第39話 オオヤツメ①
動揺している。
だめだ、集中しないと。
重鎧工房の控え室で紅白のパイロットスーツに着替えながら、私は気持ちを落ち着けようと必死だった。
巨大魔獣が現れたのは王都北門付近。
「強力なGがかかるカタパルト射出ではなく、通常の発射後グランドレスのブースターで距離を調整し、頭上からハルバードで強襲をかける」
王都地下司令室から走ってきた伝令が一息に話した任務手順を、もう一度復唱する。
気持ちを切り替えろ。
今までの巨大魔獣で浮ついた気持ちで戦っていい相手などいなかった。
ブーツの紐をきつく締めて立ち上がった。
息を吸い、ゆっくり三まで数えて息を吐く。
「アリア様」
扉の向こうで作業員が名前を呼んだ。
息をもう一つ吐く。
「大丈夫、行けます」
気持ちの準備ができていようがいまいが、巨大魔獣は私が倒すしかないのだ。
コクピットに乗り込み、両サイドの操縦バーをつかむ。
「グランドレス機動、アリア・サファリナ、エンゲージ」
オレンジと黒のロボットの目に光が宿った。
モニターに銀髪のニーファが映る。
『アリアさん、お久しぶりです。ミラージュ討伐以来ですね……大丈夫ですか、顔色が優れないですが」
「巨大魔獣が私の顔色に配慮してくれるならいくらでも青い顔するんだけどね」
『あははは。残念ながら今のところ話が通じる魔獣というのは見かけたことがないですね』
そうなのだろうか。少なくともミラージュは言葉をしゃべっていた。王立騎士団団長であり、宮廷の暗部王の肋骨の長でもあるシリウスが何らかの秘密を握りつぶしている可能性は十分にある。
あるいは副団長であるニーファが私への情報を遮断している線も……。
いや、だめだ。今はそんな事を考えている場合じゃない。集中しろ。
『さて、早速ですが、敵は巨大な蛇のような姿をしているそうです。先ほど伝令に送らせた指示書きは読まれましたか?』
「直接射出ののちブースターで位置的有利を得て、上空から急襲。一気にカタを付ける」
『その通りです。それと、ミンさんのブルーは現在北部の工房で修理中のため、バックアップできないことを覚えておいてください。それでは、重鎧工房の屋根が開き次第飛んでもらいます』
工房では親方たちが汗をかきながら、天井を開く滑車のロープを引いている。
かけ声にあわせロープが引かれ、屋根が開いていく。王都の空が青く私を待ち受けている。
床が百八十度回転し、グランドレスが壁を向く。
続いて仰向けに斜めに土台が倒され、機体を受け止めているレールが伸びる。
親方が旗をあげると、三人の作業員が巨大なレバーを引く。
両足を床に縫い止めるロックが外された。
モニターの中ではサブオペレーターの男が隣のニーファに顔を向けた。
『魔光回路チェック、一番から八番まで良好。行けます!』
『いいですね、アリアさん?』
「ええ」
『グランドレス、発進!』
ガシュッ!
レールを通ってグランドレスが射出された。
強い重力を体に感じながらも、私は目をしっかりと開いておく。空中で姿勢を変えて王都を見下ろした。高い塔がいくつも並んでいる。
「ブースター点火!」
背面のブースターが火を噴き、機体に推進力を与えた。
重鎧工房から北の防壁までは約二キロだ。十秒も経たないうちに壁面が見えてきた。
そしてその壁に大きな穴をあけている黒い影も。
あれは蛇……?
それにしてはぬるっとしているというか、少し横に広いかな。
『うなぎ……でしょうか?』
私を視認したのか、”それ”がこちらに顔を向けた。
巨大な円形の口に、細かく鋭いとげが内側に向けて無数に生えている。
「分かった! あれは、ヤツメウナギの化け物だ!」
よく見れば胴体の頭近くに左右それぞれ四つの目がついてこちらを睨んでいる。
『了解。以降より敵個体をオオヤツメと仮称します。グランドレス、頭は狙える?』
空中で背中からハルバードを取り出し、展開する。敵の上をとった。
オオヤツメは城壁の外側の地中からその体をのばして壁に乗り上げているようだ。
「いける!」
巨大魔獣が口を閉じた。
『待って。敵が何かを準備している。グラン、いったん回避して』
「このまま押し通る!」
戦闘が長引けばそれだけ市街地が傷つき人が死ぬ可能性が高い。ならばこそ、初撃で決めないと!
「グラァアン、ハルバァァア──え?」
オオヤツメが口を開いた。白いトリモチのようなものが発射され、グランドレスにぶつかる。トリモチは瞬間的に硬化した。
機体が推進力を失い、地面に落ちる。
「ぐはっ」
背中を強打した衝撃が体にフィードバックされた。
『機体立て直し、急いで』
「ちょっと待って。石みたいになってて、間接が……」
オオヤツメが首を大きく振りかぶった。
『フィードバック値下げて!』
ドゴンッ!
巨大魔獣の頭が立ち上がりかけていたグランドレスの側面にもろにぶつかり、吹き飛ばした。
巨大な岩の塊がぶつかったかと思った。その威力はすさまじく、民家や商店四つを破壊し、塔に機体をめり込ませることでようやく重鎧は止まった。
「ごっ、あぐっ、う……」
ギリギリでサブオペレーターがフィードバック値を下げたお陰か、全速力で壁にぶつかった程度の痛みで済んだ。
モニターには計器の異常を示すサインがいくつも出ている。
『アリアさん、大丈夫ですか』
「まだ、戦える……」
グランドレスを立ち上がらせると、硬化して白い石になったトリモチを力ずくで剥がす。
ボロボロと足元に石が落ちた。
……?
「追撃が来ない?」
『何らかの理由があって穴から出てこないのかもしれませんね。だとしたら……』
「速攻で戻ってあいつの頭をかち割ってやる」
『……その意気です。ただし、気持ちは高ぶっていても頭の芯はクールに。タイミングはわたしが指示します』
「了解」
作戦はこうだ。
まず、王都の防壁に設置されたバリスタで兵士たちが支援攻撃をしてくれる。
それでオオヤツメの気を引いた隙に接近、弱点と思われる頭をたたく。
ただし、ハルバードは先ほどの攻撃を受けて手放してしまい使えない。
『ポイント十六に新武器があります。存分に活用してください。それでは、ウナギ狩り作戦、始動です』
相変わらずなネーミングセンスだが、それでも気持ちは締まる。
「よぉし、行くぞ!」
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