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「ラジオの裏側で」番外編です。
瀬田と久保の話になります!短い話になりますがお付き合い頂ければ♪
時系列的には本編の「7゜」の後ぐらいになります。
※ 久保の身長を一問一答の方と合わせました…(2025/05/10)
「何で西條にキスする必要があったんだよ」
帰る途中、こっちを見て怒ってるのは俺、久保陸也の恋人、瀬田瑞樹だ。
さっきまで瀬田と西條と久保の三人で飲んでいて、自宅の方向が違う西條とはお店の前で分かれた。
西條蒼は久保と瀬田が仕事をしているラジオ局の社員で、現在は瀬田が担当している番組のプロデューサーだ。
瀬田と西條は何かとつるんでる事が多く、今日も二人で飲んでいる所へ電話で呼び出された。
呼び出された理由が瀬田の機嫌を損ねる内容だったから、急いで顔を出したというわけ。
瀬田と久保が恋人同士だという事は幼馴染の横川優斗しか知らないため、飲んでいる時にはそうだと分かる話は一切しない。なので二人になった今、文句を言ってきたのだろう。
瀬田は女の子にしか見えない可愛らしい顔立ちで身長も189センチある久保より20センチ以上低い。
クリっとした目に長い睫毛、色白で骨格も華奢なのでよく男にナンパされるってボヤいていた。
そんな瀬田が怒った顔をしたところでこっちとしては可愛いとしか思わないのだが、それを顔に出すと更に怒られるので反省してるフリをしておいた。
「ごめんって、ちょっと西條にイジワルしたくなっちゃってさ」
「そうやって面白がって引っ掻き回すの、久保さんの悪い癖だっていつも言ってるだろ。いい大人が何やってるんだか…」
「だからさっきから反省してるだろ」
「反省してる態度じゃないと思うけど」
瀬田は普段、人当たりがよくニコニコしてるので騙されるが、年上にでも臆する事なく言いたい事は言う。負けず嫌いで口が達者なので口喧嘩すると久保が必ず負ける。というか、久保の方が折れる。
口では絶対に勝てないのにこのやり取りが好きで、何かしら瀬田に怒られることをやっちゃうんだよな。
そんなことを考えていたからか、どうやら顔がニヤけてたらしい。
「またロクでもない事考えてるだろ…もう、知らない」
口を尖らせてプイッとそっぽを向いた瀬田が可愛くて思わず後ろから抱きしめて頭のテッペンにキスをした。
「おい、ここ外…」
「大丈夫、誰も見てないって」
瀬田は慌てたが、周りに人がいないかぐらいはちゃんと確認してる。
瀬田の耳元に顔を近づけ、
「瑞樹、もう機嫌直してよ」
「…その言い方、ずるい」
恋人の名前を呼ぶ声にわざとらしく甘さを乗せて囁くと、返事をする瀬田の声は掠れていた。
この後どうなるのか、一瞬で想像したのだろう事は分かりきってる。
「…うち、来るんだろ?」
「行っていいのか?明日休みなのに仕事しないといけないから大変だって言ってただろ。だから今日は送るだけで帰ろうかと思ってたんだけど…」
さっき甘く名前を呼ばれた事でスイッチが入ったらしい。瀬田は視線を落として道路を見つめたまま恥ずかしそうに誘ってきた。
無意識だろうが久保の服の袖を掴んでいて、それも最高に可愛いい。今どき女の子でもしないだろって思うが瀬田がすると妙に似合うから困る。
そんな瀬田を見ると久保はいつもイジメたくなって焦らしてしまう。
普段は絶対に勝てない相手なのに、スイッチが入るとすごく従順でかわいい。そして最高にエロい。
そのギャップが激しくて、久保はどんどん瀬田という沼にハマってしまっている。
「大丈夫だから…来いよ…」
顔だけ振り返って見上げてきた瀬田の目が潤んでいて、それだけで妙なエロさが漂っている。
思わず抱きしめる手に力がこもった。
「早く帰って瑞樹を抱きたい」
瀬田は何も言わずに頷いた。
部屋のドアを閉め鍵をかけるとすぐ、瀬田が久保の首に腕を絡めキスをねだってきた。
潤んだ目で上目遣いで見つめられると久保の理性は完全に無くなり、たまらず瀬田の腰を抱きキスをしていた。
唇を軽く噛んだ後、舌で唇をなぞると瀬田が久保の舌を招き入れるように口を少し開いた。
すかさず舌を差し込み、口腔を撫でるようにしてから瀬田の舌を絡め取ると甘い吐息が漏れ出した。
「んっ…」
唇を離すと唾液がキラキラと細い銀の糸になってお互いの唇を繋いでいた。
キスだけで目がとろんとした瀬田の口の端からは飲み込みきれなかった唾液が垂れていて、それを舌で掬って戻してやるとまた舌を絡めてきた。
「キスだけでこんなになってるのか?」
久保は意地悪そうに言って瀬田の下半身を触った。
「…誰のせいだよ」
「俺のせいだな。ベッドに行くまで待てるか?」
耳元で囁くと擽ったいのか、瀬田はギュッとしがみついて頷いた。
思えば、瀬田と初めて会ったのは入社した年の7月中旬、俺がまだ先輩に付いて研修をしてる時で、制作会社にバイトとして入ってきたのが当時18歳の瀬田だった。
いつも笑顔でコミュニケーション能力が高く、周りにあっという間に馴染んでいって仕事を覚えるのも早かった。
可愛らしい男の子だなと思った記憶はあるが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
雰囲気が完全にノンケだったので手を出す出さない以前に興味すら湧かなかった。
そんなある日、兄貴がオーナーをしているゲイバーで飲んでいたら入り口がザワザワとしてる事に気づいた。
誰か初めてさんが入って来たのか、数人が声をかけている。すぐに声をかけるなんて珍しいなと思い気になってよく見ると、中心にいたのは瀬田だった。
瀬田は複数の男にナンパされていたようで、不機嫌そうに眉を寄せて、声をかけてくる男どもを順番に睨んでいた。
「はぁー。しょうがない…」
見かねて助けに行くと、瀬田は久保に気付いて固まった。
「…なんで?」
「いいからちょっとこっち来い」
そう言って瀬田の腕を引っ張って事務所に連れて行った。
先に瀬田を部屋に入れ、後から入って後ろ手にドアを閉め鍵をかけた。
まだ何が起きたのか理解してないといった表情で固まっていた瀬田を、とりあえずソファーに座らせて落ち着くのを待つ。
その間に近くのデスクに腰掛け、腕を組んで瀬田を観察するが、どう見てもこんな所に来るような感じには見えないんだけどな…そう思っていたら
「どうしてここに久保さんがいるんですか?」
「それはこっちのセリフだ。お前はノンケだと思ってたけど違うのか?それに未成年じゃなかったか?」
久保が眉間に皺を寄せ若干イラついたように聞くと、瀬田は一瞬目を逸らし気まずそうな雰囲気を出したものの、それが何?と言わんばかりにこっちを睨んできた。
「ゲイの友達から話を聞いて、どんな所なのか興味が湧いたから一度来てみたくなったんだよ」
「で、一人で来たのか?」
「見れば分かるだろ」
さっきまで固まっていたが、今は久保に対してかなり喧嘩腰だ。
「お前、なんか普段と感じ違わないか?まぁ、今はいいや。それよりも初めてならその友達と来いよ。一人で行くなって言われなかったか?」
久保は思わず「はぁー」と大きなため息を吐いた。
「久保さんには関係ないじゃないですか。というか、このお店にいるってことは久保さんはゲイなんですか?」
「確かに瀬田が誰と仲良くなろうが俺には関係ないな」
質問には答えずに立ち上がって距離を詰めると、瀬田は更にこちらを睨んでくる。
「お前、かわいいな」
「はぁ?」
まるで毛を逆立てて威嚇してくる猫みたいで可愛く思えてきた。瀬田の前に立ちソファーの背に両手を置いて逃げられないようにしてからキスをする。
舌で唇をなぞるように刺激すると瀬田の口から吐息が漏れた。
「ふぁ…」
その隙に口腔に舌を差し込み瀬田の舌を絡め取る。クチュクチュと淫猥な音が部屋に響き、逃げようとする瀬田の後頭部を手で押さえた。さらに貪るようにキスをした後、軽く唇を噛んで離れた。
「うぅ…や…ぁ…」
瀬田の口の端から飲み込めなかった唾液が垂れている。久保はそれを親指で拭って瀬田の口中へ戻した。
「今日のところはキスだけで済んで助かったと思っておけ」
久保がそう言った途端、瀬田はハッとしたようにソファーから立ち上がり距離をとった。
「お前、こういった店に来るとどうなるのかぐらい想像できただろ」
「…分かってる」
「そうか。じゃあ俺が相手でも問題ないな。一晩付き合えよ」
久保は「ククッ」と喉で笑って獲物を見つけたと言わんばかりの目を瀬田に向ける。
「え?」
「え?じゃない。行くぞ」
そう言ってまだ現状を把握していない瀬田を裏口から連れ出した。




