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第23話 ツタカブリ③

 ドスッ。


 ハルバードの槍部分で貫くと、ブルーの腕は完全に動かなくなった。


『た、助かりましたわ』 


「まだ来る、止まらないで」 


 ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ。


 男の顔から、女の顔から、老人の顔から、続けざまに針が発射されるのをグランドレスのフォーカス機能が捉える。

 酒場の屋根を踏みつけ、三角跳びの要領で跳び上がって回避する。ブルーもジグザグに走って針を避けたようだ。


 でも、顔の数はまだまだある。


『アリアさん、バリスタを構えて』


 ニーシャがそう指示する。


「あの顔を、撃てと? で、でもあの人たちはひょっとしたら……」


『まだ生きているかもしれない?』


「だって、動いて、しゃべってる」


『可能性は確かにあります。教会にあるであろう本体の中に村人はとらわれていて、あの顔がつぶれてしまったら、わたしの母も、良くしてくれたパン屋のおじさんも、一緒に遊んだ友達も死んでしまうかも』


「じゃ、じゃあ」


 ブツッ。


 モニター越しに音が聞こえた。ニーファの唇から血がにじむ。


『それでも撃ちなさい。ミラージュが来ることを考えると村人を探し、対処法を考える時間がありません。はっきりいいます。村人百人の命よりも、グランドレスとあなたの命の方がずっと価値が高い。国防の要である起動重鎧を失うリスクを犯すわけにはいきません。例えそれが私の……家族であっても』


『そうですわ、アリアさん。お撃ちになって』


 機体を起こそうと四苦八苦しているミンの通信が入る。


『もしあそこにいるのがわたくしの可愛い領民たちであっても、わたくしなら躊躇せず引き金を引きますわ。それが、貴族としての務めですもの』


 ふぅ、ふぅ、ふぅ……。

 自分の呼吸の音がうるさい。


 やりたくない。逃げたい。他にもっといい手があると騒ぎ立てたい。

 けど……。


「ニーファ」



『はい』


「……どの顔から狙えばいいか、マーカーで支持して」


『はい』


 赤くマークされた中年の女性の口が大きく開き、針が見えかけている。


 ドシュッ。


 バリスタの矢は正確にその額を貫き、顔を潰す。血しぶきが上がった。

 左手を右腕のランチャーに添えて、次のターゲットに狙いを付ける。


 笑いジワのある日焼けしたおじいさん。

 額に傷のついたやんちゃな男の子。

 女性。男性。女性。男性。老人。老人。子供。子供。子供。


 右手のバリスタランチャーは、赤いマークが付いた顔を次々と撃ち抜いていく。


「あ、あ、あぁぁぁあああああああああああ!!!」


 グランドレスのコクピットの中で、ニーファとミンに見守られ、私は叫び続けた。

 連射を辞めると右手の武器が空転する音が聞こえた。


 何度も肩を上下し、息を吸い、吐く。


『ランチャー、残弾二。ツタカブラの顔、すべて消失しました』


 先端を潰された二十本のツタは茶色く枯れて地面や家の屋根に落ちた。



『ここからは、ミン様が先行して教会を目指してください』


「ちょっと、大丈夫なの?」


『おーっほっほっほ。さすがニーファさん、よく分かっていらして。アリアさん、巨大魔獣への一番槍はわたくしがいただきましてよ』


『アリア様、大丈夫です。ブルーには、グランドレスにない特殊な機能が備わっているので』


 それが何なのか聞く暇もなく、ミンが乗る片腕の青い機体はヒートランスを振りかざし意気揚々と進んでいく。


「ちょっと待ちなさいよ」


 私もあわててその後ろを追った。


 風が吹き土埃が舞い上がる中、教会は姿を現した。


「これ、は……」


 教会には巨大なツタが幾重にも巻き付き、まるで大木のようになっていた。

 本物のツタと異なる点は、日の光を受けるはずの葉が一枚もないことだ。


 こいつは植物ではなく、王国を襲う魔獣なのだ。


『行きますわよ』


 ミンがそう言うとモニターの中でレバーを大きく動かした。


「あ、待って」


 何が隠されているか分からない。まずは周囲の家をたたき壊してから……そう言おうとしたが、場慣れしていないミンはしゃにむにつっこんで行ってしまった。


 ミンの乗る機体、ブルーが教会の手前の地面に落ちたツタを踏んだとき、それは起こった。


 近隣の家々の屋根を突き破って灰色の(いばら)が次々と伸び、ブルーの機体にからみついた。


『きゃああああっ』 


 茨は今までのツタと違い金属のような光沢を持ち、いかにも頑丈そうだ。


 ブルーは欠損した左腕をのぞく、右腕と両足、さらには胴体を茨でからめ取られている。


『ミン、落ち着いてヒートランスで茨を焼き切って!』


 ニーファが急ぎ指示を出す。


『このっ、このっ』


 ブルーは右手に持った武器を振り回し、赤熱した穂先が茨に当たる。しかし、太い有棘鉄線のような拘束はぴくりとも緩まない。


 モニターの中でニーファが私を見る。


『アリア、ハルバード!』


「了解!」


 矛槍を振り上げ、茨に叩きつける。


 ガインッ!

 ハルバードがはじかれる。手にジーンとしたしびれがフィードバックされた。


「硬いっ」


『ちょっちょっちょっと、あれはなんですの!?』


 教会に巻き付いていたツタからひときわ太いものが、蛇のように鎌首をあげた。先端には紫のつぼみのようなものが見える。


『あれは……花です。注意して! 針を射出してくるかもしれない!』 


「オォォォォオオオオオオオオオンンッ!!」


 ツタカブリが声を出したのか、あるいは空気の通る音がしたのか、とにかく咆哮のようなものが村中に響いた。


 つぼみが開いて、まがまがしくも美しい紫の巨大な花が現れた。

 何が起きるかわからないが、急がないとヤバい気がする。


 鋼鉄の茨を前に、グランドレスの両手で武器を握り直す。

 大きく息を吸った。


「グラアアァァン、ハルバアァァアアアドオオオオ!!」


 ドガァッ!


 ハルバードが茨を断ち切り、その下の家を両断した。

ご愛読ありがとうございます。


これからも本作をよろしくお願いします。


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