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第12話 王国保有狩猟地

 王国保有狩猟地に来たのはこれが初めてだった。


 若い貴族を中心とした男たちは弓を持ち馬に乗り、年頃の娘(ガールフレンド)たちは彼らの活躍の様子を見守れるよう、森が開けた一画に集まっている。私もそんなうちの一人だ。

 もっとも周囲の女性たちはこちらを見てひそひそ話をするだけで、輪に入れてくれる様子は欠片もないが。


 国王の姿はない。

 シルフィが持ち帰った情報によると、国王は最近必要最低限の露出以外は人前に出ず、王宮にこもっているらしい。


 辺りを見渡すと騎士団員の姿が目立った。

 騎士団長シリウスを始め、鎧を着込んでこそいないものの武器を持った者たちが馬で、あるいは徒歩で辺りを警護している。ニーアの姿はないようだが、何人か見知った者たちもいた。


 会の主役の王子たちが現れた。

 ガリアとジャンを筆頭に狩猟用の服を着て弓を持ち馬に乗った凛々しい若者たち。

 彼らだけでなく、高等貴族の子女の何人かも男性用のズボンを履き、狩猟用の上着を着て馬に乗っている。


 ミンが栗毛色の馬に乗って女性陣の輪から外れた私の元へやってきた。


「あら、あらあらあら、もしかしてアリアさんは馬に乗れませんの?」


「馬には乗れる」


 私は言い返した。乗馬は淑女のたしなみの一つだ。


「ただ招待状にドレスで来るようにと書いてあったはずだけど?」


「ごめんあそばせ、わたくしったらそんなこと書いたかしら、覚えがなくって」

 クソ(ああ、淑女らしからぬ悪態を付いてしまって申し訳ありません)。これだからコイツら主催の催しごとに来るのは嫌だったんだ。


 ガリアが馬を上手に操ってミンの横に並べる。


「おい、ミン。始まる前に軽く周囲を見ておこう。獲物がとれるポイントを聞いてる。」


 そして馬上から私を見下ろした。


「箱入りのお嬢様はいじめは得意みたいだが、逃げ回る獲物相手の本当の狩りは苦手だろうからな。気を使ってやったんだ。感謝したらどうだ」


 元婚約者からの露骨な罵倒に頭に血が上り掛けるが、意識して息を吐く。


「……お気遣いいただきまして感謝いたしますわ、王子様。そうそう、以前お伝えしていなかったんですが、私新しい特技を得まして。……ロボットに乗ってこの国を守るというものですの。王子様も、もしロボットに乗ることがあれば私にご相談くださいまし。きっとよいアドバイスをできると思いますわ」


 ミンが息をのむ音が聞こえた。


 ヒーロー志望の単純バカは、私の嫌みに顔を真っ赤にしている。

 言ってやったぞ、ざまあみろ。


 ──と思ったところまではよかったのだが、王太子は拳を白くなるまで握りしめ、額に浮いた血管がぴくぴくしている。

 あ、やばい、ちょっと怒らせすぎたかも。


 あの弓で射られたら、お嬢様生まれお嬢様育ちの華奢なこの身体などひとたまりもないだろう。


 ジャンは若手貴族たちとなにやら話し合っていてこちらに気づいてはいない。

 え、大丈夫だよね。

 撃たれないまでも蹴られたりとか……


「どうされました?」


 怒鳴るにせよ手を出すにせよ、ガリアがアクションを起こす寸前に、柔和な、しかし意志の強い声が差し込まれた。 


 騎士団長シリウスだ。黒い大きな馬に乗り、肩までの茶色の髪の下でいつもの笑顔を作っている。背中には団長自慢のバスターソードを背負っていた。


「何でもないですわ。ただ、アリアさんが婚約を破棄したガリア様に一言二言恨み言を言っただけで」


 ミンが言った。恨み言ね。それなら今から明日の朝までだって言えるけど。


「ねえガリア様ぁ。つまらない女のことよりも、わたくし早く狩りのポイントを見て回りたいですわぁ」


 馬上でガリアに身を寄せながらミンが猫なで声を出した。 

 ガリアはシリウスを見て、そのあと私をにらみつけた後、不作法につばを木の根本に吐き、森の中へと馬の頭を回し去っていった。


「大丈夫でしたか?」


「ええ、ありがとう。大したことありません。ミン……さんが言ったとおり、元婚約者同士、少し話をしただけです」


「なるほど」


 シリウスは目を少し細めて私を見た。鍛えられた体に似合わぬ優男然とした顔だ。

 彼が女好きなのは王宮のゴシップでは誰もが知っている一般常識だったが、一方でこんな噂もある。シリウスは本命がいて、その人の注意を引きたいがために派手に浮き名を流しているのだと。


 騎士団長はひらりと優雅に馬を下りると、私のすぐ横に立った。


「ほら、見えますか」


 片手をあげるとかすかに香水のにおいがした。彼が指を指した先では男たち(それと幾人かの女たち)による狩りが始まろうとしていた。


「従者たちが森を回って獲物を探し、追い立てます。獲物、今回はシカの予定ですが、はてんでバラバラに走る様でいて、その実法則性のある動きをする。彼らが逃げる先にはまた別の従者がいて大声を出して方向転換させる。そうすると……」


 男たちが興奮した声を出した。


 数頭のシカが森から駆けだしてきたのだ。何本も矢が射かけられそのうちの一本が太ったシカの首に刺さる。

 四本足の獣はそれでもなお十数メートルを走ったが、やがてよろよろと雑草の上に倒れた。


「幸運を手にしたのはジャン王子のようですね」


 シリウスの言葉に思わず顔をほころばせる。あの黒髪の王子は好ましい。

 男たちはひとしきりジャンをほめそやすと従者にシカの処理をするように命じ、次の狩りのためにポジションに付いた。


「さてと、私も行かなくては」


 シリウスはそう言うとひらりと馬に乗る。


「ここは王国保有狩猟地とはいえ、狩りには危険が付き物です。くれぐれも孤立せず、可能なら騎士団員のそばにいるよう心がけてください。それと、東の方へ行きますと切り立った崖になっておりますので、近寄らぬよう」


 騎士団長はそう言って去っていった。

 もともと私はここから動くつもりはない。


 それから数十分暇な時間を過ごし、また従者たちがシカの群を見つけたようだ。

 勢子役が声を出す。


「おーーい、おーーい、うわっ、ぎゃっ!!」


 不穏な声に場がざわつく。

 だが、首尾よく二頭のシカが森から追い出された。普通のサイズのと、二メートルほどの大きなものと。


 奇妙だった。大きなシカは、弓矢を持った男たちに目もくれず、また背後を気にする様子もなく、目の前のシカを追いかけているようだった。


 ドガッ!


 大きい方が逃げるシカに頭からぶつかった。小さい方が倒れる。


「ケーーーーーーンッ!」


 大鹿はそう吠えると後ろ足で立ち、倒れた同胞の頭を踏みつぶした。

ご愛読ありがとうございます。


これからも本作をよろしくお願いします。


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