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第18話 デート

「そうか。シリウスは王の肋骨の長をも兼ねている……可能性がある。それ以上は俺も調べられなかった。長生きしたいのなら、二人には気をつけることだ」


「覚えておく。ありがと」


「ふんっ。ここで甘くしたからといって、グランドレスに乗ること、まだあきらめたわけじゃない。それを忘れないことだな」


「分かってる。それに、あなたが私との婚約を破棄したことも、忘れないしね」


「ああ……そうだな」


 パチパチと薪が燃える。

 私たちは、しばし黙ってその音を聞いていた。



 外が騒がしくなり、探索隊が王太子と伯爵令嬢を探しに来る頃には、私たちは乾いた服を着てたき火に砂をかけて消していた。


 服が間に合ってよかった。上半身裸の王太子とインナーの私が目撃されたら、何かあったかもって噂が社交界に広まって、ただでさえ遠のいている婚期が地の果てにまで行ってしまうところだ。


「いやー、よかったですお二人が見つかって。私の首もギリギリつながりました。物理的に」


 シリウスが優男の顔に笑顔を浮かべた。裏表のない好ましい男、昨日までの私だったらそう思っただろう。


「……気取られるなよ」


 ガリアが私にだけ聞こえる声でそう言った。


「おい、状況を報告しろ!」 


 彼はいつにもまして偉そうな態度で家臣たちの群の中にずかずかと入っていった。


「災難だったね」


 優しい声が私の背中に投げかけられた。

 ジャン王子だ。


「怪我とかはない?」


「ありがとうございます。ガリア王太子にかばっていただけたようで、大丈夫でした」


「あー、兄さん体丈夫だからねー。避難先でも一緒にいたらしいけど、ひどいこと言われたりしなかった? その、ほら……」


 私は婚約破棄された側だからね。


「それも全然なかったです。むしろ気を使ってもらって」


 婚約者として接していたどの時間よりも、距離が近かったのは間違いない。物理的にも、心理的にも。


「ふーん」


 黒髪の王子は私の顔をのぞき込むようにして見てきた。


「アリア、明日予定は空いているかい? よかったらデートに行かないか?」


「へ?」


「王子!」


 騎士団長のシリウスが声を上げた。

 そうだよね、王族の方が軽々にデートなんて。


「明日は隣国の大使をもてなす用件が入っております」


 あれ?


「そうだったか。では明後日、いや明明後日は?」


「えー、午前中に港湾組合との打ち合わせが」


「午後は?」


「……担当者に警備プランの見直しをさせておきます」


「ああ、頼む。そんなわけで三日後だ。予定はいかがだろうか?」


「あ、いや、えーっと……空けておきます」


 前世と今世合わせても人生初のデートは、王子様とになりそうです。



 異世界から追放された男が、故郷へ帰り復讐するため魔術師となって世界を旅する物語であった。

 魔女、悪魔、天使など架空の種族が入り乱れての活劇が行われていた。 


 劇場で芝居を見た後、近くのレストランで軽食をとった。


「話自体は何度か観たものだけれど、今度のは雷の演出が残心だったね」


「ええ、びっくりしました。……ところで、いいんですか、王子がこんなところでご飯を食べて」


 腸詰めの挟まったサンドイッチを食べながら私が尋ねると、正面に座るジャンは爽やかに笑った。


「もちろんよくないさ。お忍びで来ていることが宰相のグスタフさんなんかに知られたら大目玉だ」


 でもね。と彼は続けた。


「こういう場所でなければ聞けない会話や見られない景色がある。もちろんここだけじゃない。本当は荷運びの現場やスラムにだって足を運びたいと思ってるんだ。……まあ、流石にこれは思ってるだけなんだけどさ」


 はっきりと安心したようなため息が、私たちの隣のテーブルから漏れた。体格の良い平福の男が二人。無関係を装って羊とキジの串焼きをかじっているが、その実ジャン王子の護衛である。


「外に出ようか」


 食事が一段落したところでジャンが声をかけた。

 秋の涼しい風が頬をなでた。

 富裕地区にあたるため、宝石や洋服の店が軒を連ねている。


「何か欲しいものはある? こう見えて王子だからね。国民から絞り上げた税金が財布にたっぷり入っている」


 ジャンが冗談めかして言った。もっとも伯爵令嬢である私も領民の税金と父の貿易の上がりとが収入なので同じ様なものだが。


「そうですね」 


 何も頼まないのもかえって失礼かと思い、周囲を見渡した。


「では、花が欲しいですわ」


 私の視線を追ってジャンが通りをみる。

 ひっそりとしたわき道から、少女が控えめに身を出していた。野花が一杯に入ったかごを手に持っている。


「……あなたは本当に変わられた」


 ジャンと護衛は少女に近づくと、かごごと花をすべて買い上げた。少し多めに金を渡したようだ。振って湧いた幸運に少女が口をパクパクさせる。


「荷物になるな。君の屋敷に届けさせよう」


 かごを持った護衛の一人はジャンの言葉にうなづくとその場を離れた。

ご愛読ありがとうございます。


これからも本作をよろしくお願いします。


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